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ヒロインアディクション~愛と殺意のループミステリー~  作者: 那須 儒一


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第4話 狩人ラウア②

部屋の中央に空虚が転がっていた。

あれほど生活感に満ちていた小屋の中がやけに広く感じる。


私は……ただ立ち尽くすしかできなかった。


――夜が明けると、獣の代わりに首から血を流すラウアが転がっていた。


彼女の明るい赤毛は、血に浸り赤黒く変色していた。


人を殺すのは……これが初めてだった。


私は、亡骸を抱きしめた。

冷たくなった彼女の体を……温めるように。


……そうだ……また、やり直せばいい。


ラウアの血に塗れた銀の斧を、己が首筋に突き立てた。



「おっさん、ようやく起きたのかよ」


――懐かしい声が響く。


「ラウアっ!」

私は思わず、彼女に抱きついた。


「んぎゃあああ! 離せ、変態!」


ラウアが必死に暴れる。


「いやだ……離したくない!

君を一人にしない!」


「お、おっさん、ラウアは子どもだぞ!

い、いや……子どもじゃない、大人だけど……」


「ふっ、どっちなんだ?」


「む、むぅ……」

ラウアはやがて抵抗するの諦めた。


私が机の上にお皿を並べ、彼女は台所で肉を焼いていた。


熱とともに、懐かしい香りが、部屋に充満する、


「さっきはすまなかった……」


「まったく、謝ればいいってもんじゃないよ!

こんなことなら……助けなきゃよかった……」


「なんだ、ラウア。

そんなに、照れなくてもいいじゃないか」


私はラウアの頬をつつく。


「お前、距離感どうなってんだよ!

馴れ馴れしいぞ!」


ラウアはとっさに飛び退く。


その日の晩は、私は何故か縛られた状態で藁の上に寝かされた。


……どうしてだ?

私は、何もしていないのに……。


グルルル……!


――私の隣でラウアが唸り声を上げる。

そんな、まだ初日だぞ……どうして獣に!?


この時、私は大きな勘違いをしていた。


そう言えば、二回目の彼女と出会った際、彼女の獣に変身した日が早かった気もする。


倉庫にあった銀の斧、満月……。


私はてっきり……ラウアは人狼なのだと思っていた。

しかし、私の上に跨ったのは、赤い毛の妖狐であった。


……狐の化け物……東の方の伝承か?


妖狐がラウアと分かっていたせいか、不思議と怖くはなかった。


妖狐の生暖かい息が、私の首筋にかかる。


私は妖狐の赤い瞳を見つめた。


「私も君を一度殺している。

これでお相子だ」


血しぶきが上がり、私の意識は落ちた。



「おっさん、ようやく起きたのかよ」


三度目の巻き戻し。


妖狐だと分かったとして、どうすればいい?

彼女が獣になる引き金を探る必要がある。


私は……伝承に心当たりがあった。

東の方の古い伝承。だが、本来は人を襲うような魔物ではない。


狐の伝承は数多くあれど、人に化け、人と共に暮らせる妖狐は限られている。


そして、もし私の憶測が正しければ、案外、あっけなく解決するかもしれない。


「おい……おっさん、聞いているのか?」


私は彼女の赤い瞳をまっすぐ見つめた。


「……な、なんだよ……」

慌てて目を逸らす彼女に、構わず続けた。


「ラウア……君は狐女房ヴィクセン・ブライドだね?」


「……」

沈黙が肯定していた。


「おっさん……何者だ?

ウチを殺しに来たハンターか?」


「いいや、私は君を助けに来た」


私は知っている、彼女の孤独を――

私は知っている、私と友達になれることを――

私は知っている、私には彼女が必要だということを――私は知っている。


「本来、無害な魔物のはずだ。どうして、凶暴化する?」


「おっさん、そこまで知っているのか……」


ラウアは諦めたようにため息をつき――話し始めた。


「私は、里では忌み子とされていた。

村から疎外され、一人で暮らしてきた。

でも、たまに人里が恋しくなって、別の町に紛れた……しかし、気づけば、私は仲良くなった者の血で喉を濡らしていた」


「そこまで覚えていると言うことは……理性はあるのか?」


彼女は首を横に振った。


「意識も……記憶もある……でも、自分を抑えれなくなる。少しでも相手のことを好きになると……獣になってしまうんだ」


不思議だ……愛を求めて獣になるのか?


狐女房ヴィクセン・ブライドは正体を見破れれたら、相手の元を去ると言われている。

ラウア……君はどうする?」


彼女はしばし、目を泳がせたあと、まっすぐ私の瞳を見つめる。


「私は……これ以上、人を殺したくない!」


私の答えはとうに決まっている。

君に殺された――あの晩から……。


「わかった……私が君を助けよう!」


でまかせだ。

正直、伝承の中でも謎が多い部類だ。

その中でも、異端の彼女を救える保証なんてない。


ただ、私は既に彼女の孤独を放っておけなくなっていた。この、妖艶な狐によって。


「私……ラウア・アルゼリア!」

赤毛を揺らし、彼女は手を差し伸べる。


「私は、レイブン・アゼリュート・グライデル伯だ!」


彼女の小さな手をしっかりと握り返した。


「うん! よろしく!」


問題は何も解決はしていない。

それでも目の前で笑う、彼女から目を逸らすことはできなかった。

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