10 ちゃんと聞くからさ
三郎は蒼の顔を見て、にやりと笑う。
「おいおい蒼……愛菜って、お前のこと好きなんじゃね?」
蒼は少し罰の悪そうな顔をして首を横に振る。
「いや……そんなことないって」
三郎はすぐに身を乗り出した。
「えー、なんで分かんだよ?」
蒼は少し俯き、小さく呟く。
「だって……あんな別れ方しといて……」
その言葉を聞いた瞬間、三郎の目が大きく開かれた。
「え、お前……愛菜と付き合ってたの!?」
蒼は一瞬だけ息をのむ。
だが、すぐには何も答えなかった。
胸の奥で、昔の記憶がゆっくりと動き始める。
複雑な思いが、静かに渦を巻いていた。
そんな蒼の表情など気にする様子もなく、三郎は次々と質問を投げる。
「で、なんで別れたんだよ? 肩のこととか、色々あったのか?」
蒼は視線をそらし、少しだけ口ごもる。
「……それは、色々あって」
三郎は眉をひそめる。
「ふーん、そっか。でさ、今どう思ってるわけ? まだ気持ち残ってるとか?」
蒼は小さく首を振り、目を伏せた。
「いや……もう、それは……」
言葉は途中で止まる。
三郎は笑いながらも、どこか真剣な目で蒼を見る。
「お前、正直に言えよ。俺には隠せないだろ?」
蒼は困ったように笑い、結局何も答えないまま視線を落とした。
はっきりと言葉にすることができなかった。
しばらくして、三郎が再び口を開く。
「なあ……やっぱ気になるんだけどさ」
蒼は顔を上げる。
「お前と愛菜が付き合ってた時の話、聞かせろよ」
蒼は少し俯き、静かに息を吐いた。
「……分かったよ」
少し間を置いてから、続ける。
「ちょっと長くなるけど……聞くか?」
三郎はにやりと笑った。
「おう。ちゃんと聞くからさ」
蒼はゆっくり目を閉じる。
そして、頭の中で時間を遡っていった。




