6. 初体験!
お待たせしてしまってすいません!いろいろ書きたいとか言ってたのに意外とアイデアが出てきませんでした......。タイトルは健全ですからね!
それは、利麻との一件が落ち着いたころだった。
「えっ? バイト!?」
「うん、できればお願いしたいなと思って」
利麻からバイトのお願いをされたのだ。
「バイトって、利麻の働いてるカフェのですか?」
「そうだよ。ちょうど週末だけみんなの予定が合わなくてさ、お客さんも多く来るだろうから助っ人を頼めないかって店長に言われて」
利麻の働いてるバイト先は、ここ周辺で大きなショッピングモールの中のカフェだ。どうやら、急に人手が足りなくなって困ってるみたい。
そんな利麻の話にすごく興味津々なエリス。興奮してるのか前のめりに話を聞いている。
「奏向! 是非やりましょう!」
「え、えーと......」
エリスはやりたそうにしてるのに対して、俺はというとそう思ってはいなかった。どちらかというと不安の方が大きかった。
俺は今までバイトなんかしたことはない、それに今の姿は女である。そんな中慣れないことをしたくはなかった。
でも、そんなことお構いなしにエリスは話しを進めていく。
「今週末ですね。時間は何時からですか?」
「ちょ、ちょっとエリス」
「えーとね、時間はお昼過ぎから夕方くらいまでなんだけど。お仕事の内容はホールのスタッフで、基本は私がフォローするし難しいことはさせないから気楽に構えてもらっていいんだけど、どうかな?」
利麻は俺の方を見て聞いてきた。いきなりのことにどうしようかと考えが決まらない。そんなことを思ってるとエリスが耳打ちをしてきた。
「バイトの経験だって重要なことだと思いますよ。人間不信を直すのにもいい機会だと思いますけど?」
多分自分がやりたいだけの方便なのだろうけど、確かに人と接することが多い接客業なら人と話すことももう少しやりやすくなるかもしれない。
俺は、覚悟を決めると利麻に答えを告げる。
「わかった、私でよければやらせてもらうよ」
「ありがとう! それと服装なんだけど、基本的には学校に着てくるシャツとローファー、それと黒系のズボンなら大丈夫だよ。もしズボンがなければ私のを貸すから言ってね」
そっか、カフェなんだからきっちりした服装をしないといけないんだな。まあ、ズボンとかはエリスに聞けばいくらでも持ってそうだから大丈夫か。
そうして約束をすると、あっという間にバイトの日が近づいてきてしまった。
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久しぶりに訪れたショッピングモールは、週末ということもあってか人が多くいる気がする。俺としては嫌な思い出が強いこの場所で、今日はアルバイトをするわけだ。
利麻に言われた服装でやってきた俺とエリス。思った通りエリスは黒系のズボンを数着持っていた。中には大胆な奴もいくつかあったけど(いつ着る気だったんだろう......)。
俺たちはショッピングモールのカフェ、「エンジェルフェザー」へと入っていった。
「いらっしゃいませ、って奏向ちゃんに襟澄!」
「お仕事しにやってきましたよ」
「それじゃあ、とりあえずそこの扉の部屋に入ってもらっていい? すぐ店長呼んでくるから」
そう言われて俺たちは、お店の中のスタッフルームと書かれた部屋に入っていった。中にはテーブルがあって休憩スペースのような感じになっていた。とりあえず荷物を置くとテーブルの椅子に腰かけた。
しばらくすると、扉が開いて一人の男性がやってきた。
「君たちが祠堂さんのお友達の柏木奏向さん、柏木襟澄さんであってるかな?」
「「はい」」
優しそうな細身の男性、この人がここのカフェの店長なのだろう。
「私がエンゼルフェザーの店長、大野といいます。今日はよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
店長さんは俺たちをよーく見ると納得した顔をして話を続ける。
「それにしても、そうか、君たちが祠堂さんの友達だったのか」
「えと、どこかでお会いしましたっけ?」
店長さんは俺たちを知ってるような口調で話すが、俺はあんまり記憶にない。すると、店長さんは笑って答えた。
「いや、ここ最近でお店の中で倒れた人と大荷物と人を抱えて帰った人は忘れられないさ」
「あっ!」
「ああ......」
そりゃそうだ、考えればすぐわかる話だ。俺たちは一度このお店に来たことがあるし、その時に俺は気絶をしてエリスは俺を抱えて帰っていった。
例え俺たちが店長さんを覚えてなくても、店長さんには忘れられないお客となったことだろう。
「元気そうで安心したよ。急なお願いで悪かったけど、今日のところはお店の店員として頑張って働いてほしいな」
そう言うと店長さんは俺たちにお店のエプロンを渡してきた。
「着替えが必要ならそこの更衣室で着替えてもらって、そのエプロンを付けて仕事をしてもらうよ」
俺たちは荷物だけを更衣室に置きに行くと、エプロンを身に纏う。部屋にあった姿見を見ると、自分の姿はカフェの店員さんになっていた。
「似合ってますよ、奏向」
後ろからエリスがほめてくる。振り返ると、エリスはエリスでエプロンを可憐に着こなしていた。
「エリスこそ、すごく似合ってるよ」
「ほんとですか! やった」
エリスはすごく喜んでいた。ほんとにエリスのプロポーションは女性として羨ましいくらいのものを持っていると思う。って、女性としてってなんだよ! 俺は別に気にしてるわけじゃ......。
「えーっと、準備は大丈夫かな? 仕事の内容を話したいんだけど」
仕事のことを忘れてはしゃいでしまった。姿見から離れると、店長の説明を大人しく聞く。
「今日お願いする仕事はホールのスタッフ。ただ、バイトは初めてって聞いてるし、初日にメニューを覚えてもらうのも厳しいから基本は雑用みたいなことをしてもらうよ」
どうやら、利麻がバイトの経験がないなどを先に伝えてくれていたらしい。
「基本は注文の準備かな、コーヒーのカップやミルクとかペーパーなんかをお盆に準備したり、後は空いたテーブルの片づけなんかをしてもらうよ」
つまり、サポート役に徹してくれってことかな。さすがにバイト初日で戦力にはならないだろうし。
「ただ、お客様から呼び止められる時もあるから一応伝票は持っておいて。わからなければ注文をメモして伝えてくれれば大丈夫だから。わからない時は、僕か祠堂さんを頼ってくれて構わない。土壇場で悪いけどよろしく頼むよ」
練習の時間はなく、ぶっつけ本番でやらなきゃいけないってことかな。少し緊張しながらも頑張ろうと決意を固めると私たちは部屋を出ようとする。
「あっ、それともう一つ。声だけは元気よくね」
「「はい!」」
こうして、俺のバイト初体験が始まった。
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バイトを始めて早数時間。もう夕方くらいになっただろうか。俺は、既に疲れ果てていた。
始めこそ意気揚々としていたものの、すぐさま気持ちが弱ってしまった。今まで人と話すのが苦手だった奴が、いきなり接客などできるはずもなく。いらっしゃいの挨拶ですら小声で聞こえないことが多々あった。
そのたびに店長さんに注意されるのだが、なかなか声が大きくはならなかった。また、仕事の方も慣れるまで時間がかかって利麻に手助けしてもらう場面が多かった。
対してエリスはというと、すぐさま仕事の手順を覚えて素早くこなせるようになっていった。しかも、バイト初日でメニューをあらかた覚え接客もこなせるようになっていたのだ。
こうして片方は優秀、もう片方はポンコツといういたたまれなさを感じてはメンタルをやられるという状況にクタクタになっていたのだ。
「襟澄って仕事覚えるの早いんだね。ビックリしちゃった」
「いやいや、暗記が得意なだけですよ」
ようやく落ち着いたお客さんの流れで多少しゃべるくらいの余裕が生まれるようになった。
俺は、食器などの片づけをしつつしばしば時計を見つめては早く終わらないかなーっと思っていた。
すると店内で注文が一斉に入る。ホールのエリスと利麻が注文を聞きに行くとちょうどお客様が入り口からやってきた。
俺はすぐさま作業を中断してお客様の対応に移る。
「い、いらっしゃいませ......。何名様でしょうか?」
慣れないながらも精いっぱいの対応をする。お客様は娘さんを連れた親子だった。
「えーと、二名ですー」
ざっと店内を見渡して空いている席を確認すると、お客様を席まで案内する。
案内をした後にすぐさまメニューやおしぼりなどを準備してお客様へと運んで行った。そこで、利麻と交代して接客を担当してもらう。
俺は空いた席の片づけなどをしてカウンターへと戻っていった。
「奏向さんも仕事の呑み込みが早いね」
「えっ?」
突然店長に声をかけられて驚いてしまった。
「あーごめんごめん、集中してたかな。いやー奏向さんも今日一日で仕事に慣れてたから呑み込みが早いなと思ってさ」
しばらく店長の言ってることがわからなかった。俺が仕事に慣れてた? どうみてもミスばかりしてたし、エリスの方がきっちり仕事をこなしているように見える。
すると、利麻もカウンターに戻ってきた。
「そうですよね。初めはうまくできてなかった仕事も今はきっちり出来てますし」
「私が、出来てた?」
利麻も店長と同じことを言う。俺がきちんと出来てたとそう言ってる。
「もしかして、奏向ちゃん自覚ない?」
「さっきだって、お客様の案内からテーブルの片づけまで的確に出来てたよ」
そういえば、いつの間にか接客も普通に対応出来ていた。それに、その後何をすればよいかも判断していた。
「当然ですよ。なんたって私の妹なんですから!」
エリスが突然後ろから肩に手を掛けてきた。横顔はすごく嬉しそうだった。そして、耳小さい声がかかる。
「(いい経験を得られましたね)」
するりとそのままホールに戻っていくエリス。俺はしばらくぼーっとした後で慌てて仕事に戻った。こうして、初バイトは終わりを迎えた。
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「いや本当に助かったよ。よければこれからもバイトしてほしいくらいだよ」
「あはは、考えておきます」
「それじゃあ店長、お先失礼します」
バイトは無事に終わり、ほどなくしてショッピングモールを後にした。
「二人とも本当にありがとね! それと無理言ってごめん、本当に助かったよ」
「いえいえ、私たちも楽しかったですしね。奏向?」「うん、貴重な体験だったよ」
「だったらよかった。それじゃあ、私はこっちだからまた学校でね二人とも」
利麻は別の方へと歩いて行った。俺たちは、ゆっくりと家の方へと歩いて行く。
「どうでした? バイトをしてみて」
エリスがそう聞いてきた。思い返すと大変なことばかりだし、身体的にも精神的にも疲れてしまった。でも、今日経験したことはすごく大事なことだと思う。
「大変だったけど、やってよかったと思う」
その答えに満足したようにエリスは笑顔で前を歩く。
「ならよかったです。私も、奏向のエプロン姿をばっちりこれに収められましたし」
そう言ってエリスはスマホの画面を向けてきた。そこには、俺がバイトの時の格好で写っていた。
「なっ! い、いつ撮ったの!?」
「ふふん、内緒です」
「ちょっと、それ消してって」
「ダメです、これはお母様にお見せしないと」
追いかける俺に対してちょこまかとかわすエリス。いつの間にか鬼ごっこみたいになって、暗くなった帰路を笑いながら帰っていった。
きっと今日のことは俺の人間不信に大きな影響を与えるはずだ。クラスメイトとももっと話せるようになれるはず。
俺は週明けの学校に行くことに、ひそかに期待をしていた。
そして週明けの登校日。
「ねーどうだったのバイトは?」
「奏向ちゃんって服とかどんなのが好きなの?」
「ねえ、これ一つ味見してみない」
「あ、あはは、あはははは......はぁ」
結果、変わらず。やっぱり女子の会話は難しい。俺がクラスメイトと普通にしゃべれるようになるにはもう少しかかりそうかも。




