5. バイト先で見かけたあの人
というわけでぼちぼち投稿です。これで一応ひと段落ということになります。次回からはまた違ったお話になるかと思います!
活動報告も更新しましたのでよろしければご覧ください。
いつものカバンに必要なものを入れ終えると、早々と私は玄関へと向かう。約束の時間まで一時間くらい、今から向かえば全然間に合う時間だ。
でも、私は出来るだけ一人の時間が欲しかった。何も考えずにぼーっと歩く時間が。
「お母さん、バイト行ってきます」
「もう行くの? 気を付けるのよ」
「はーい」
ドアを開けると、ちょうど空模様が曇りがかっている。幸先が悪い気がする。そんなことを思いながら私、祠堂利麻はバイトに向かって歩き出した。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ここ最近は嫌なことばかりあった。ようやく高校へと入学したばかりなのに部活動で問題があった。よくドラマとかで聞く話ではあったけど、実際に体験するとは思わなかった。
私が所属する部活、料理研究部。そこの女子の先輩が生徒にカツアゲをしていた。私は偶々その場に居合わせていて、咄嗟にその生徒をかばってしまった。それがいけなかった、今度は私がカツアゲの対象になったのだ。
そして、そのために私はバイトをしてお金を貯めている。先輩たちにお金を渡すために。もちろん拒否することもできた、でもそうした結果私の友達が被害に遭った。
先輩には不良の彼氏がいるらしく、道端で脅されたらしい。友達の悲しそうな顔を見ると、私はお金を渡すことを条件にそれ以上友達に関わらないように言った。
こうして、私はバイトをすることになって数週間が経ってしまった。バイトをすること自体はすごく楽しいと思ってる。でも、それを彼女たちのために稼いでると思うと、すごく辛く感じてしまう。
結果として、バイトに行くときはこうしてモヤモヤしながら行くのが毎度のことだ。
そうこうしているうちにバイト先についてしまった。多少家から距離があるところだから歩いていくといい時間帯になる。
視線の先には、大型ショッピングモールがそびえ立っている。その中のカフェ「エンジェルフェザー」が私のバイト先だ。
足取りを重くしながらも、私はお店へと向かっていった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「いらっしゃいませ」
「ご注文は以上でよろしいでしょうか?」
「こちら、ブレンドコーヒーになります」
今はちょうど連休中だからかお客様の入りが多い。食器の片づけや、お客様の案内、注文を取るなど、やることが今日はかなりハイペースになってるように感じる。
途中、警備員が何人か走っていく姿が店の中から見えたが、気にする暇もないほど忙しかった。
ようやくお客様の入りが落ち着いたころには、夕方になっていた。やっと一息つけるかと思ったところに、新しくお客様がやってきた。気持ちを切り替えると接客対応に入る。
「いらっしゃい...ませ?」
声をかけながらお客様をよくよく見ると、お客様の一人が泣いていた。思いもしなかったことに動揺してしまう。
「えーと、二名なんですけど入れますか?」
もう一人のお客様が聞いてきた。私は落ち着きを取り戻すと、お客様の接客を続ける。
「は、はい。二名様ですね。ではこちらへどうぞ」
「ほら、奏向行きますよ」
「う、うん」
お客様を少し心配しつつも、空いてる席へと誘導すると、お冷とお手拭きを渡す。
「ご注文がお決まりになりましたらお呼びください」
と、一言言ってから席を離れた。お客様はたくさんの荷物を持っていてそのどれもが衣服だった。新しく引っ越してきた人なのかな? などと思いながら別のお客様の対応に戻った。
すぐに注文が来るかと思いきや、しばらくこなかった。多分泣いてたお客様が落ち着くまで待っているんだろう。
十分ばかし経ってからようやく注文で呼び止められた。
「ご注文をお伺いします」
「えーと、ブレンドコーヒーを二つお願いします」
「ブレンドを二つですね。かしこまりました」
注文を受けると、オーダーを伝えて手早く準備を済ませる。コーヒができるとトレイに乗せてお客様の元へと運んだ。
「お待たせしました。ブレンドコーヒーお二つになります」
テーブルの上にコーヒーを置くと、
「ごゆっくりどうぞ」
と一言かけてから席を離れる。コーヒーを置いたときに見たけど、泣いていたお客様は手元に角砂糖の容器を寄せていた。きっとブラックは苦手なんだろう、その行動が可愛らしく見えた。なんとなく、あのお客様に興味を持った。なんというか違和感みたいなものを感じるからだ。
泣いていたお客様は話し方に女性っぽさを感じない。もちろん、男勝りな女子はたくさんいるけどちょっと違うような気もする。
それに、歩き方とかのしぐさもぎこちないように見えた。なんか慣れてない動きみたいな。
それに、二人ともすごく綺麗だった。泣いてたお客様は人見知りなのかおどおどしていたけど、小さくて可愛い感じの女性だ。
もう一人のお客様は、背が高くて容姿端麗でロングの髪もすごく綺麗な女性だった。
見た感じ年も変わらなそうに感じた、きっと学校では男子にモテるんだろうな。
コーヒーを飲みながら何かを見せ合ってる二人。見た感じ学生証のようだ。やっぱり、こっちに越してきた人なんだろう。実は私の通う学校だったりして。
そんなことを思いつつも業務へと戻る。しかし、ちらちらと時々見てしまっていた。
あまり聞き耳は立てない方がよいのだが、どうやら二人は昔話をしているらしい。そのまましばらくは話が続いていた。
それからは他の仕事を振られたりして、しばらくホールを離れることになった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
あれから、一時間くらい経っただろうか。ようやくホールに戻ると例のお客様はまだ話を続けていた。しかし、話してる表情は真剣な顔だった。何か大事な話なのだろうか。
そんなことを思っていると、
バタン!
「か、奏向!」
泣いていたお客様が急に倒れたのだ。もう一人のお客様も驚いている。私は、驚きつつもお客様のもとへと駆け寄った。
「お、お客様!? 大丈夫ですか?」
駆け寄ってみるとお客様はテーブルに寝そべったように倒れていた。こういう経験がないため、どうしたらいいのかわからないがとりあえず救急車を呼ぶことを思いついた。
「体調を崩されたのですか? 救急車をお呼びしましょうか?」
もう一人のお客様にそう尋ねると、困惑した顔をしたまま少し間を置いて返事をされた。
「あ! 大丈夫ですよ! この子、あの、そう! 疲れるとどこでも寝てしまうんです! なので大丈夫です!」
明らかに違うだろうと思ったが、お客様は必死にそう訴えてくる。
店長に指示を仰ぐと、店長も対応に困っていた。だが、意識があること、身体に変な症状が見られないこと、そしてもう一人のお客様が必死に訴えることで、とりあえず緊急の場合には必ず病院に連絡することと、お店にも伝えることを条件にお客様はそのまま帰ることになった。
「あの、大丈夫ですか?」
お客様は、そこそこの量のある買い物の荷物と倒れたお客様を抱えながら帰ろうとしていた。さすがに女性一人では厳しいと思うのだが。
「大丈夫です! 大丈夫です! ご馳走様でした!」
そう言って慌ただしく外に出ようとしていた。その時、お客様のテーブルに一つだけ落し物があったのに気づいた。
「お客様! これ!」
そう呼び止めたのだが、聞こえなかったのかそのまま店を出ていってしまった。どうしたものかと落し物を確認してみると。
「天ヶ崎高校一年、柏木奏向......」
それは、私が通う高校の学生証だった。顔写真は泣いていたお客様の写真だった。しかも私と同じ学年であり同じクラスでもあった。
店長に相談してみると、学校に連絡してお店で保管をするらしい。そんな時、私はある考えを思いついた。
「私が届けましょうか?」
私が届けに行けばいい。突然そう思った。学生証に書かれた住所を見ると特別遠い場所ではなかった。それに、あの人と話してみたい、そう思った。
店長に私が同じ学校に通っていることを話すと、届けに行くことを了承してくれた。
ちょうどバイトも終わりの時間だったので、着替えを済ませるとすぐにお店を出た。
あの人と話してみたい、それは純粋な思いの他にもう一つ別の思いがあった。自分でもその思いは良くないものだと思ってる。でも、それでもあの人にかけてみたかった。何も知らない、あの人に。
こうして会いに行ったあの人が、私の運命を変えてくれるとは知らず、暗くなった道を歩いて行った。




