深みへと踏み入れる覚悟
光り輝くスイレンは特殊な花ですね。
果たしてスイレンは道しるべなのでしょうか?
ピシャ…ピシャ…
と、私の歩く音だけがこの空間に響き渡る。
結構歩いた。
辺りも少し明るくなってきたか。
スイレンは少しずつ光り輝く事を止めていき、やがて光らなくなった。
「朝?なのかな?」
朝というものの確証はない。
人によって朝という感覚は違うものだが、辺りが明るくなったので、朝と呼ぶことにしよう。
朝に夜。
これで時間の流れがある程度あるということが分かった。
ある程度と言うのは、私の他にこの天からの光しか変わっていないからだ。そのほかにも、川や、生物のような動くものがあれば時の流れを感じれるものなのだが、人は水の流れ、やそういったことが無ければ時というものを考えることは出来ないのだ。
そのために、時なんてものは無いという者もいるときいたことがある。
そうゆうふうに朝になってから少しばかりの時、
あたりの景色が変わった。
村?
いや、村というよりも、旅人を向かい入れるような宿屋が沢山ある路地、といったふうだ。
祭りの時のような屋台や、露店と言った方がわかりやすいか。
中に入っては見たものの、やはり予想通りの景色が広がっていた。
私はドアを開けて外に出た。
まぁ、何も無いよりかは家があるから気が安らぐというものだ。
この家々は絵本に出てくるような家だ。
少し西洋風の、木材を少しばかり多く使ったような家だ。
私は日本に住んでいたから少しだけ違和感を覚えたが、こうゆうのも悪くない。
村を散策していると、ある物を見つけた。
「写真…」
「ねぇ!」
突然後ろから声が掛かったので驚いてしまった。
「ひ…」
「やっぱり〜、あかり じゃん。」
何故…私の名前を知っている?
私は凪沢 灯というから、確実に私のことを知っている人物だ。
振り向いて落ち着く。
えっと…この人は…
思い出した。確か高校の時の友達で、いつもよく話をしていた。
名は確か、河岸 鈴 (りん)といったっけか。
「どうしてここに?」
私は少しの希望を持って聞いた。
「治療でね。」
「治療?」
「うん、貴方もじゃないの?」
「ええ。」
そうだ、思い出した。私はお姉ちゃんを治療するためにここへ来たんだった。
意識に入る時に記憶が曖昧になるって聞いていたから辻褄があった。
「ーでも…ここは…………………」
「いや… ー何でもない。」
「どうしたの?」
『掟』ーーーーーーーー
「いや、気にしないで。」
気にしない事は出来ない。その不自然すぎる切り方には深い意味があると思う。
何故隠すのか…私は知ってはいけないのか…
どうやら、この世界には知ってはいけないことがあるらしい。
「じゃあ、私はそろそろ戻らないといけないからじゃあね。」
「ちょっと待って ー」
追いかけたが、どこに行ったかわからない。
けれども、知り合いがいるという事がわかっただけ良かったと思う。
心の支えになる。
でも、1つ疑問が残る。
私はお姉ちゃんの治療の為にここに来た。
そろそろ戻らないといけないと言っていたから他の人の治療?
だとしても人の意識を渡る事は出来るのだろうか。
でも、出来ていることになる。
鈴は一体誰の為に?
そして不穏な空気を残してさっさと去った理由は?
私が知ってはいけないこととは?
この世界のことはやはり、わからないことだらけらしい。
友人も教えてくれない。
教えてくれないのならば、知るまでだ。
『選択』ーーーーーー
私は知るために、村をもっとしっかりと見ることにした。
さっき驚いたせいでしっかりと見ていなかった写真のある家の部屋に入る。
確か手前の部屋だったか。
部屋は何というか、子供部屋を彷彿とさせる。
ベッドと勉強机のようなものに、椅子とそんなに家具は無く、筆記具なども無いのだが、その配置がそう思わせた。
私の椅子に座って手鏡サイズの写真立てを見つめる。
この写真ー
この写真は、
小さい頃のー
お姉ちゃんだ。
お姉ちゃんの顔が少しづつ蘇ってくる。
この写真のお陰で少しづつなのだけれども思い出す。
そう、感傷に浸っているとある疑問が浮かんだ。
何故此処にこの写真が?
私の家のような場所であればある程度は分かるのだが、
此処は全くと言っていいほど関係が無い。
やはり記憶、や、意識という物はめちゃくちゃなのだろうか。
こうしてみていると、写真なのかも疑わしくなってくる。
この写真を持っていくことにした。
幸いにも、ほかの家々を探すと、ポーチに近いようないいサイズのカバンがあったため、カバンを持ち歩くことにした。
私は、村の奥に行き、さらに奥へと進んだ。
すると、外れに来たようだ。ここからは家がない。
あたりが暗くなった。
村の方が明るくなる。
そんな事は気にも止めず、私は目の前の洞穴らしき大きな穴を見ていた。
穴?
その穴にはあたり一面を覆っている水が止めどなく流れ落ちて滝のようにも見える。
「あら、入るの?」
鈴の声がした。
「ごめんね、ちょっとあってさ。」
「この穴はね、この意識世界から、前意識の世界を繋ぐ穴だよ?」
「イシキセカイ?ゼンイシキ?」
「えっと…」
鈴はそのまま続けた。
「まず、意識世界っていうのは、貴方や私が持っている
思想、思考ができる部分が作っていて、いわば幻想や想像、妄想の世界ってわけ。」
「それに対して前意識世界は、まだ思い出すことが出来る記憶の事柄から出来上がってる。」
「つまり、見たことがあるもので出来上がってる世界なの。」
そうだ、聞いたことがあった。
心には三つの世界があるのだ。
自分自身の感情や、想像が出来る。
意識。
少し前のことや過去のことを一旦整理して、無意識や意識に記憶を送り届けるのが、
前意識。
そして、自分自身にも他人にも分からない記憶の墓場の、
無意識。
「その奥もあるのだけれど、とても危険で、私は治療の時には行ったことは無いなぁ。」
「深層心理については何か知ってる?」
「シンソウシンリ?」
深層心理とは、心の奥底。
いわば、自分自身が認識できない心の事である。
無意識や、過去の思い出せない記憶、嫌な思い出等があると言われている。
言われているというのは、まだ誰もその内容を知りえないからだ。
知る方法が無いのだ。
無意識の中身など誰も分からない。
「私は説明とか、苦手だし、難しいから一番手っ取り早いのは、この穴に飛び込むことだよ?」
「この穴に飛び込むと、新しいことが知れるただそれだけのこと。」
「えっ…でも…」
「じゃあね〜。言ったでしょ?」
「意識と、前意識を繋ぐ穴だって。」
「待ってよ、まだ聞きたいことがっ…」
話しかけるも無意味。
後ろ手に手を振られてしまった。
永遠と静寂を感じさせるような風がこの洞穴を掻き鳴らしている。
私には、飛び込む勇気など無かった。
私の目線からは、水の流れや風の音のお陰で、
まるで世界一大きいというナイアガラの滝を思わせた。
そして無意識にも後ずさりしている。
本能というものか。
私はもう少しこの村を調べることにした。
『選択』ーーーーーーー
洞穴の恐怖。
何が起こるかわからないという恐怖が、
私を洞穴から離れさせた。
私は走っていた。
何故ーと聞かれても分からない。
ただ、怖かったからだ。
村の中央あたりに来る頃には疲れきっていた。
走れなくなったあたりで100メートル程だろうか、
そこから歩いたから400メートルと言ったところか。
だが中央の広場見た時、洞穴に対する恐怖は消えてなくなった。
私はすぐさま振り返り、来た道を急いで戻る。
それの恐怖というものは、洞穴のものに勝ったのだ。
影。
その影は鍬の様なものを持っていた。
近づいてはいけないとすぐ判断し、逃げる。
ただひたすらに逃げる。
「待て…」
おどおどろしい声が響く。
私は周りが見えなくなる程に走り、洞穴へ飛んだ。
が、しかし
「あっ。」
踏み切りで限界が来て、よろけた。
右手に痛みがある。
もしかして、床にでも激突したのだろうか…
「うぅ…」
ゆっくりと目を見開く。
岩?
いや、壁だ。
「うわっ」
「じたばたしないで、今引き上げるから。」
私の右手が引っ張られていく。
ドサッ
膝から足に冷たい感触。
地面か。
「おい。」
前を向くと、影がしゃがんでいる。
「ぅぁ…」
私は怯えるように後ずさる。
「ちょっと待て、また落ちるぞ。」
手をつかまれる。
けれども、影は静かに離した。
そして、足先から暗がりが消え、彩りが深くなっていく。
顔が見える。
この人って…
よくお世話になっていた、近隣の人だ。
「おい、大丈夫か?」
「お前が全速力で逃げるから疲れた。
俺が間に合わなかったらそこの穴に落ちてたぞ。」
再び来る恐怖に、少しだけ穴との距離を離す。
「水、飲むかい?」
水が入ったペットボトルを私はへたりこんだままもらう。
それには半分よりも少し多く水が入っている。
「家の水道から汲んだものさ。」
私は少し飲んでから、何となく三角座りをする。
「そうそう、ここの水は飲んではいけないからね。」
地面を指さす。
ここら辺一帯は常に水浸しになっている。
「?」
「ここの水は記憶が流動体になった物さ。」
「いわゆる、記憶が形を保てなくなって崩壊した形。
この水を飲むとね、記憶障害、意識障害、精神障害とかを引き起こすから絶対飲んではいけないからね。」
「ここら辺には無意識に崩壊した記憶が膨大にあるのさ。」
「この村も、僕もね。」
「貴方も?」
「ああ。僕も記憶の一部さ。」
「でも、強く思い出に残っているものは僕みたいに動いたり、影響を及ぼしたりするんだ。」
「そういったものが、無意識に落とされると何らかの影響を与えてその記憶を持ってる本人に影響が出るんだ。」
「記憶を取り戻したかったら奥へ進むのが正解だと思うよ。」
「そろそろだね。」
「僕は記憶の修復と、管理をしている。」
「この穴に飛び込むのなら戻る時は僕がいれば戻ることが出来るよ。」
まるでいないと戻れないというニュアンスが含まれているようにも聞こえる。
「あと、もしもこの先へ行くのならこれを持っていくといい。」
「何でこれを?」
「君の身を守る時に役に立つさ。」
「では、僕は仕事に戻るからじゃあね。」
「くれぐれも選択は間違えないように…」
そう言って村の方向へ歩いていった。
『選択』ーーーーーーーーーー
飛び込むべきか否か…
この先は見えない。
穴の底も見えない。
水が溜まっているように見える。
飛び込んでどうなるかは分からないのだ。
体中に勇気という名の力を込める。
そして瞬間的に感じた走馬灯を頼りに本能で形をとり、構える。
身体は大きく流線型をとり、綺麗に着水した。
だが、
それも虚しく、硬い水面に手や足は弾かれた。
四肢に強い衝撃と、痛みが走る。
「ぐぁっッ」
私は気絶しかけたまま水の中に沈んでいく。
しばらくは痛みと格闘していたが、
だんだんと疲れてきていた。
なんだか心が安らぐ。
痛みを通り越し麻痺したのかと思ったが違う。
これは、懐かしくそして力に満ち溢れた物だった。
安らぎを与えるような水の中だった。
呼吸を忘れるほどの安らぎ。
過去の記憶。
一番最初の記憶。
私は、
夢を見ている。
スゥーーーと意識が遠のいていく。
暗がりが拡がっていくのと同じぐらい、先は明るかった。
道しるべがあったら貴方はその道しるべの通りに進みますか?
それとも、無視して我が道を行きますか?
私はスイレンを売り物にする道を選びますかね。
今後とも宜しくお願いします。




