109 告白
人の少ない場所。
少し離れた高台のようなところ。
祭りの喧騒は遠くなり、
代わりに、夜の静けさが広がっている。
「ここ、いいでしょ」
凛が小さく笑う。
蒼は頷いた。
「……ああ、いいな」
そのとき。
夜空に、最初の花火が上がった。
――ドンッ。
光が広がる。
赤、青、金色。
次々と夜を彩っていく。
二人は並んで、それを見上げていた。
しばらく、言葉はなかった。
ただ、花火の音だけが響く。
やがて̶̶
蒼が口を開いた。
「……さっきさ」
凛は視線を空に向けたまま、少しだけ耳を傾ける。
「愛菜と、話してきた」
その言葉に、凛の表情がわずかに揺れる。
蒼は続ける。
「全部、聞いた」
「……あいつ、俺のこと、まだ好きだって」
一瞬、間が空く。
花火の音が、その沈黙を埋める。
「それでも̶̶」
蒼は、少しだけ拳を握る。
「背中、押してくれた」
凛は、小さく息を吐いた。
「……そっか」
少しだけ、寂しそうに笑う。
「やっぱり愛菜ちゃん……」
蒼は、凛の方を見る。
そして̶̶
はっきりと言った。
「俺は」
一瞬、息を整える。
「凛のことが好きだ」
花火の光が、二人の顔を照らす。
「最初に会ったときから、なんか気になってて」
「一緒にいると楽しくて」
「優しくて、でもちょっと抜けてるところもあって」
「そういうとこ、全部好きだ」
凛は、静かにその言葉を聞いている。
「もっと一緒にいたいって思うし」
「これからも、ずっと側にいたい」
蒼は、まっすぐ凛を見る。
「だから」
少しだけ、声が震える。
「俺と、付き合ってほしい」
花火が、大きく夜空に広がる。
音が、遅れて響く。
凛は、少しだけ俯いた。
肩が、小さく震えている。
そして̶̶
顔を上げた。
目には、涙が浮かんでいた。
それでも、笑っていた。
「……蒼くんのこと、好き」
一瞬、言葉を区切る。
そして、もう一度。
「……大好きだよ」
蒼の目が、わずかに揺れる。
凛は続ける。
「優しくて」
「ちゃんと周り見てて」
「困ってる人、放っておけなくて」
「そういうとこ……すごく好き」
涙が、頬を伝う。
それでも̶̶
笑っていた。
「一緒にいると、楽しくて」
「安心できて」
「……もっと一緒にいたいって、思う」
蒼は、息を呑む。
その“続き”を待つ。
凛は、少しだけ唇を噛んで̶̶
それから、ゆっくりと言った。
「でも̶̶」
一瞬、言葉が止まる。
それでも、逃げずに。
「私」
涙をこぼしながら。
それでも、笑ったまま。
「蒼くんとは、付き合えない」
花火が、夜空に咲く。
大きな音が響く中で。
その言葉だけが、はっきりと残った。




