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離婚届
三月の終わり、午前十一時、優子はリビングのテーブルに、紙を広げていた。
A4より少し大きい紙だった。三つ折りにしてあった折り目が、まだ残っていた。
「離婚届」と、上の方に活字で印刷されていた。
夫の欄は、すでに記入されていた。氏名、本籍、生年月日。判も押されていた。判は、夫がいつも使っている、印鑑証明用のものだった。少しかすれていた。
優子は、自分の欄を埋めていった。
「妻」と書かれた欄があった。
ペンを動かす指の動きは、いつもより落ち着いていた。喫茶店でカップの取手を直す、あの動作と同じくらいの静けさだった。
紙が、少し沈んだ。
朱の色が、紙の上に残っていた。
優子はそれを、しばらく見ていた。
それから、紙を畳んだ。夫が記入した欄と、自分が記入した欄が、内側になるように畳んだ。
封筒に入れた。封筒は、すでに用意してあった。
優子は立ち上がった。
午前十一時を、少し過ぎていた。
外は、晴れていた。窓の外、ケヤキの枝が、まだ裸のまま、空に伸びていた。




