第7話 司書リリア③
なぜ、時間が巻き戻るのか……そして、分岐点はどこなのか……理屈も分からないまま、この力に頼り切っていた。
「リリア殿……」
私はあらゆる方法を試してみた。
飛び降り、斬首、服毒、縊死、餓死、焼死――だめだ……何度やっても、泣いているラウアを見下ろしている。
もう、彼女は救えないのだ……。
そもそも私はなぜ救いたい?
人攫いの犯罪者集団だぞ……。
マリアンヌと重ねているからか?
……だめだ、どれだけ理屈をこねてみたところで、答えなんて出なかった。
十度ほど死んだあと――私は死ぬことを諦めた。
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しばらくして、子どもたちが家を出てきた。
幼い子は泣いていたが、青年たちは何も言わなかった。
リリア殿の選択を受け入れたのだろうか?
「おい、話を聞かせてもらう……」
後から駆けつけた衛兵が私の両脇を押さえる。
「……」
私は弁明する気力もなかった。
「おい! レイブンを離せっ!」
ラウアが衛兵たちに食ってかかる。
「おい、お前もこいつの仲間か?」
「いえ、彼女はここの孤児です」
ラウア……すまない。
君を救うと約束したのに……。
私は全員を救える気でいた。
なんて傲慢で愚かな考えだったのだろう。
気づけば冷たい牢にぶち込まれていた。
衛兵の話では、リリアが所持していた毒が、最近王都で出回っているものらしい。
リリア殿は私が殺した……衛兵にはそう認めた。
このままでは、子どもたちや、ラウアまで捕まるかもしれない。
そんな義理はないのだが、
リリア殿の守りたかったもの、それだけは最後まで守ろうと思った。
こんなことなら、マリアンヌに殺されて人生を終えていた方がまだ幸せだったかもしれない。
牢の湿った岩肌がやけに心地よく感じた。
ここは、静かでいい。
「レイブ〜ン、レイブ〜ン」
鉄格子で仕切られた小窓から、聞き慣れた囁き声が響く。
ふと、顔を上げると――ラウアが窓外から鉄格子に掴まってぶら下がっていた。
「助けにきたよ!」
「ラウア、捕まる前に森に帰りなさい」
「イヤだ」
「聞き分けのないことをいうな。
私は見ての通りどうすることもできない。
君を助けられなくてすまなかった……」
「イヤだ!」
ラウアの語気が強まる。
ラウアは必死に鉄格子に噛み付いていた。
「そんなので、壊せるわけないだろ。
それに、壊せたところで私が通るには狭すぎる」
この子は私と正反対だ。
感情的になると、後先考えなくなる。
……いや、それは私も同じか?
思わず自嘲気味になる。
鉄格子に噛みつく音が鳴り響いている。
「ラウア止めなさい!
このままでは、衛兵が来るぞ」
「だから、イヤだってば!」
「聞き分けのないことを……」
「聞き分けのないのはレイブンじゃん!
いつも、分かったような顔して、自分が正しいんだって顔して……ウチには何も教えてくれない!
ウチはレイブンの何なの?」
私は彼女の言葉にはっとした。
……そうだ、私は救済を押し付けていた。
マリアンヌにしろ、リリアにしろ結果はこのざまだ。
「おい! 何をしている!」
衛兵の声が牢に響く。
「ま、まずい! レイブン、また明日来るから!」
ラウアの足音が遠くなっていく。
そうか、彼女は見た目ほど幼くない。
私よりはずっと大人だ。
衛兵が私たちの声を聞き、駆けつけてきた。
「すみません。少し、悪夢を見まして……」
「ふんっ、貴様が毒殺した者たちの怨念だろう。
闘技場で殺されるまで……ここで己が罪と向き合うがいい」
そう言って衛兵は去っていった。
闘技場か……王都の悪しき風習だな。
罪人を見せものにする娯楽。
なるほど、生き残るには私はそこで勝つしかないのか。
分岐点がリリア殿が死んだ直後の時点で、私が捕まることでしか、子どもたちを救えない。
ならば、別の方法で脱獄するしかないか。
ラウアは私が助ける。
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結局、脱獄することはできなかった。
ラウアは毎日私に会いに来てくれた。
幸いにも、孤児院で青年たちがラウアの面倒を見てくれているようだ。
私への義理立てか?
それとも、罪悪感からか……。
衛兵に連れられ、私は闘技場の広場に立たされた。
周囲をぐるりと観客席が囲み――王族席に王と王女が座していた。
……本当に趣味が悪い。
意外にも衛兵が、私の剣を返してくれた。
マリアンヌが婚約時に授けてくれた剣。
――こいつがあるだけで、少しは心強い。
彼女がそばにいるような気がした。
容赦ない日差しが、闘技場の中心に振り注ぐ。
「さあ、始まりました……本日、対戦するのは、毒殺事件の主犯――レイブン伯。
対するは元、銀嶺騎士団隊長――クラウディア!
さあ、闘いはどちらかが死ぬまで終わりません!
それでは、始めっ!」
元騎士団隊長?
そんな人物がどうして?
男の声が響くとともに、麗しき女性が銀色の髪をなびかせ、私に突っ込んできた。
「……すまない」
なぜか、眼の前の女性は謝罪の言葉を述べる。
彼女のレイピアが私の首元を捉える。
……くっ、速い!
私はとっさに体を逸らし、首の皮一枚で刺突をかわす。
しかし、次の瞬間には、
レイピアが私の胸に突き刺さっていた。
クラウディアは私を見下ろし――泣いていた。




