123 どういう問題?
夕方。
コンビニの中は、少しだけ落ち着いた空気が流れていた。
レジの前に立つ蒼は、商品をスキャンしながら淡々と作業をこなす。
「ありがとうございましたー」
客が出ていく。
少しの静寂。
そのとき̶̶
「よっ」
聞き慣れた声がした。
顔を上げる。
「……太陽?」
入口に立っていたのは、岡本太陽だった。
ラフな格好のまま、軽く手を上げている。
「珍しいな」
蒼が言う。
太陽はそのままレジに近づく。
「バイト中悪いな」
「ちょっと用事あって」
「なんだよ」
蒼が眉をひそめる。
太陽は少しだけ間を置いてから言った。
「試合、出ねぇか?」
「……は?」
一瞬、時間が止まる。
七海が品出しの手を止めて、こちらを見る。
太陽が続ける。
「今度、試合あんだよ」
「人数足りなくてさ」
「助っ人頼みたいんだ」
少し間を置いて̶̶
「たかだかサークルの試合だぜ?」
「ピッチャーじゃねぇから安心しろ」
「ファーストでいい」
「打つだけでいいから」
その言葉が̶̶
妙に現実味を持って響く。
「……」
蒼は視線を落とす。
少しだけ、考える。
頭の中に浮かぶのは̶̶
バッティングセンター。
あの感触。
あの音。
「……いや」
小さく首を振る。
「やめとく」
短く答える。
太陽は少しだけ眉をひそめる。
「なんでだよ」
「別にピッチャーやれって言ってるわけじゃねぇぞ」
蒼が少しだけ顔を上げる。
「……そういう問題じゃねぇよ」
少しだけ、自嘲気味に笑う。
そのとき̶̶
「でも」
横から声が入る。
七海だった。
二人の間に割って入るようにして立つ。
「この間、めっちゃ打ってたじゃないですか」
蒼がちらっと見る。
七海は続ける。
「130キロ、普通に打ってましたよね?」
太陽の視線が蒼に向く。
「……マジか?」
少しだけ驚いたような声。
蒼は面倒くさそうに頭をかく。
「いや、あれは……」
「いけるじゃないですか」
七海が言い切る。
まっすぐな目。
「せっかくできるのに、やらないのもったいないです」
少しだけ強い口調。
蒼は言葉を詰まらせる。
「……」
太陽も何も言わずに見ている。
静かな圧。
蒼は小さく息を吐く。
「……ファーストだけだぞ」
ぽつりと呟く。
太陽の口元が少し緩む。
「それでいい」
七海がぱっと笑う。
「やった!」
「まだ決まってねぇだろ」
蒼がぼそっと言う。
「いや決まりですよ」
七海は即答する。
蒼は少しだけ苦笑する。
「……ったく」
少しだけ間を置いて。
「……分かったよ」
渋々、といった様子で言う。
太陽が軽く頷く。
「助かる」
短い言葉。
でも、それだけで十分だった。
⸻
レジの外では、夕方の光が少しずつ落ちていく。
蒼はふと、手を止める。
(……試合、か)
胸の奥が、わずかにざわつく。
不安と̶̶
ほんの少しの高揚。
その感覚に、自分でも少しだけ驚いていた。




