第75話 けじめとそれぞれの道
それは澄み渡った青い空の日だった。
水色の髪を無造作に垂らし、王国民の罵声を浴びながら中央の台へと歩いてく。
そして彼が高台の上へとあがり、膝をついた時罪状が読み上げられた。
リュッセント王国の血筋を途絶えさせ、その王座を乗っ取ったこと。
そして王宮にいる全ての人間を操り、民を騙し続けたこと。
さらにはソリティア王国や黒龍族を攻撃し、双方に大きな被害をもたらしたこと。
最後まで闇魔法やそれに関わる一族のことについては語られなかった。
そして私のことも…。
「最後に何か言い残すことはあるか」
睨みつける民や魔導師を前に、彼は濁りの無い青い瞳で「何もない」とゆっくりと首を振った。
私とルーカス、それにドルマンはローブを目深にかぶりながら、その様子をじっと見ていた。
彼はエスティオという仮の姿で生きた時間の方が長いだろう。
しかし彼の魂は本来のユスティオールとして存在していた。
そして、今やっと彼は本来の姿に戻ることが出来ている。
結局ユスティオールは裁判の末に死刑となった。
ならばあの時に命を奪っていても同じだったのではないかと言う人もいるだろう。
ただ単純に数日の命を長らえさせただけではないかと…。
でも、私はユスティオールの罪はやはり人の総意によって裁かれるべきだと思う。
個人の感情ではなく、強い支配力でもなく、ましてや魔法という武力でもなく。
そしてこれからの王国の在り方を考えていってもらいたい。
そうでなければきっとまた同じことが起こるだろうから。
「では、ユスティオールに裁きの眠りを!」
その時、彼はフッと小さく笑ったような気がした。
まるで胸のつかえがとれたかのように。
ユスティオールが光の柱に包まれると、彼は跡形もなく消えていた。
光魔法による死刑執行らしいが、これはどんな罪人も死ぬ時くらいは光を見れるようにと、昔からされてきたやり方らしい。
これでユスティオールの魂も安らかに眠ることが出来るだろう。
そして同じように黒龍リタも台の上に座らされ、彼女はポツリと「ただ恋をしただけよ」と微笑み、そして光とともに消え去った。
ルーカスはただ、その様子をじっと見つめていた。
これからリュッセント王国は民意による君主を決め、王国を建て直していくらしい。
今回の騒動の功労者としてシュナウザーやアレックス、グレイソンらの名前が挙がっているらしく、彼等のうちの誰かにとの声が高いらしい。
それからフリードとライト、それにアースの三人は一度ソリティア王国に戻り、このことをゲシュト王に報告すると言う。
ただこれからは敵国ではなく友好な関係が築けて行けそうだと話していて、そのために尽力してくれるそうだ。
そうなることを私も願っている。
ディアナとノクスは王国に留まり、王宮の復興や治安などに力を注ぐと言っていた。
でもこの前こっそり二人がキスしているのを見てしまって、落ち着いたら結婚でもするんじゃないかと思う。
で、私はというと…
「本当に行っちゃうの?」
ノクスが私の手を取りながら顔を上げた。
「うん。私がいると色々と複雑だからね」
闇魔法の存在が一部とは言え知られてしまった以上、ここに留まるのは危険だ。
理解ある魔導師ならいいけれども、ユスティオールのようになるのではないかと不安視する者もいるだろう。もしくはそれを脅威に感じて排除しようとするかもしれない。
「そっか…」
諦めたように手を離すノクスに対し、ディアナが私にギュッと抱きついた。
「たまには顔を出しなさいよね!それくらいはいいでしょ」
「うん」
私もディアナの背中に手をまわしギュッとする。
すると後ろからシュナウザーやアレックス、グレイソンも駆け付けて、「間に合って良かった」と息を切らしている。
そしてグレイソンが私の手を握ると、
「アリーシャ、あなたの席を魔塔に空けておくから、辛かったら戻って来なさいね」
と目の端を少し潤ませながら言った。
すると割り込むようにアレックスが入って来て、
「そうだぞ!いつでも戻って来い」
と言ってニカッと笑った。
そして最後にシュナウザーが私の頭を軽く撫でると、
「ルーカスに飽きたら僕がいるからね」
とにっこりと微笑んだ。
当然、すかさずルーカスがシュナウザーに言い返して、
「そんなことにはならないね。俺たちは出会った時から運命感じてんだから。今でも思い出すなぁ。あの熱烈なキ…」
と、そこまで言いかけてギリギリのところで私はルーカスの口を手で塞ぐ。
「あはは、何でもないのよ。何でも!」
ルーカスを軽く睨んでからもう一度みんなとの別れを惜しんでいると、「そろそろ行くらしいぞ」とドルマンに声をかけられ私は大きく手を振った。
片翼の黒龍となってしまったルーカスは「黒龍の里」まで飛べなくなってしまったので、ルシエルの背中に乗せてもらって私たちはルーカスの故郷に戻る。
そうして人々の記憶から闇魔法なんてものの存在が忘れ去られるまで、私たちは人間の世界を離れ身を潜めることにしたのだ。
ルシエルの背中にはドルマンの作り出した「ミニドルマン」がちょこんと座っている。
「ふふ、あーしてると本当にドルマンの子どもみたい」
私がクスクスと笑うと、ドルマンはニヤッとしながら私の横にピタッとついた。
「じゃあ母親はアリーシャだな。よろしく頼むぞ、ママ」
ドルマンの発言とは思えないような言葉のチョイスに私が口をパクパクさせていると、ルーカスが後ろから私をぎゅっと守るように抱きしめて今度はドルマンを睨んでいる。
「おい、何ふざけたことを言ってるんだ。あれはお前の体の一部…」
と、その時、ミニドルマンが私を見て盛大に声を上げる。
「ママ!!」
その声に見送りに来ていた皆が一斉に私を見て、「どゆこと!!」と目を丸くしていた。
「ちょっ、もっ、早く行くよ!」
なぜか顔が赤くなる私にディアナが最後まで「ちょっと、降りてきて説明しなさいよ!」と叫んでいたのが面白かった。
落ち着いた頃にこっそりと会いに行こうと思う。
その時には、みんなどうなっているのかな。
とっても楽しみだ。
そうして私たちは黒龍の背に乗り、大空高くへと飛び立っていったのだった。
更新がものすごく遅れてすみません。
次話で完結予定です。
もうひと踏ん張り、頑張ります!




