9. 体育祭と恋のエンジェル (2)
既に今月残り数日なのですが……。そしてこれ、3話で終わるんでしょうか?ってなってきてます。
目の前で生徒が下校する姿を眺めてぼーっとしている。私は学校の下駄箱で奏向を待っていた。ちょうど今日は応援団の顔合わせがあるらしく、終わるまで待っているわけだ。
先に帰ってもいいと言われたものの、無性に心配になってこうして一人残っている。利麻は今日はバイトらしく先に帰ってしまった。
心配と言うのは最近奏向が見た夢が原因で、奏向が誰かの恋人になるということに激しく動揺してしまったからだ。
何故動揺したのか、実は私もよくわからない。奏向を誰かに取られるということに何か嫌な気持ちを感じた。それはまるで育てた娘が嫁に行ってしまうような感情に似ているようで。
べ、別に奏向が誰の彼女になろうが私には関係ないですよ! 大体彼氏ができるなんて人間不信を克服したようなものじゃないですか、それならむしろ一石二鳥です。
なのに、私は寂しさを感じてしまっていて。そもそも奏向は女の子らしくするのを躊躇っているのに、そんなことになって本当に嬉しいわけないですし。
ふと我に返ると下校しようとする生徒が怪しげな視線をこちらに向けていた。考え事がいつの間にか言葉に出ていたようだ。
私は慌ててスマホを取り出して操作しているフリをしてごまかす。時刻を確認すると顔合わせが始まってから一時間以上たっていた。
「さすがにもう終わってますよね。何してるんでしょうか」
心配をしつつも階段を見上げると、ようやく奏向が降りてくるのが見えた。私は奏向のもとへと駆け寄る。しかし、奏向の様子がおかしかった。ふらふらとしていて心ここにあらずと言った姿で降りてくる。
「奏向? どうしたんですか」
ふらふらと精気のない顔で奏向は一言発した。
「なんか、告られた」
私は唖然としながら自分の嫌な予感が的中したことを悟った。
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「ゴク、ゴク、ぷはっ、すいません! ブラックおかわりお願いします!」
「ちょ、襟澄飲みすぎ。もうそれで五杯目だよ」
「こんなの、飲んでないとやってられないですよ!」
私たちはあの後利麻のバイト先のカフェにやってきて話を聞くことにした。そして私はやけ食いのようにブラックコーヒーを飲みまくってるわけだ。
奏向はしばらく放心状態だったがようやく正気を取り戻したようだ。その間に私はコーヒーを五杯も飲んでたわけだけど。
「それで、結局何があったの?」
「あ、えっとね、その、こ、告白されたといいますか......「どこの馬の骨ですかそんなことした奴は!」」
ついついテンションが上がってしまう。利麻に落ち着かされてから、もう一度奏向が話を続ける。
「顔合わせの後、呼び止められて。話があるからって言われて。そしたら、なんか、付き合ってほしいって言われた」
つまり奏向は、応援団の同学年の生徒に告白されたらしい。利麻は驚きながらも詳しく話を聞いてきた。
「えと、その生徒って誰なの?」
「一年A組の山上海人って人」
「あー、山上くん」
「知ってるの?」
「うん。バドミントン部に入ってる子で結構上手なんだって」
山上という名の生徒を利麻は知っていた。どうやらそこそこ同学年では有名な生徒らしい。
「でも確か、幼馴染の女の子と仲がいいって話があったと思うけど」
「なっ! それって浮気ってことですか!?」
「べ、別に浮気ってわけじゃないと思うけど」
話を聞けば聞くほどますます山上という人物が怪しく思えてくる。仲の良かった幼馴染がいるのに奏向にアプローチしてきたのはなぜなのか。
第一確かに、確かに! 奏向は可愛い女子だと思うけどだとしてもモテるような素振りを見せたりはしてないし、男子とはある一定の距離間で接している。
それなのに告白をしてくるなんて何かやましいことがあるのではないかと勘繰ってしまう。
「うーん、でも何か変だったような気も」
「変?」
「うん。私も驚いてたからよく見てなかったんだけど、なんて言うか告白するような様子じゃなかったような」
奏向はよくわからない様子でそう言った。告白する様子じゃないってどういうこと?
「でも、告白されたんですよね?」
「うん。彼女になるってことだよねって確認したらそうだって言ってたし」
告白はした、けどそんな様子ではなかった。考えれば考えるほどよくわからない。
「それで、結局返事はどうしたの?」
利麻は一番大事なことを問いかけた。
「それなんだけど、とりあえず体育祭まで付き合ってみてそれから返事が聞きたいって」
さっき奏向から聞いた話だとお試し期間みたいにとりあえず付き合ってみるらしい。そのとりあえずという姿勢も私は気に入らない。男なら正々堂々告白して玉砕されればいいのに。
「じゃあ、とりあえずは付き合ってみるってことになっちゃったんだ」
「うん、話の流れで断り切れず」
「もう、そういう時ははっきり断ればいいんですよ」
そうこうしているうちに日は落ち始めて夕方から夜へと差し掛かっていた。今日のところは利麻に愚痴をこぼして帰った。明日からは様子を見つつ怪しいところが見えたら問いただすということになった。
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キーンコーンカーンコーン
お昼のチャイムが鳴って、午前の授業が終了した。クラスメイトはそれぞれお弁当を食べ始めた。私たちもいつも通り家庭科室に行こうとお弁当を持って教室を出る。
「柏木!」
すると廊下から声をかけて向かってくる男子が一人。
「え、山上君?」
「あれが......」
山上という男子生徒は奏向のもとへ駆け寄ると片手を握ってきた。
「柏木、昼一緒に食おうぜ」
「ちょ、ちょっと待って!」
「何してるんですか!」
彼はそのまま奏向と一緒に廊下を走り去ってしまった。私は何かをする暇もなく取り残されてしまう。
「え、襟澄?」
多分今の私の顔は相当悪意に満ちた顔になっているだろう。それほどあの山上というヤツに腹が立っていた。
「うちの奏向を攫うなんて、いい度胸してますね」
次に会ったときは確実に関節を外す。そんなことを考えていると不意に後ろから声がかかる。
「あ、あの!」
後ろを振り向くとそこには女子生徒が立っていた。髪を後ろで結んだポニーテールが印象的な女子生徒。彼女は真剣な様子で話しかけてきた。
「話があるんだけど、この後大丈夫かな?」
「話ですか? 一応空いてますけど、どちら様ですか?」
「あたしは、1-Bの野上恵那」
すると、利麻は何かを思い出したような顔をして私に話してきた。
「襟澄この子だよ! 山上君と仲の良い幼馴染の子って」
その言葉に、彼女は少し顔を曇らせた。
とりあえず家庭科室で話を聞くことになり、お昼を食べながら彼女の話を聞いた。
「で、野上さんはあの野獣と幼馴染なんですか?」
「や、野獣って。山上君でしょ」
野上さんは箸で取ったおかずを食べ終えると答え始めた。
「あたしは海人、山上と幼馴染よ。付き合いは幼稚園からの縁で」
幼稚園からとはなかなかに長い縁だと思う。確か話では仲は良かったはずだけど。
「確か二人とも仲良かったんだよね、同じバドミントン部だったし」
利麻の質問に彼女はまた顔を曇らせる。ってことはつまり。
「話っていうのはそのことで、二人にお願いしたいことがあるの」
「お願いごとですか」
なんとなく察してはいるものの、それが本当なら奏向は相当面倒なことに巻き込まれたことになる。
いつの時代でも、恋愛における三角関係はどれも複雑で面倒事であるものだ。
「うん。お願いって言うのは、奏向さんと海人を別れさせてほしいの」
私はこの後に起こることを想像してため息をついた。当の本人はきっと今頃ドギマギしながら昼食を彼と食べているんだろうけど。
こうして私と利麻は彼女の話を詳しく聞くことになった。




