8. 体育祭と恋のエンジェル (1)
すっごく遅れました!なんとか今月中に三話上げきれるように頑張ります。
今回は新キャラ登場と中編みたいな感じでやっていきますよ!
活動報告の方も更新しましたのでよろしければご覧ください。
「それじゃあ、体育祭の選抜競技決めをするぞ。やりたい競技に手を挙げろ」
「それじゃあまずは短距離走からです」
クラスはかなりざわついていた。それもそのはず、今日は学校のメインイベントの一つ体育祭の競技決めの日だからだ。
みんな様々な競技の話で盛り上がっている。そんな様子を感じながら、俺は......。
「ん、うーん......」
「奏向、競技決まっちゃいますよ」
前日に夜更かしをしたせいか睡魔に襲われて寝てしまっていた。そもそもエリスが夜遅くに部屋に来て話を始めたのが原因なんだけど、当のエリスはむしろ元気になっている。
「(だめだ、眠すぎて意識が......)」
エリスの忠告も聞けず、俺は夢の中へと落ちていってしまった。
~~~~~~~~~~
夕日が差し込む教室、誰もいないこの空間で私は待っていた。約束のあの人を。
今朝、下駄箱の中に一枚の手紙が入っていた。手書きで書かれていたその手紙には、差出人の名前は書いて無くただ"放課後教室に来てください、伝えたいことがあります"と書かれていた。
私はその手紙の差出人を教室で待っている。淡い、少しの期待を秘めて。
ガタン
教室のドアが開かれた。誰かが入ってくる。けれど、夕日の光に照らされていて顔がよく見えない。多分手紙の差出人だろう。その人は俺の目の前にやってくると一つ深呼吸をした。
そして、開口一番にある言葉を言ってきた。
「俺と、付き合ってください」
私はその言葉に、驚きつつも笑顔を彼に向けた。そして返事を告げる。
「はい、喜んで」
私は、いつの間にか彼の彼女になっていた。きっとこれから幸せな日々が始まるのだろう。
~~~~~~~~~~
「はい......喜んで」
「ほう? 私が担任だというのに居眠りとはいい度胸だな、か・な・た!」
バシン!
「ひぎゃ!」
突然耳元に閃光のごとき鋭い音が響いた。急な爆音に俺は飛び起きてしまう。
寝ぼけ眼で周りを見渡すとクラスのみんながこっちを見ていた。そしてみんな笑っていた。
「まだ寝ぼけているのか?」
横を向くとそこには新聞紙を丸めて持つ静香先生がニヤっとした顔をしながら立っていた。隣のエリスは心配そうにこっちを見ていた。
そうか、俺あのまま寝ちゃって。ってそういえば競技決めしてたんじゃ、俺のはどうなったんだ?
「お前があんまりいい気持ちで寝ていたもんだから、特別な奴に参加させてやったぞ」
「特別なヤツ?」
先生に言われて黒板を見ると、自分の名前を探す。競技名には特に名前は書かれていなかったから、クラス対抗競技ぐらいしか参加はしないはずだ。
しかし、その隣に大きく書かれたもの、俺が絶対に参加するはずのないものに大きく"柏木奏向"と書かれていた。
「応援団!?」
応援団とは、体育祭の目玉の一つである。体育祭では各クラスを色ごとに分けて競い合う。その際、各学年、クラスから数名が応援団に参加し各競技を盛り上げるのだ。
ここ近年では、応援団でダンスをしたり漫才みたいなことをするなどただの応援からバリエーションが大きく異なっている。
そして、うちの学校では例年ダンスを行う応援合戦が体育祭の名物となっている。つまりそれは、俺がダンスを踊るということで。
「む、無理ですよ!?」
慌てて静香先生に掛け合うが先生は面白そうに笑っていた。
「お前が寝てたのが悪いし、それにうちの学校は生徒は応援団を含めて各選抜競技に一回は出場するのが決まりだ。奏向は他に参加できそうな競技はあるのか?」
再び黒板に目を向けるが、短距離走、長距離走、騎馬戦、棒倒し、などなど。基本体力がない俺にとって厳しそうな競技しか選択肢がなかった。
借り物競争とか玉入れとかないのかよこの学校!
「それにお前の応援団への参加はクラスで多数決を取った結果だぞ」
「えっ!」
周りを見渡すと露骨に目を逸らすクラスメイト達。やばい、敵は味方だった。
「みんなお前の応援団での活躍がみたいそうだ。それでも他の競技に参加するのか? 柏木奏向」
「うっ......」
逃げ道を塞がれた。寝てたからわからないけど投票の結果応援団になったみたいだ。
ざわつきの中には「だって可愛いもん」とか「面白そうだし」とか意見にばらつきはあるもののなんだか断りづらい。
それに運動が苦手な今の俺にとって別の競技になっても勝利に貢献できるわけでもない。
そうなると、自ずと答えが出てくるわけで。
「わかりました。やります」
「そうこなくてはな!」
こうして俺は応援団をやることになってしまった。
~~~~~~~~~~
「もう! エリスのせいだからね」
「私は何度も起こしましたよ!」
「まあまあ二人とも」
お昼休み、俺たちはいつも通り家庭科室でお昼を食べていた。食べながら話す内容はもちろん俺が応援団をやるようになったことで。
「はぁ、応援団なんてできるわけないよ」
「ま、まあ恥ずかしいのは最初だけだろうし。それに楽しいと思うよ?」
利麻はそう言って自分のスマホを操作し始めた。そしてある動画を表示して見せた。
映っていたのは多分うちの学校の校舎、それとグラウンドだろう。そこには色とりどりの服を着た人たちが何かをやってるみたいだ。
「これって」
「私、去年体育祭見に来てたんだよね。その時撮った動画なんだけど」
「わぁ、これは素敵ですね」
動画ではそれぞれの色の応援団が交互にダンスを踊っていた。かっこいいものから面白いものまで様々で、曲もドラマの主題歌から洋楽など個性豊かだった。
踊ってる人たちはみんな楽しそうで、生き生きとしてるように見えた。
「ね、結構楽しそうでしょ」
「う、うん。でも、やっぱり恥ずかしいかも」
「もう、女らしく覚悟決めてくださいよ」
何だ女らしく覚悟を決めろって。けどもう参加することは決まってるし。
「女らしくって。うーん、でもとりあえずやってみるよ。どうせもう決まっちゃったし」
ぱくっとご飯を食べて決意を新たにする。とにかく決まってしまったものはしょうがない。やれるだけやるだけだ。
ここ数か月で何かが変わったのかあっさりとそう思えるようになっていた。何かがあるとしても前に一歩進める勇気が付いたのかもしれない。
「そういえばさ、あの時奏向ちゃんはどんな夢見てたの?」
と、そんなことを考えていると利麻が尋ねてきた。
「いやさあ、あの時寝言で"はい、喜んで"とか言ってたからどんな夢だったのかな~って思って」
「私も気になります!」
二人して興味津々に聞いてくる。そういえばそんな夢を見てたような気がする。でも、その後のいざこざでほとんど内容を忘れてしまったみたいだ。
「えーとあんまり覚えてないんだよね」
「そうなの?」
「頑張って思い出してくださいよー」
エリスが駄々をこねるので何とか思い出そうとしてみる。たしか、誰かに何かを言われてそれに答えてたんだっけ。えーと、たしか......。
「俺と付き合ってください?」
「えっ、それって」
「告白じゃないですか!?」
エリスと利麻が驚きの反応を示す。あれ、そうだよね。確かに告白の言葉じゃないか。それに対して俺は何て言った? "はい、喜んで"......んんん?
「私告白の返事してた? しかも、オッケーって言ってた!?」
俺の言葉に二人は静かに首を縦に振る。じゃあ、俺は夢の中で相手の告白を受け入れたってことで、つまり相手の彼女になるってことで、それを喜んで受け入れて。
ち、違う! そんなことはない、断じてない! たとえ夢の中だとしたって。だって元男だし、それが彼女になりたいですって、そんなわけ、そんなわけないもん!
「だ、ダメですよそんなの! 私は認めませんからね! どこの馬の骨ともわからない人に奏向はあげませんよ!」
エリスは急に声を荒げると頭がパンク中の俺にしがみつくように迫ってきた。
「襟澄、落ち着いて。夢の話だから、夢の」
利麻が慌ててエリスを止めに入る。息を荒げつつもエリスはなんとか引き下がってくれた。でも俺の方も顔の熱が取れなくて必死に恥ずかしさをこらえていた。
「まあ奏向ちゃんも女の子なんだし告白される夢くらい見るよ」
「え、あ、うん。」
利麻がフォローしてくれた。ただ、俺にとってはそのフォローは効果がない、というかむしろダメージなんだけどね。
「でも、でも! もしそれが正夢にでもなったら困りますよ」
必死な顔で訴えてくるエリス。なんでか知らないが俺が誰かの彼女になるのが嫌らしい。
「あはは、さすがにそんなことはそうそう起きないと思うけどな」
「で、でも」
俺もさすがに夢のとおりのことが現実に起こるとは思っていないけど、同じ状況になったとしたら俺はどうするのだろうか。
「奏向、ちゃんと話したことのない人に気軽にイエスって返事したらダメですからね」
「う、うん」
「襟澄、まるでお母さんみたいだね」
エリスの気迫に押されてしまった。そして、ちょうど予冷のチャイムが鳴った。俺たちは慌ててご飯を済ませると急いで次の授業の準備を始めた。
こうしてその日は無事に終了して、それから数日が経った。ちょうど夢のことがおぼろげになった頃、遂に応援団の初めての顔合わせが行われることになった。放課後、俺は指定の教室に向かった。教室には各学年の同じ色のクラスの生徒が集まっていた。ちょうど俺たちの色は緑色だった。ちなみに他の色は赤、青の計三色で分かれている。
上級生の先輩がやってきてようやく顔合わせが始まった。それぞれ学年とクラス、名前を発表し合う自己紹介が始まった。俺は緊張しつつも何とか噛むことなく自己紹介を終えられた。
友達がいる人もいる中で、俺は知り合いもいなくて一人端で座っていた。そうこうしているうちに初の顔合わせは自己紹介と今後の予定の確認のみで終わることとなった。
「か、柏木」
足早に教室を出ようとしたところで、後ろから声がかかった。振り返ってみるとそこそこ身長の高い男子生徒が立っていた。
「えと、何か用でしょうか?」
その男子は妙にそわそわしていて、俺の言葉に慌てたように声が上ずんでいた。
「あ、あの、1年A組の山上海人っていいます。話があるんだけどよかったらこのまま教室に残ってくれないか?」
知らない男子生徒から突然声をかけられて話があるって、どっかで覚えのある話だな。
「えと、今話すのはダメなんですか?」
「あ、ああ。できれば人がいなくなってから話したいから」
この時の俺は何を考えていたのかこれを了承してしまった。できるだけ穏便に済ませたかったからか、話を聞くだけだと思いオッケーしてしまった。
徐々に集まった生徒は下校をはじめ、やっと俺たち二人だけになった。その間互いに無言で待ってたためなかなか要件を切り出せなかったが、やっと彼が話し始めた
「それで、話なんだけど」
「は、はい」
彼は一度深呼吸をすると、声を発しようとする。あれ、これやっぱりどこかで見たことあるぞ? あれはたしか......"はい、喜んで"。刹那、その言葉が浮かんだ。
「俺......付き合ってほしい」
「......えっ」
彼の真剣な眼差し、誰もいない放課後の教室、そして付き合ってほしいの一言。すべて思い出した。そう、あの夢が正夢になったのだ。
「え、あ、え、それ、って、彼女って?」
「そうそれそれ」
男子の顔が少しだけ明るくなったような気がする。そんな様子すらもどうでもよくなるほどに、俺の頭は爆発していた。
俺が、告白されてる!?




