第9話 不穏と気づき
「なんか素人の俺からすると、どれも同じに見えるな……」
戦闘艦のパーツ売り場を、三人で練り歩く中、俺はホログラムで映し出される主砲を見比べる。
「はははは、そうか。一見すると見た目は同じだが中身が違うんだ。右の奴が一号で隣が二号だ」
「どう違うんだ?」
「簡単に言えば威力減衰距離だな」
「威力減衰距離?」
「威力減衰距離てのは、その砲が出せる、100パーセントの威力が続く距離だな。解りやすく言うと、例えば最大射程が1,000キロメートルで有効射程が800キロメートルだとすると、残りの200キロメートルで威力が低下するわけだ」
「なるほど……でも、その最大射程ってのは何で決まるんだ?」
「重力ドライブの出力と、砲身がどんだけのエネルギーに耐えられるか、この二つだな。ドライブがいくら馬力出せても、砲身がそのエネルギーを流しきれなきゃ意味がねえ。無理に流し込めば砲身の方が先にイカれちまう。だから、その規格の砲身が安全に流せるギリギリのエネルギー量、そこから逆算した距離が最大射程になるってわけだ。で、話に戻るけど、こいつは天桜日皇国製の光学ビーム40センチ連装砲だが戦闘艦の中型クラスに搭載する想定で作られた。一号が最大射程400キロメートルで有効射程が320キロメートル。二号が最大射程400キロメートルで有効射程が360キロメートルだ」
「そういえばは白月の主砲はどれくらいの射程なの?」
「主砲もオリジナルなのですが一応57センチ単装砲が4門で最大射程20,000キロメートルです」
「マジか!! そいつは戦艦並み射程距離じゃねえか、しかも20,000キロメートル……それほどの射程距離の光学ビーム砲はこの世には存在しないんじゃ……」
トウシは目玉が飛び出そうなほど驚愕していた。だが心なしか若干ワクワクしているのか体を震わせながら話す。
「間違いなく世界一ですね」
「それだけの射程出すには重力ドライブも物凄い馬力が必要だろ。それに砲身が耐えきれるのか?」
「詳しくは話せませんが、それだけの威力と射程を出せるとだけ言っておきましょう」
まあ当然、魔法のことは秘密なので、そのことはハルカも分かっているようで、はぐらかして答える。
「くぅーー!! 気になる!! 気になるが……そんだけはぐらかされちゃ、これ以上聞いても無駄ってもんだな」
トウシは名残惜しそうに頭をガリガリと掻きながらも、あっさりと引き下がった。しつこく食い下がられるかと身構えていた俺は、拍子抜けして肩の力が抜ける。
「聞かないのか?」
「確かに俺はこういう兵器関係のオタクだがあまり、秘密に首突っ込みすぎると自分の身が危なくなる、ってのを痛いほど知ってるからな」
トウシは笑いながらそう言うと、ホログラムの砲身から目を離し、歩き出す。
「にしても、彗星の副操縦士に、正体不明の主砲積んだ主操縦士か……。あんたら、俺が思ってた以上にとんでもねぇ二人組だったみたいだな」
その言葉に、隣のハルカが小さく口角を上げる。
「褒め言葉として受け取っておきますね」
「ああ、間違いなく褒めてるさ」
俺はそんな二人のやり取りを聞きながら、そういえば、と本来の目的を思い出す。
「そういえば買い出しに来たんだったな。パーツはもう十分見せてもらったし、そろそろ戻るか。案内してくれてありがとなトウシ」
「おう、喜んでくれたなら案内した甲斐があったってもんだぜ」
トウシはそう言って軽く伸びをすると、名残惜しそうに一度だけ主砲のホログラムを振り返り、それから俺たちは支払いを終えて店を出る。購入した物は後で配送で港に停泊している白月へ送ってくれるらしい。俺達が店の外に出ると、先程まで昼間のように明るかったが、いつの間にかコロニーの天井は真っ暗になりまるで夜のようだった。
「もう暗いし戦闘艦に戻るとするか」
トウシのその言葉に俺とハルカも、港に停泊している白月へ戻る事にした。コロニーの天井が真っ暗になったことで、建物の中から漏れ出る光がより際立つようになり、その光景は東京の夜景のような懐かしさを醸し出していた。
そんな中、トウシと俺達は楽しく談笑しながら歩く。
「で、二人はこの後どうするんだ? 俺は数日滞在してやり残した事を片付けてからこの国を出るけど」
「特に決まってないかな……」
頬を掻きながら視線を明後日の方向へ向ける俺に、トウシがふと足を止めた。さっきまでの陽気な調子が消え、声を落として顔を寄せてくる。
「この国を離れるなら早めにした方がいいぞ」
トウシは声のトーンを落とし、周りに聞こえないよう小声で語りかけてきた。その言葉には不穏な響きがある。何かあると察した俺も、声を潜めて応じた。
「どういうことだ?」
場の空気が一変したのを肌で感じた。通りを行き交う人々の喧騒は変わらず続いているのに、トウシの声だけが妙に近く、冷たく耳に届く。何かあると察した俺も、つられるように声を潜めた。
「聞いた話じゃ、最近この国の首都星でいろいろあったらしい。詳しい情報はないが冒険者の間で噂になっていてな、噂じゃこの国の王朝が変わったらしい」
トウシの口から飛び出す不穏な言葉に、俺も眉を寄せ、思わず声が少し大きくなる。
「それってクーデター!」
「バッカ声が大きい」
俺の思わず漏れ出た声に、トウシは聞かれてやしないか辺りを見回す。
「それに詳しい事は何もわからん。だが、仲間内じゃこの話はかなりヤバい。なんでも王朝に反対する勢力や反対するような事を言った奴は次々と消されているらしい」
「消される。それって……」
「文字道理の意味さ、しかも王朝が変わったとかの話しをするのもタブーだ。その話しを公然で話していたやつが消されたなんて話もある」
喉の奥が急に渇いた気がした。さっきまで賑わって見えていた通りの明かりが、急に薄っぺらいものに見えてくる。
(こっわ!! なんだそれ完全に独裁国家じゃねえか。そら~何が起こるかもわからないから皆逃げるだろうな……)
「このコロニーは国の端っこの辺境だからまだいいが、いつその手が及ぶかわからん。離れるなら早い方がいいぞ」
トウシの忠告を心にしまい俺とハルカは白月に戻る。戻ると購入した家具が届いていたようでロボット達が待っていた。どうやら設置まで行ってくれるらしくあっという間に家具が運び込まれた。
リビングに運び込まれた新品の家具を前に、俺はソファーに勢いよく飛び乗り、そのまま寝転がる。ハルカはそのまま寝転がる俺の隣に腰を下ろすと、俺の頭を持ち上げ膝の上に乗せる。そう、膝枕である。
決して変態なわけではないが、ハルカの太ももは柔らかく、俺の鼻に届くその匂いは、どこか、榛名と似ていて、それでもわずかに違う匂い。異世界にいたときから変わらない、その安心感のある匂いにふと今後のことが頭を過ぎる。
「なあ、今後どうすればいいと思う」
「マスターの好きにしたらいいのではないでしょうか。私はどこへでも着いていきますよ」
ハルカの顔を見上げながら尋ねる俺に、ハルカはにこやかに笑って答える。長い間一緒にいるハルカは、俺が具体的な案を求めていることをわかっているはず。だがハルカは冗談ぽく笑いながら答えるので、俺は目を細め、じっとハルカを見つめる。
「そういう答えを求めているわけではないんだけどな~~~わかっているくせに」
俺がそう言うとハルカはクスッと笑い、答える。
「では、私が世界征服をしましょうと言ったら目指しますか」
「いや、それはちょっと……」
若干引きつつ答える俺にハルカは笑う。
「それでは、酒池肉林のハーレムを目指しますか?」
「いいかもね~~」
ニヤリと笑みを浮かべる俺に、ハルカは呆れたように、ふっと軽く溜め息を着く。
「マスターは迷うと私に判断を託す癖がありますから。……それに自身でも考えはあるのでしょう」
「とりあえず……天桜日皇国を目指そうかなと……その後は……その後は……」
言葉が続かず、そこで止まった。俺の目が暗く沈む。そう、今の俺には生きる目的がない。異世界にいたときは、生きて、もう一度榛名に会うのが目的だった。日本に戻った後も、榛名の隣に居たかった。それだけで、前を向いていられた。
そんな俺の事を感じ取ったのか、ハルカはそっと俺の頭を撫でる。
「ではとりあえず天桜日皇国を目指しましょう。その後のことは付いてから考えれば良いのではないでしょうか」
「それも……そうだな……でも今は……」
疲れが一気に出たのか、視界が徐々に狭まり、そのまま眠りに落ちた。どれくらい眠ったのだろか、目を覚ますと自室のベットで横になっていた。隣にはハルカもそっと俺にしがみついて、目元からは一粒の涙がこぼれ落ちていた。
「行かないで……パパ……行かないでよ……」
涙を流し、そう寝言を呟くハルカに俺の胸は締め付けられる。普段はとても頼りになるハルカ。だが彼女は、異世界にいたときから誰よりも俺のことを心配していた。俺が死にかけたときは毎回こうして、俺の隣でしがみつくように眠る。その姿はどこかまだ幼い子どものように感じた。しっかり者の彼女に、俺はどこかで目を逸らし続けている自分がいた。
「大丈夫、ここにいる」
ハルカの耳元で俺は静かに語りかけた。その時、ほんの少し安心したような顔をしている気がした。
「いつか……いや」
俺は心の声を言いかけるが、振り払うように頭を左右に振るとそのまま再度眠りに着く。
次の投稿は9月になると思います。出来れば週1で投稿したいけど……ムリですね……努力はします。
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