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「夫を返して」と言われましても、三年前にお返ししましたが  作者: 九葉(くずは)


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第五話 勝ったはずの女

リヴィアは慈善茶会の中央に、自分の席を用意させた。


窓に近く、淡い秋の日が金髪へ当たる場所。向かいには音楽院の後援者であるマルガレーテ伯爵夫人、左右には王都から来た二人の男爵夫人が座る。


この茶会は冬の施療基金を集めるために開かれた。歌手だったリヴィアが子爵夫人となり、愛のために舞台を降りても慈善に尽くしている。その物語を伯爵夫人は好んでいた。


昨年から、開会の挨拶もリヴィアに任されている。


けれど今日、客たちが待っているのは歌でも挨拶でもなかった。


青鈴草薬店で起きたことは、リヴィアが宿へ戻るより早く広まっていた。パン屋から仕立屋へ、仕立屋からその客へ。町の噂には、雨に濡れた外套も、「夫を返して」という台詞も残っている。


リヴィアは、自分から話すことにした。


「皆様にご心配をおかけしました。夫の前妻がこの町で暮らしていると、私も最近まで知らなかったのです」


伯爵夫人が茶器を置く。


「青鈴草薬店のエーレン店主ですね。施療院へ薬を納めている方でしょう」


「薬師としては評判がよいそうですわ。でも、夫へ七通も手紙を送らせておいて、何も知らない顔をするなんて」


リヴィアは声を少し震わせた。舞台で悲恋の歌を歌う時、客席の息が揃う高さがある。


「夫は三年前、私を選びました。あの方はそれを受け入れたはずです。それなのに今になって、昔の情を使って夫を呼び戻したのです」


同情の言葉を待った。


男爵夫人の一人が、砂糖を紅茶へ落とす。


「店主から子爵へ送った手紙をご覧になったのですか」


「夫が送った手紙です。七通も」


「返書は」


「隠しているのでしょう」


言い切ると、砂糖を混ぜる匙が止まった。


「子爵は返書を受け取ったとおっしゃったの」


リヴィアは答えを持っていなかった。


ギルベルトの旅行箱を調べた時、書き損じの便箋と送付記録を見つけた。最初は二年前。最後は先週。クララから届いたものは一通もない。


それでも、ギルベルトがローレアへ来た事実は変わらない。男が動いたのなら、女が動かしたに決まっている。リヴィアはそう話すつもりだった。


扉が開き、銀髪の女性が入ってくる。


ベアトリスは旅の疲れを見せず、マルガレーテ伯爵夫人へ遅参を詫びた。右手首には、見覚えのない薬包が巻かれている。


青鈴草薬店の印だった。


「お義母様も、あの人に会ったのですね」


リヴィアの声が先に出た。


「薬を買いました」


「では、お分かりでしょう。クララ様は今もギルベルトへ」


「リヴィア。離縁証書が成立した日を覚えていますか」


「三年前の雪月です」


ベアトリスは鞄から紙の写しを出した。王家の紋章と、雪月二十日の日付がある。


「息子が最初の手紙を送ったのは、その一年後です。あなたが見つけた記録にも、そうあったのでしょう」


客たちの視線がリヴィアへ戻る。


「日付に何の意味があるのです。クララ様が別の方法で呼んだのかもしれないわ」


「何を根拠に」


「夫が、あの人を愛していると言ったからです」


自分の声が、広い部屋で薄く聞こえた。


ベアトリスは離縁証書の写しを畳む。


「クララさんに会ったのは、私が仲介を頼んだ一度だけです。息子とは三年間、会っていません」


「お義母様は、前の嫁をかばうのですか」


「事実を話しています」


「私が嘘をついていると」


「あなたは、確かめていないことを店の客へ言いました。今日も同じことをなさっています」


ベアトリスの声は低い。以前なら、家の評判を守るために曖昧な言い方を選んだはずだ。今はリヴィアの逃げ道を作らない。


マルガレーテ伯爵夫人が扇を閉じた。


「子爵夫人。ここは病人の冬支度を相談する席です。欠席している商人の名誉を、夫婦の問題で傷つけるための席ではありません」


「私は夫を守ろうと」


「でしたら、まず夫とお話しなさい。前妻を相手に歌う必要はありません」


笑う者はいなかった。


それがリヴィアには堪えた。


侮辱なら言い返せる。同情なら涙を見せられる。けれど客たちは、彼女を悲恋の中心から静かに下ろしただけだった。


伯爵夫人は傍らの書記へ目を向ける。


「次の茶会の進行は、施療院の会計係へお願いします。子爵夫人には、青鈴草薬店へ訂正を出していただきましょう。それが届きましたら、歌の寄付について改めて相談します」


中央の席は、まだリヴィアの下にある。


次はない。


彼女は指輪の石を外側へ戻そうとした。指が滑り、石は掌へ向いたままだった。


屋敷へ戻ると、客間の壁は薄い金色に光っていた。三年前、クララが好んだ暗い緑を消して塗り替えた壁。リヴィアは勝った女の家を、自分の色にしたかった。


書斎ではギルベルトが便箋へ向かっている。


「何を書いているの」


夫は紙を隠さなかった。宛名はクララ・エーレン。


「最後の手紙だ」


「七通とも読まれていなかったのでしょう」


「だから、今度は読んでもらえる言葉を選ぶ」


「私が茶会で何を言われたか、聞かないのね」


「母から聞く」


かつて、リヴィアはこの寡黙さを深い感情だと信じた。歌を聞く横顔が美しく、言葉にできないほど愛されていると思えた。


暮らしてみれば、彼は言葉にしないのではない。誰かが意味を補うのを待っている。


クララがしていたように。


「あなたは、私を選んだのではなかったの」


「選んだ。だが、あの時の私は愛を知らなかった」


「便利な言い方ね。今度は私への愛が間違いだったことにして、クララへの愛を本物にするの」


ギルベルトは筆を置いた。


「リヴィアにも償う。望むなら、別の屋敷を」


「また、条件を整えれば終わると思っている」


彼の机には、領地からの報告、母への見舞い、使用人の願いが積まれている。どの紙にも付箋がつき、家令が返答期限を書いていた。人の事情を覚える代わりに作らせた仕組み。


ギルベルトは、クララがいないことに耐えられないのではない。クララがいた時の自分を失ったことに耐えられない。


「あなたが恋しいのはクララではないわ。何をしても見捨てられなかった頃の、あなた自身よ」


夫の顔から、反論が消えた。


リヴィアは腰の鎖を外した。黒鉄に銀の蔦を巻いた鍵が、机へ落ちる。


三年前、クララの前で受け取った鍵だった。あの人が祝福すれば、自分の勝利は誰にも責められないと思った。


「どこへ行く」


「姉の家へ。歌を教える仕事を探します」


「話し合うべきだ」


「クララにも、同じことを言うのでしょうね」


リヴィアは結婚指輪を外さなかった。離縁も、別居の条件も、これから決めればよい。今夜はただ、この家の扉を開け続ける役を降りる。


机の別の紙へ、青鈴草薬店宛ての訂正文を書いた。


私は根拠なく、クララ・エーレン店主が夫を誘ったと述べました。店主と夫に三年間の接触がないことを確認しました。店内と茶会での発言を訂正します。


返事を求める言葉は加えない。


鍵と訂正文を残し、リヴィアは自分の鞄を持った。


彼女が勝っていたのは、競争があると思っていた三年前までだった。


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