表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/38

35 走れ

 野次馬の輪に戻ると、警察官は中年女性としゃべっていた。辺りに江崎の姿がない。


「ねえ、江崎がいないんだけど」


「麗奈さんのとこにでも行ったんじゃないの」


「何しに?」


「知らないよ」


「俺、麗奈に自首してほしいんだけど、もしかして江崎も……。いや待て、あいつストーカーだぞ。目撃したって脅すつもりじゃ……」


 倫太郎は眉を寄せた。


「麗奈さん、通り魔かもしれないんだよ。そんな脅しにびびるほど弱くないでしょ」


 確かに。もはや、誰が危険なのか、順位づけに悩む。


「そうだけど、一応麗奈も女の子だし。心配だよ」


 倫太郎は、何も言わずに犬をなでている。


「でさ、イラつかれるのわかってるけど、麗奈んとこ、行かない?」


「なんで」


「自首すすめるのと、あと、江崎のことも伝えたい」


 もうすぐ消えちゃうから、最後に……。の言葉は、飲み込んだ。


「また、そうやってかっこつける」


「本心だよ。頼む! 麗奈に何かあってからじゃ遅いだろ」


 倫太郎は、そっぽを向いていたが、舌打ちをした後に「わかったよ」と言葉を吐き捨るように言った。


「タカシ、ゴー!」


 倫太郎の声を合図に、高志とタカシは走りだした。



 マンションに走りながら、今夜のことを整理する。

 倫太郎は、ススムに頼まれて麗奈をつけていた。江崎も、止ようとしていたのかもしれないが、あいつに関しては、ただのストーカーの延長かもしれない。

 とにかく今は、江崎よりも先に麗奈のところへ行きたい。

 一応、好きだった人だ。最後くらい、人のために動いてもいい。


 だが、倫太郎の背中を見ていると、引っかかるものがある。

 自首させる、江崎のことも伝える。

 危険な女に、危険なやつの存在を伝えることを、倫太郎に託して良いのだろうか。

 その場に江崎がいる可能性もある。


 間もなくマンションだが、今さらになって不安が込み上げてきた。その不安が、凶暴なほどに膨らんでいく。


 考えている間に着いてしまった。倫太郎がエレベーターの押しボタンを連打した。

 エレベーターは8階で止まっている。

 江崎が先に着いたのかもしれない。


 ようやく降りてきたエレベーターに急いで乗り込むと、誰かが後ろから駆け込んできた。

 振り返り、はじかれたように壁際に跳びずさった。

 

 自殺男だ。


 男は、倫太郎の背後に移動した。頭頂部の匂いをかぐように、ぴたりとついている。


 犬に目を向けると、犬は男ではなく、こちらに犬歯を見せていた。まじでこいつは――。

 犬の視線に追いやられるように角に寄り、肩を狭めて階数表示を見上げた。


 ドアが開くなり、廊下に飛び出した。

 805号室に着いて横を見ると、倫太郎は、自宅の扉を開けて、中に犬を押し込んでいた。犬が扉の前で踏ん張っている。


「倫太郎、早く!」


 自殺男がブツブツと言いながら皆を追い越し、我が物顔で805号室に入っていった。


 飛び降りないのかよ!


「うぉい!」


 男を呼び止めたのだが、返ってきたのは倫太郎の強い口調だった。


「なんだよ!」


 説明するのももどかしく、805号室へ飛び込んだ。

 玄関に入るなり、チャイムが鳴り響いた。

 何度もチャイムが廊下に響く。

 高志はリビングに走りながら、ふと考えて足を止めた。


 麗奈が出たら、その後どうする? 


 自首をうながしたとして、倫太郎に見られていたと知ったら、麗奈は――何を考える。

 駄目だ、やはり危険だ。

 ここは引くしかないと判断し、急いで外に出た。


「一回、家に戻ろうぜ」


 倫太郎は、チャイムを連打している。


「そんなことしているうちに、警察来たらどうするの。自首させたいんでしょ」


「だけど、麗奈に何て言うよ」


「それは高志の仕事だろ。麗奈さん出てきたら、すぐ何か言ってよ。僕、そのまま伝えるから。無言は許さないからな」


 ちょっと待ってよ。何もまとまってないんだって。何で今日に限って協力モードなんだよ。


「はい」


 インターホンから麗奈の声が聞こえた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ