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蒼色の恋に。  作者: ひろねる


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104/155

103 当日

花火大会当日。

夕方前。

蒼は部屋の鏡の前で、軽く服を整えていた。

Tシャツの裾を直し、少しだけ髪を触る。

(……なんか落ち着かねえな)

理由は分かっている。

今日は、凛との約束がある日。

そしてその前に̶̶

愛菜と会う。

蒼は小さく息を吐くと、スマホと財布をポケットに入れた。

「……行くか」

部屋を出る。

待ち合わせ場所は、花火大会会場近くの少し外れた公園の一角。

人通りはほとんどない。

メインの会場とは少し離れていて、

屋台の賑やかな音も、ここまで来ると少しだけ遠く感じる。

夕方の空気は、まだ少しだけ明るさを残していた。

蒼は指定された場所に立ち、周りを見渡した。

(……静かだな)

ざわめきはある。

でも、どこか落ち着いている。

そんな場所だった。

そのとき。

「蒼」

声がした。

振り返る。

そこには、愛菜が立っていた。

いつもより少しだけ雰囲気が違う。

私服も、どこか気合いが入っているように見える。

蒼は軽く手を上げる。

「おう」

愛菜も小さく頷いた。

「待った?」

「いや、今来たとこ」

短い会話。

それだけで、少しだけ沈黙が落ちる。

遠くから聞こえる人の声。

でも、この場所は静かだった。

蒼は視線を少し逸らしながら言う。

「……こっち、静かだな」

「うん」

愛菜は小さく頷く。

「ちょっと落ち着いて話せるかなって思って」

その一言で、蒼は少しだけ理解する。

(……やっぱりな)

軽く息を吐く。

また、沈黙。

でも今度は、さっきよりも少し重い。

やがて、愛菜が口を開いた。

「こうやってちゃんと話すの、久しぶりだね」

蒼は少しだけ苦笑する。

「……そうだな」

高校の頃は当たり前だった時間。

でも今は、少しだけ遠い。

愛菜は続ける。

「なんか、不思議な感じ」

蒼は小さく頷く。

「分かる」

風が少しだけ吹く。

愛菜の髪が揺れる。

蒼はそれをぼんやりと見ていた。

やがて̶̶

愛菜が、ゆっくりと蒼の方を向いた。

「ねえ、蒼」

その声で、空気が変わる。

蒼も視線を向ける。

「……ん?」

愛菜はほんの少しだけ間を置いて̶̶

「ちょっとだけ、いい?」

その表情は、真剣だった。

蒼は一瞬だけ息を止める。

(……来る)

そう思いながらも、ゆっくりと頷く。

「……いいよ」

その一言で、もう逃げ場はない。

遠くで人のざわめきが聞こえる。

でも、この場所だけは静かだった。

空は少しずつ、夕焼けに染まり始めている。

̶̶そして。

愛菜が、口を開いた。

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