110 答え
花火の音が、少しずつ遠ざかっていく。
さっきまで鮮やかだった光も、
もう夜の中に溶けていた。
蒼は、言葉を失っていた。
「……え」
小さく、漏れる声。
凛は少しだけ視線を落とす。
それから、ゆっくりと口を開いた。
「……愛菜ちゃんのこと」
少しだけ間を置く。
「……聞いた」
蒼の体が、わずかに強張る。
凛は小さく笑う。
でもその笑顔は、どこか寂しそうだった。
「愛菜ちゃんね」
少しだけ言葉を選ぶように間を置いて。
「蒼はきっと、凛ちゃんのことが好きだって言ってた」
蒼は驚いたように目を見開く。
凛は続ける。
「だから、自分はフラれるって分かってるけど」
「それでも気持ちだけ伝えたいって」
「……すごいよね」
少しだけ、声が震える。
「ちゃんと分かってて、それでも好きって言えるの」
蒼は何も言えない。
凛は顔を上げた。
まっすぐ、蒼を見る。
「愛菜ちゃんにね」
少しだけ笑って。
「蒼の隣は凛ちゃんがいいよって、言われたの」
一瞬、沈黙が落ちる。
そして̶̶
その笑顔が、少しだけ崩れる。
「でもね」
小さく、首を振る。
「やっぱり違うの」
蒼の胸が、強く締め付けられる。
凛は、はっきりと言った。
「蒼くんの隣は̶̶」
一瞬、言葉が詰まる。
それでも。
逃げずに、言い切る。
「愛菜ちゃんじゃなきゃ、ダメなんだよ」
静かな夜に、その言葉だけが落ちる。
蒼は思わず言い返そうとして̶̶
言葉が出ない。
凛が、そっと続ける。
「違わないよ」
優しく。
でも、はっきりと。
「蒼くん、自分で気づいてないだけ」
蒼の言葉が止まる。
凛は続ける。
「蒼くんの中にね」
「ちゃんと、いるよ」
「愛菜ちゃん」
胸に手を当てる。
「ここに」
蒼は、何も言えなくなる。
凛は少しだけ目を細める。
「さっき、愛菜ちゃんと話したって聞いたとき」
「……やっぱり、って思った」
小さく笑う。
「全部終わったわけじゃないんだなって」
風が、静かに吹く。
凛の髪が揺れる。
「私ね」
少しだけ視線を落とす。
「ずっと、感じてたんだ」
「バーベキューのときも」
「海で二人で買い出しに行ったときも」
「……なんか、二人だけの空気があるなって」
蒼の表情が、揺れる。
凛は続ける。
「私じゃ入れないところがあるって」
少しだけ、寂しそうに笑う。
「だからね」
顔を上げる。
涙はもう止まっていた。
「私が隣にいたら」
「きっと、どこかで苦しくなる」
蒼だけじゃなくて。
「……私も」
静かな声で言う。
「そんなの、嫌なんだ」
一瞬の沈黙。
凛は、最後にもう一度だけ笑った。
「だから̶̶」
優しく。
でも、はっきりと。
「付き合えない」




