111 様々な余韻
花火の音は、もう聞こえなかった。
夜空には、さっきまでの光の残像だけが、うっすらと残っている。
蒼は、一人で歩いていた。
祭りの人混みから少し離れた道。
さっきまで隣にいたはずの存在が、もういない。
足音だけが、やけに響く。
「……」
何も考えられない。
いや̶̶
考えようとすると、胸の奥が詰まる。
「……付き合えない、か」
ぽつりと、呟く。
自分の声が、やけに遠く感じた。
凛は、笑っていた。
泣きながら。
それでも、笑っていた。
「……なんだよ、それ」
少しだけ、苦笑が漏れる。
好きだと言われた。
大好きだとも。
それでも̶̶
「……ダメって」
立ち止まる。
夜空を見上げる。
もう花火は上がらない。
ただ、静かな夜が広がっているだけだ。
「……俺は」
言葉が続かない。
何を言おうとしたのか、自分でも分からない。
ただ。
胸の奥に、残っているものがある。
凛の言葉。
愛菜の涙。
あのときの背中。
「……」
ゆっくりと、息を吐く。
凛は言っていた。
̶̶蒼くんの中に、ちゃんといるよ
̶̶愛菜ちゃん
無意識に、拳が握られる。
「……わかんねぇよ」
小さく、吐き出す。
何が正しいのか。
誰を選べばいいのか。
そもそも̶̶
自分は、何を選びたいのか。
答えは、まだ出ていない。
「……でも」
少しだけ、前を見る。
暗い道の先。
それでも、足は止まらない。
「……このままってわけには、いかねぇよな」
誰に言うでもなく、呟く。
ゆっくりと、また歩き出す。
一歩ずつ。
確かめるように。
夜風が、少しだけ強く吹いた。
遠くで、まだ祭りの音がかすかに聞こえる。
その中で̶̶
蒼は、一人歩いていく。
答えを探すように。
そして̶̶
まだ、何も決まっていない未来へ。




