117 おせぇな
翌日。
駅前は、休日らしく人で賑わっていた。
まだ少し暑さは残っているが、
風はどこか秋の気配を含んでいる。
蒼は改札前の柱にもたれながら、スマホに視線を落としていた。
(……ちょっと早すぎたか)
時計を見る。
集合時間の10分前。
「まあ、こんなもんか」
小さく呟く。
それから、しばらくして̶̶
「……」
「……来ねぇな」
視線を上げる。
時計を見る。
集合時間を過ぎていた。
(まあ、七海だしな)
そんなことを思いながら、軽く息を吐く。
さらに時間が過ぎる。
20分。
人の流れが少し変わる。
「……おせぇな」
ぼそっと呟いた、そのとき̶̶
「蒼先輩!」
聞き慣れた声が響く。
振り向くと、少し息を切らした七海が走ってきた。
「ごめんなさいっ!」
「お待たせしました!」
蒼は一瞬だけ間を置いてから言う。
「……30分も待ったぞ」
七海は勢いよく頭を下げた。
「ほんとごめんなさい!」
「ちょっと準備に時間かかっちゃって……」
「まあ、いいけど」
蒼は軽く肩をすくめる。
「気にしてねーよ」
そう言ってから、少しだけ視線を外す。
「……お前になんもなくてよかったよ」
その一言に̶̶
七海の動きが一瞬止まる。
「……っ」
ほんの少しだけ、頬が赤くなる。
ドクン、と心臓が跳ねる。
「……蒼先輩って」
七海は少しだけ目を細めて、口元を緩めた。
「ほんと、サラッとそういうこと言いますよね?」
蒼は怪訝そうに眉をひそめる。
「は?」
七海はくすっと笑う。
「そーいうこと、色んな女の子に言ってるんじゃないんですかー?」
からかうような口調。
蒼は呆れたようにため息をつく。
「お前ってやつは……」
「別に言ってねーよ」
「はいはい、どうだか」
七海は楽しそうに笑った。
少しだけ空気が和らぐ。
蒼は気を取り直すように言う。
「それで?」
「どこ行くんだよ」
七海は、ふふんと胸を張る。
「ふふーん」
少し得意げな表情。
「今日は̶̶」
一歩前に出て、振り返る。
「体動かしますよ!」
にやっと笑う七海。
その表情に、蒼は少しだけ嫌な予感を覚えた。
「……は?」




