六 傷のついた記録
警察は、津田のスマホの履歴と、事務所から押収した資料に目を通していた。その写しの一部が、ある筋を通じて、慎平の職場に回ってきた。破損データの復元という名目で。
地下二階の蛍光灯の下で、慎平は画面を睨んだ。
津田が殺される三日前に作られた、融資関係の書類。署名、印影、日付。どれも整っている。整いすぎている。
(このタイムスタンプ、保存の順番が逆だ)
日付は古いのに、ファイルの構造が新しい。誰かが後から、過去の日付に合わせて作り直している。そして、書類の借り手欄にある名前を見て、慎平の手が止まった。
神崎霧子。
彼女の戸籍が、本人の知らないところで、巨額の融資の名義に使われていた。
下書きで共有すると、霧子の返事は長い沈黙のあとに来た。
〈私、そんなところにサインしていません〉
〈わかっています。誰かが、あなたの名前を使いました。津田さんはそれに気づいて、口封じをされた可能性があります〉
〈誰が……〉
慎平は、画像の一部を拡大した。書類の端に押された、行政書士の職印。その粒子の乱れ方に、見覚えがあった。コピーして貼られた印影だ。
職印の主は、桐生。地域に根づいた、評判のいい行政書士。貧しい人たちの相談に、無料で乗っている男。
〈桐生という人を、知っていますか〉
〈区役所の帰りに、助けてもらったことがあります。親切な人でした〉
〈その親切が、入口だったのかもしれません〉




