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人工透析導入日記  作者: 水源


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マンジャロを使って、体臭が気になった頃

 マンジャロを使い始めて、しばらく経った頃。


 私は透析を始めたのと、ほぼ同じ時期にマンジャロも打ち始めた。


 数か月で、体重は十キロ近く減った。


 ところが、しばらくすると食欲が戻ってきた。


 それどころか、食べたい気持ちを抑えられなくなり、体重も急激に増えてしまった。


「これは、ちょっとまずいな」


 そう思って、マンジャロを2.5から5に増量してもらった。


 そして、増量してしばらく経った頃。


 自分の体について、妙なことに気づいた。


 ――汗が、ものすごく臭い。


 最初は、気のせいだと思った。


 夏だし、汗をかくのは仕方ない。


 汗をかけば、多少は臭う。


 だから、最初のうちは気にしていなかった。


 けれど、何度か汗をかいているうちに、


「……なんか、前と違わないか?」


 と思うようになった。


 風呂上がりは何ともない。


 頭も体も、シャンプーやボディソープを使ってちゃんと洗っている。


 清潔な服にも着替える。


 それなのに、しばらく動いて汗をかくと、脇や胸から強い臭いがする。


 単純な汗臭さとも違う。


 油が酸化したような、いわゆる加齢臭とも違う。


 甘い香りがするわけでもない。


 ケトン臭と言われるような、甘酸っぱい臭いでもない。


 自分でも、何の臭いなのか上手く説明できない。


 ただ、とにかく――


 ものすごく臭い。


 しかも、汗をかいたあとに服を脱ぐと、その臭いが残っている。


 最初は下着だけだった。


 そのうち、ワイシャツにも移った。


 さらには、サマーベストまで臭う。


「……これは、ちょっとやばいな」


 さすがに、そう思った。


 幸い、今は自転車通勤なので、満員電車に詰め込まれるようなことはない。


 それだけは救いだった。


 もし満員電車だったら、


「周りの人に、この臭いが分かってしまうんじゃないか?」


 そんなことまで考えていたと思う。


 体はちゃんと洗っている。


 服も着替えている。


 それなのに、汗をかくとまた臭う。


 自分の体から出ているものだからこそ、余計に気になる。


「こんな臭い、前からしてたっけ?」


 それまで、自分の体臭をそこまで気にしたことはなかった。


 だからこそ、戸惑った。


 しかも、マンジャロを増量した時期と、この臭いが気になり始めた時期が重なっている。


 増量してからは、以前なら普通に食べていた量も食べられなくなった。


 食欲が減って、食べる量もかなり少なくなっていた。


 そして、私にはもう一つ事情がある。


 透析をしているので、水分を好きなだけ摂るわけにはいかない。


 腎不全で尿もほとんど出ないからだ。


 汗をかいたからといって、


「水をたくさん飲んでおこう」


 というわけにもいかなかった。


 そんなことを気にしていた、ある日のことだった。


 店で、キャストさんがお客さんと話している声が聞こえてきた。


「私、マンジャロは使わないですよ」


「なんで?」


「臭くなるって聞いたから」


 何気ない会話だった。


 けれど、その言葉だけが妙に耳に残った。


 ――臭くなる?


 私もマンジャロを使っている。


 そして最近、自分の汗の臭いが気になっている。


「……ひょっとして、関係あるのか?」


 その日のうちに、ネットで調べてみた。


 すると、マンジャロを使って食事量が減ったり、体重が変化したりしたことで、体の代謝が変わり、体臭に変化を感じることがあるらしい。


 ケトン体が増えることで、臭いが変化するという話も見つかった。


「なるほどな……」


 そう思った。


 でも、私が感じていた臭いは、甘酸っぱいケトン臭とは違う。


 医者に原因を確認したわけでもない。


 だから、マンジャロが原因だったとは断言できない。


 ただ、マンジャロを増量した時期と、臭いが気になり始めた時期が重なっていた。


 食事量も減っていた。


 水分にも制限がある。


 いろいろな変化が、同じ時期に起きていた。


 それからもしばらくは、


「うわ……また臭うな」


 と感じることがあった。


 汗をかく。


 服を脱ぐ。


 そして、自分の臭いに気づく。


「またか」


 そう思う。


 それが一度や二度ではなかった。


 幸い、その状態がずっと続いたわけではない。


 しばらくすると、以前ほど臭いが気にならなくなっていった。


 とはいえ、マンジャロには助かった部分もある。


 食べる量が減った。


 その分、食費もあまりかからなくなった。


 体重計に乗れば、数字もちゃんと減っている。


 そこは素直に嬉しかった。


 それでも、汗の臭いまで変わったように感じるとは思わなかった。


「こんなところまで変わるのか」


 あの頃は、本気でそう思った。


 あの臭いが何だったのかは、今でも分からない。


 幸い、今は以前ほど気にならなくなった。


 しかし――。


 もう一度、あの妙な臭いが復活するのだけは、勘弁してほしい。

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