4. 母と息子(娘)のスキンシップ
えー、早めに投稿すると言って一週間経ったわけですが作者の早めというのは一週間d......ではなくて普通に遅れました。
「ねえさあ」
暗い部屋の中で、一つ声がこぼれた。
「なあに?」
いつもなら、一人で寝るはずの部屋。しかし今日はちょっと違う。
「なんで俺、母さんと寝てるわけ?」
隣には、我が息子......だった娘が寝ている。
「いいじゃない別に。それに、あなたの今のことも気になるし」
「今の事って?」
ずっと見てきた息子だからこそわかる。この子は......。
「あんた、その体でエッチなことしてないでしょうね?」
「はあ!?」
この子は、むっつりだということを。きっと、夜な夜な一人でその体を。
「そ、そんなことするわけないじゃん! 何変なこと考えてるんだよ!」
なわけはなく、むっつりでもヘタレなのでそこまでの度胸はないだろうということはわかっていたのだけど。それでも、万が一があってはならないので一応聞いてみた。
「そう、ならよかったけど」
「ほんとに変なこと聞くなよな」
ぷんすか怒り出す我が息子(娘)。しかし、見た目がかわいらしくなってるためか怒ってる感じがしない。
「でも女の子らしくはしてるのね、服も女物着てたし料理もしてるみたいじゃない」
「それは、エリスが着ろだのやれだの言うから」
「エリスちゃんには弱いのね」
「そっ! そんなわけじゃ……」
奏向がコロコロと感情を変えて話す。こんなにいろんな表情を見せる我が子を私はいつぶりに見たのだろう。
さっきはエリスちゃんの気持ちを聞いたし、今度はこっちね。
「ふーん。じゃあ奏向はどうしてエリスちゃんのことを受け入れたの?」
「どうしてって」
「だって連休前はまだ人への不信感が大きかったでしょ? なのにエリスちゃんのことを受け入れて言うことに従ってるのって何か理由があるんじゃない?」
「理由ねぇ」
奏向はピンとこないのか少し考え始めた。すると、見る見るうちに顔が赤く染まっていった。
「何があったの?」
ダメ押しで聞いてみる。昔っからこの子はちょこっとイタズラすると反応が面白くってよくしてたっけ。最近はずっと暗くてこんな反応すらしなかったけど。
「えと、その」
バツが悪そうに言葉を詰まらせる奏向。その様子をしばらく面白がってると、ようやく話し始めた。
「あいつが最初、無茶苦茶してきて。それで、俺はあいつを拒絶したんだよ」
エリスちゃんから聞いた話を思いだすと、彼女が来た当初は奏向はかなり混乱していたらしい。
「でも、あいつはどんな事を言っても、俺から離れることはしなかった。むしろ俺の事ばっかり心配してて」
エリスちゃんと話してみてわかったことは、彼女が本当に奏向のことを心配していたことだった。だからこそ、奏向も心を開いたのだろう。
「それで、俺と向き合ってくれるヤツってわかって。それで......」
「好きになっちゃった?」
「なっ! そんなわけ!」
私の一言で顔が赤くなる我が子。この子にはまだまだ青春が必要みたいね。そんなことを思うくらい久しぶりにこの子の元気な姿を見た気がする。彼女はきっと奏向にとって必要な人だと思う。
そうして、ひとしきり落ち着きを取り戻したところで別の話題を振ってみる。
「エリスちゃんとの暮らしはどうなの? 楽しいの?」
奏向は仏頂面で答える。
「楽しいというか、もうめちゃくちゃだよ。服は女物を着せられるし、仕草とか料理もやらされるし」
そういえば、奏向はいつも間にか料理が出来るようになってた。昼食の際にエリスちゃんの手伝いをしてたのを思い出す。
「料理とかはできるようになってくれるとお母さんとしては助かるんだけど。服とかはどうなの?下着とか」
率直に気になったことを聞いてみた。奏向は今も女性用の下着を身に着けているらしい。それに対して、どう思ってるのかは興味がある。
「どうって言われても、着てないと不便だから着てるだけだけど」
息子からの解答はあっさりとしたものだった。
「えーと、不便って言うのは......」
「着てないと擦れたりして痛いし、それに男物はサイズが変わってるから仕方なく女物を着てるの」
意外と合理的な意見だったことに驚いてしまった。女の子に染まったとかそういうわけではなさそうだ。
「そうなの」
「大体エリスが俺にいろんなものを着せたがるんだよ。スカートは制服に慣れるためってのはわかるけど、他にもワンピースとかフリフリしたものとか着せてくるし」
どうやらエリスちゃんは奏向にいろいろ着させているらしい。まあ、本人がほんとに嫌がってたらやめるだろうからもしかすると奏向も案外乗り気だったりして。
「ふーん、それじゃあエリスちゃんとの生活は楽しんでるんだ」
「別に楽しんでるわけじゃないし」
「じゃあ、楽しくないの?」
私の聞き返しに言葉を詰まらせる奏向。二人を見てれば答えはわかる。それでも素直になれないのは恥ずかしいからなのかしら。
「楽しくは、ある。あいつが来る前よりも今の方が忙しくて、騒がしくて、でも前よりはいいと思う」
素直に楽しいって言えばいいのに。そんな年ごろの息子を感じながら、私はようやく聞きたいことを聞いた。
「そう。じゃあ、奏向はこのままエリスちゃんと暮らしたい?」
私の質問に少し首をかしげる奏向。
「私はまだエリスちゃんのことを全て信用したわけじゃないの。いきなりあんなこと言われても全部信じられるわけじゃないしね」
未だにエリスちゃんが天使だったり、奏向が女の子になったことなどは実感が湧かない。普通の人間だったり、別人が成りすましてるのではないかと思うほうがよっぽど信じられる。
それでも、母親の感みたいなものがこの女の子は自分の息子だと感じている。話してみてもやっぱり奏だと感じてならない不思議な気持ちだ。
「それに、私はしばらく仕事で家を空けることが多くなると思うの。だから、奏向の気持ちが聞きたいのよ」
「俺の、気持ち......」
この子自身がどうしたいのか、本当の気持ちが知りたかった。エリスちゃんと一緒に居たいのかどうなのか。この子の言葉でちゃんと。
「俺は、エリスが居てくれたから、助けてくれたから少しは変われたと思う。だから、もう少しだけあいつと一緒に居たい。俺が変わるために」
これがこの子の本当の気持ち。前までは部屋に籠るばかりだったのに、いつの間にか前へ進もうと努力しようとしている。
きっと彼女が、この子の背中をしっかり押してくれたからだろう。だからこそ、この子には彼女が必要なんだろう。
「そっか、ならちゃんと変われるように頑張りなさい。何かあればお母さんも相談に乗るから」
「ありがと、母さん」
男子三日合わざればなんとやらというけれど、こんなにたくましく......かわいくなってるとは思わなかったわ。
いつの間にか私は、奏向を胸に寄せて抱きしめていた。
「ちょっ! 何してんだよ母さん」
胸の中で暴れだす奏向。それでも私は離しはしなかった。私にも娘がいたらこんな感じだったんだろうか。
「はあ、それにしてもなんでこんなにかわいくなってるのよ! 肌とかすべすべのもちもちだし! この抱き心地、たまらん!」
「母さん! 息、息が苦しいから!」
息子が娘に変わるという、たぶん誰も経験したことのない出来事に直面してる中で。意外にも受け入れている自分がいることに驚きつつも、いつも以上に我が子にスキンシップができる幸せを堪能する私であった。




