112 葛藤と思い
あれから、一週間が経った。
気づけば、夏休みも終わりに近づいている。
夕方の空は、少しだけ色を落としていて、
どこか季節の終わりを感じさせた。
蒼は、バイト先へ向かう道を歩いていた。
足取りは、いつも通り。
特別重いわけでも、軽いわけでもない。
ただ、いつも通り。
「……」
ふと、視線を上げる。
あの夜の光景が、頭の中に浮かぶ。
夜空に広がる花火。
その下で、向き合った言葉。
̶̶蒼くんのこと、好き。大好きだよ。
̶̶でも、付き合えない。
「……はぁ」
小さく、息が漏れる。
「……凛のことは、好きだ」
それは、もうはっきりしている。
迷いはない。
でも̶̶
「……じゃあ、愛菜は?」
自然と、浮かんでしまう。
笑っていた顔。
少し拗ねた顔。
最後に見た、あの表情。
「……ちゃんと、終わったはずなんだけどな」
ぽつりと呟く。
自分で決めて、前に進んだはずだった。
それなのに̶̶
「……だっせぇな」
苦笑が漏れる。
愛菜は、ちゃんと前を向いていた。
あんなふうに、きっぱりと。
それに比べて̶̶
「……俺だけかよ」
まだどこかに残っているのは。
歩きながら、小さく首を振る。
考えすぎだ、とでも言うように。
「はぁ、一旦考えんのやめよ」
無理に結論を出そうとはしない。
今は、ただ。
前に進むしかない。
そう思って、足を止めなかった。




