第10話 ゲームセンターで対戦
眠りに就いていた俺は何度も繰り返しなる音で目覚める。薄目で見ながら辺りを見回すと、隣りで寝ていたはずのハルカが見えない。しかし、俺は音がなり続ける方に目を向けると、そこには、ホログラムで時間が映し出されるホログラム時計とも呼ぶべき物が机の上に置いてあった。
「どこがスイッチだ……」
俺は眠さと格闘しながら体を起こし、ホログラム時計の土台を持ち上げる。映し出される時間とともにベルの揺れるホログラムが映し出される。その土台にはタッチパネルとともに停止の文字が表示されていた。俺は眠いと思いながら停止のボタンを押し、机の上に戻す。
俺はそのままベッドの上で虚空を見つめる。しばらくすると俺はベッドを出てリビングルームへ向かった。リビングルームではハルカが料理を食卓に並べ、朝食の準備をしていた。
「おはよう」
俺はハルカにそう声を掛けると、ハルカはお盆で口元を隠し、頬を赤らめ目線を逸らす。
「お……おはようございますマスター」
俺はハルカがなぜ頬を赤らめたのか分からないまま席に着く。俺はハルカに朝食を用意してくれたことにお礼を言い、ハルカは照れくさそうに微笑む。そうして食事中も他愛のない話をしながらフォークで料理を口に運ぶ。相変わらずあまり美味しくないなと思いながら。
「そんで大まかな目的地は決まったけど今後はどうするんだ? やっぱりすぐにこの国を離れるのか?」
「そうですね。今日のところは盗賊から回収した物の売却で、出立するなら明後日か明々後日ですね」
「じゃあ俺もてつだ」
俺も手伝うと言いかけた所でハルカがなぜか遮る。
「マスター休んでいてください」
ハルカのその言葉に俺は何かしたかと不安になり眉を寄せ、恐る恐る尋ねようとするが、ハルカはにこやかに笑う。
「せっかくなので未来の世界を観光でもして見てください。楽しいですよ」
にこやかに言うハルカに、単純に厚意かと安心する俺だった。
俺は朝食を終えるとハルカに笑顔で送り出され、街に降りる。朝の街は意外にも出勤時間なのかとても人通りが多く、行き交う人は皆忙しそうだった。目まぐるしく動く街、その喧騒の中、何処へ行こうかと迷った。しばらく迷った末、この時代のゲームが気になるかもしれないと思い立った。ゲーム機を買うため、以前三人で行った家電量販店へ足を運ぶ。初めは店内を練り歩いて探していたが、意外にも店内はとても広く、迷子になりそうなほどだった。見つからないので仕方なく案内ロボットに案内してもらった。
「案内ありがとう。ところでゲーム機が沢山あるがどう違うんだ?」
俺は案内してくれるロボットの後に着くと、棚にずらりと並ぶゲーム機を前にどのゲーム機がいいのか迷い、ロボットに尋ねる。しかしロボットは俺の声に被せる形で定型文の音声を返すだけだった。
〘ご到着しました。商品の詳細な説明は店員をお呼びいたします。いつでもお申しつけ下さい〙
俺の腰ほどの大きさで地面を走るロボット、その上にはタッチパネルがあり、案内完了の文字と店員呼び出しの文字があった。少しためらいつつも店員を呼び出し、すぐに若い青年の店員がやってきた。
店員へゲーム機についていろいろ尋ねると、店員はゲーム好きなのか少し楽しそうに話し始めた。この時代のゲーム機はどうやら大まかに二種類存在するらしい。一つはゲーム世界に丸ごと入り込む没入型のVRゲーム。もう一つはアカシック端末を通して目の前にゲーム画面を映す、地球にいた頃のモニター表示型のゲームのような物だ。
では、この棚にずらりと並ぶゲーム機は何なのか。店員いわく、これらは全てコントローラーなのだという。ゲーム体験に合わせた専用形状のものもあるようだが、基本的には汎用型一台で大体のゲームが動くそうだ。
俺は頭に被るVRゲーム機と汎用型のコントローラーを購入し配送で送る。そして、若い青年の店員は俺に耳寄りな店を教えてくれた。店員いわく、その手の店は昔と違って今は縮小傾向にあり、コロニー内に一店舗あれば珍しいのだという。
そう、その店とは地球にいた頃あったゲームセンターだ。
俺は寂れているそれなりに大きな店へやって来る。店からは賑やかでやかましい大きな音が流れてくる。それは自身の記憶にある、地球にいた頃のゲームセンターそのままだった。俺は記憶と照らし合わせるように店の中に入る。店の手前には多数のクレーンゲームが置いてあり中にはぬいぐるみなどの景品が入っていた。俺は左右を見回し、クレーンゲームの中身の景品を確認しながら奥へと進む。やがて、二階への階段を見つけた。
二階からはさらに大きな音が流れ、興味本位で階段を上がる。二階には見慣れないアーケードゲームの筐体が多数並んでいて、奥には大きな箱状の筐体らしきものまであった。
「いろいろあるな……」
俺はおもしろそうなアーケードゲームの筐体がないか、一つ一つ確認しながら歩く。だが、これといって興味を引かれる台は見当たらない。そのまま奥へ足を運ぶと、ずらりと並ぶ箱状の筐体の中に、HPAシミュレーターが並べられた一角を見つけた。それはどうやら業務用のようで、筐体に大きなモニターが取り付けられ、ランキングと共に対戦受付中の文字があった。
「誰か入っているのかな……」
俺は並べられたHPAシミュレーターの筐体に目をやると使用中のランプを見つける。
(対戦とかおもしろそうだな、いっちょやってみるか)
俺は他の人との対戦に心を踊らせながら、電子決済を済ませその隣の筐体に乗り込む。シートに座り、シートベルトをつけ、手の感触を確かめるように左右の操縦桿を握りしめ、手前のタッチパネルから機体の選択をする。機体のバリエーションは近接特化型、遠距離特化型、汎用性能型の三種類でいずれも、フォルムが似通ったマイナーチェンジ機体だった。俺は迷いなく汎用性能型を選択し、対戦ボタンを選択する。すると、コックピット内部の全方位モニターに映像が映し出される。
俺の機体からそれなりに離れたところへ近接特化型の機体が立っていた。カウントダウンが始まり、俺は深く息を吸い込み、ゆっくりと息を吐く。
カウントダウンがゼロになり、ファイトの文字とともに、俺の意識はまるで海に沈み込むように、深く集中する。
その瞬間、相手の機体が動き出し、俺へ一直線に走る。その直後、相手の機体が火を噴き俺の視界から消えた。
「いない、いや、上か」
見上げると、金属の実体剣を二本両手に携え、振りかぶる敵の姿があった。
俺は機体の姿勢を後にし、足のペダルを踏み、スラスターを吹かせて後へ下がる。
直後、目の前に二本の剣が振り下ろされ、地面にくぼみが出来る。
俺は急いで機体の姿勢を戻し、盾を構える。そう、盾を持っているのは汎用性能型の機体の特権だ。
「やっぱり神経リンクで脚部や体幹の操作ができるとはいえ、その上からさらにスラスター制御と腕の操作まで乗っかるとキツイな……」
そう、HPAは搭乗者と機体の神経をリンクすることで、歩行と体幹の操作を行う。これが俺の苦戦している理由の一つだ。機体にダメージを受けても、搭乗者は痛くないが、HPAでまともに戦闘するならそれなりに訓練がいる。だが、地球にいた頃こんな兵器があったら間違いなく強力な兵器だっただろう。俺は機体を動かしながらそれを実感した。
「相手の動きからするに、それなりに手慣れた奴だな……普通に戦ったんじゃ勝ち目は薄い……それなら」
不規則な動きでフェイントを混ぜ、左右に避けながら接近する相手機体に、俺は機体の左手に光学ビームアサルトライフルを構え、全方位モニターに射撃の照準が表示され操縦桿を動かし狙いを定める。
普通であれば銃と剣ではどちらが有利か一目瞭然だ。だが、機体には戦闘艦ほどではないにしろ、ディフレクターシールドが搭載されている。これでどちらが有利になるか変わる、だとしても、開けた場所で相手とはそれなり距離があるので銃を持つこちら側がまだ有利だ。しかし、その差を埋めるのが相手との技量差だ。
そう、この俺の戦う相手は銃と剣の戦い方を熟知している。銃と剣が戦うのに重要なのは、弾を避けることではなく、相手に狙わせない回避と銃の射線から外れることにある。
俺が偏差射撃で撃つ、だが相手は直前の一瞬の予備動作を読み取り、あっさり回避する。
この相手は左右へのジグザグ移動、急な加減速、姿勢を低くしながらの接近、その動作を混ぜつつ俺が偏差射撃する瞬間、銃口の向きから避ける技術まである。
「強いな……そして戦闘技術も高い」
俺は苦い顔をして唇を噛み、ズルしているみたいで後ろめたく感じつつも〈思考加速〉を発動する。
俺の思考速度は極限まで引き上げられる。その思考は神経リンクを通して機体に伝わるが、機体の稼働速度の限界を超える速度であるため、機体はタイムラグのように遅れて動く。
相手の剣先が迫りくるその僅かで相手機体の腹部に、物凄い速さで蹴りの一撃を加え、相手を地面に転がす。
俺はそのまま後方に下がりながら、光学ビームアサルトライフルを構え、撃つ。しかし相手は機体の胴体を動かすことでそれを回避しながら体勢を立て直そうとする。相手は片手の剣を俺に向かって投げつけることで、俺が剣に対処している隙に完全に体勢を立て直す。
俺が剣を撃ち落とすことで、剣は地面に刺さるが、体勢を立て直した相手は、焦りからなのか一直線に俺へ向かう。俺はその隙を逃さず撃つが、相手はわずかに避けるだけだった。それでも放たれた光学ビームは一発、また一発と相手に命中し、ディフレクターシールドを削り、飽和させていく。
だがその前には相手の機体は俺の目の前まで迫る。俺は咄嗟に盾で機体を覆うが、相手の目的は俺ではなく、光学ビームアサルトライフルだった。俺は手に持った光学ビームアサルトライフルを見事に断ち切られ、手放した。
俺は急いで腰の短剣を手に取るが、相手の横薙ぎで振るわれた剣に盾を大きく弾かれて胴体がガラ空きになる。相手はその僅かな隙を逃さず、剣を振り下ろす。
しかし俺も負けじと〈思考加速〉で操縦桿を操作する手を動かす。
盾を持つ機体の右腕が、振り下ろされる刃の軌道へ滑り込ませようとする。操縦桿は動かしているのに、機体の速さが追いつかず、盾を持つ右腕が緩やかに動く。
(間に合え……!)
だが、完全には間に合わなかった。振り下ろされ、迫りくる剣の面に盾の縁が当たり、剣の軌道がわずかにズレた。
まっすぐ頭から胴を両断するはずだった一撃は、火花を散らし、金属同士が擦れ合う甲高い音を立てながら、肩口から盾の縁に沿うように斜めに切り下ろされた。
俺のコックピットの全方位モニターは左上から切られるように画面が暗くなり、手前のタッチパネルに映る機体のあちこちの箇所で赤い警告表示が点滅していた。
次の瞬間、全方位モニターが完全に暗くなる。
〘HPユニット、大破。対戦終了〙
その機械音声とともに俺は負けた。
次の投稿は9月になると思います。(今度こそ)
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