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【完結】転生したら黒魔法しか使えなかった。でもイケメン黒龍を使役した  作者: 茄乙モコ
【第4章】ソリティア王国とエスティオ
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第73話 命を削って…

禍々しい黒い煙が王城から立ち上るのを見た人々はすぐさま身の危険を察知してか、市街を取り囲む城壁には人々の黒だかりができていた。しかし逃げるつもりの王都民を出すまいと、城壁を守る魔導師たちは市民に向けて攻撃魔法を発動し、地上ではもはや王都民と王国魔導士の争いが起きていた。


その頭上を真っ黒な翼をもつ黒龍たちが空を覆い、リュッセント王国の王都はたちまち暗雲の立ち込める雰囲気と化す。


あんなに平和そう暮らしていた街が、ルーカスの狂乱を皮切りに一気に戦火の広がる街へと変貌したのだ。



「ルーカスは一体どこに」


「きっとあの黒煙の中心だろう」


ドルマンが私に血界(けっかい)を張り巡らせてくれている。これである程度の攻撃魔法が当たっても私の体は守られるそうで、小さいドルマンも手伝ってくれている。


「もともと防御系は得意じゃないんだがな…」


「ありがとね…」


もうそれしか言うことは無かった。


「勝算はあるのか」


「無いこともないよ」


それ以上ドルマンは何も聞かなかった。

死をもって魔物を助けようとする人間なんてまずいない。

使役した魔物が狂乱に陥るのは魔力が枯渇するからだ。その飢えからただの獣と化した魔物は死ぬまで戦闘狂のように戦い続ける。


でもそんな飢えた野獣の前に魔力の源が現れたらどうだろうか。

たとえ自我がなくとも本能的に分かるはずだ。唯一、自分の体を潤すことの出来る存在。


そう、契約者。


グレイソンから以前、こんなことを聞いたことがある。

使役した魔物が狂ってしまったら、逃げるか殺すしかないと。

でないと自分の身を亡ぼすと。


おそらくそれは主の命令など届かず、狂ったように生命力ごと魔力を奪われてしまうのだろう。黒龍だったら身体ごと飲み込まれてしまうかもしれない。


でも、それでルーカスが生きてくれるなら、私はそれでもいい。

もともとこの世界には存在していなかった魂なんだから…。



「見えてきた…」


ドルマンの声にハッとすると、突然ルシエルの咆哮が響き渡る。


「グルガァァァア!!」


すると他の黒龍たちは立ち上る黒煙の周りをぐるぐると飛び始めた。

やがてそれは強大な風を巻き起こし、黒煙に覆われていた風景が薄っすらとその輪郭を現し出す。




「……いる」


ドルマンがそう呟いた時、私の目にもはっきりと見えた。


黒い灰が舞う中に漆黒の翼をはばたかせる男の姿が。


すでに翼はボロボロで、黒い灰だと思ったものはよく見ると羽のような形をしており、それが翼の残骸が舞っているだけと分かった時、私は身を乗り出して叫んでいた。


「…―カス!ルーカス!!」


禍々しい魔力が体中から溢れ、瞳は自我を失って血で真っ赤に染まっている。


魔導師たちは連携しながらルーカス、ただ一点のみに攻撃を定め、彼等の攻撃がルーカスを四方八方から襲っている。しかし回避も防御もすることなく彼もまたただ一点のみに攻撃を集中させていた。


「やめて!もう、やめて!!!」


どんなに叫んでも聞こえることのない声は無意味で、ルーカスの羽がさらに舞い散り体中から血が吹き出ても、彼は狂ったように咆哮と攻撃を続けていた。


あの初めて見た時に目を奪われた空中宮殿はガラクタのように崩れ、カラフルな魔塔は全て瓦礫の山と化し、ただ一つ残るのは黒の魔塔だけその姿を保っている。


「ドルマン、私をルーカスの所に送って!お願いよ!」


今すぐ救わなければルーカスは死ぬ。

私の命を全て差し出して、あの狂乱を止めなければ。


「アリーシャ、無理だ。飛んでいて位置が定まらない所に移動は出来ない」


「そんな!」


「それに見たところ狂乱の最終段階だ。あれではもうお前を食いつくした所で戻るまい…」


ドルマンは私がしようとしていたことを理解している。

でも信じたい。

あの黒の魔塔が残ってるのは、まだルーカスの意志が残ってるからだと。

そしてルーカスが攻撃を集中させている先に、きっとエスティオがいるということを。




「私…行くわ…」


「アリーシャ、君という人間は…」


「この血界が多少守ってくれるんでしょ。だったら問題ないわ」


ふぅと小さくため息をつくドルマンにはきっと馬鹿な選択をしているようにしか見えないのだろう。

けれどももう理屈じゃないのだ。

人間という生き物は時に理性よりも感情が勝るものなのだ。


「分かった。じゃあ、なるべくルーカスの真上になった時に飛び降りろ。その血界の一部を伸ばして安全にルーカスの所まで届けてやる」


安全に届けるなんてハッタリだって分かってる。

ただドルマンが私を安心させようとしてくれているのが、不思議で嬉しかった。


「バンジージャンプの命綱みたいね。いいわ。ドルマン、それに小さなドルマンの分身さん、よろしくお願いね。あと、余裕があれば…」


バンジージャンプなんて言葉をきっと知らないドルマンは少し変な顔をしたが、すぐさま元の無表情に戻って、でも続いた言葉はあたたかかった。


「…大丈夫だ。仲間の命を守ってほしいと言うのだろう。防御系は長けてないがやってみよう」


「ありがと…ドルマン」


私はドルマンに別れの挨拶のように抱きつくと、「ぼくも!」と小さいドルマンも一緒になって抱きついてきた。

そしてサッと離れると大きな声で、


「ルシエルさん!なるべくルーカスの真上を飛んでください!お願いします!」


と叫ぶと、背中がビリビリとするようなルシエルの咆哮が鳴り響く。


そしてグゥンと一気に上昇すると、今度は焦点を定めたように一気に下降し始めた。


この先にルーカスがいる。

そうなんですよね、ルシエルさん!


台風の目のように黒煙が渦を巻く中心が見えた時、「今だ!」というドルマンの合図とともに私は一気に飛び降りた。

風が切り裂くように頬に当たって、ただ体が地上に突き刺さるように落ちていく。


― ルーカス!


もはや飛ぶことも苦しいのか、ルーカスはほぼ片翼だけでバランスを取っていた。


突然、クンっと上から何かに引っ張られるような感じがして、体がその方向に持ってかれると、そのギリギリのところを魔導師が放った攻撃魔法がすり抜けていく。


― ドルマン…!


安全に届けるってそういうこと、と思いながら舞っている真っ黒な羽が目を霞める。


そしてその先の、金の瞳に赤い血管がいくつも浮き出て真っ赤になった瞳と目が合った。


― ルーカス!!



「グルガァアァア!!!」




その瞬間…、私の体に激しい痛みが貫いた。


ルーカスの右手が私の背中に突き刺さる。




「ルー……カ…ス…」



(もう、私が誰だかもわからないんだね。でも、別にそれでもいい)


そのままルーカスに抱きつくように体を預けると、私は最後のキスをした。


私の魔力も生命力も血も、全部あげる。

体に触れる全てから全てもっていけばいい。

だから…戻ってほしい。

私の知っているルーカスに。


体中から魔力の光が溢れて、ルーカスの真っ赤な瞳に私のピンクの瞳が宿るようにうつっている。


初めてルーカスにしたように、最後も魔力を渡すためにキスをして、とてもロマンチックだと思わない?





「グ…ガ……ぁ………り……―」


そう、それでいい…。


綺麗なルーカスの金の瞳が視界に映り、私はほっと手を放す。


そうして力を無くした私の手はそのままズルりとルーカスから離れていく。


重力に従ってまっすぐ地面へと落ちていく瞬間、世界をスローモーションのように眺めていた。


(あれ、こんなゆっくりと世界が流れて、もしかして今度こそ死ぬのかな)



ゆっくりと流れる景色の中にディアナ、ノクスの顔を見つけ、彼らが涙を流しながら攻撃しているように見えて、ドルマンの血の涙が思い浮かぶ。


シュナウザーの防御シールドの内側にはアレックスとグレイソンが。そしてグレイソンの傍らには黒狼がいて、ああ、相棒は助かったのだとほっとする。


その後方にはエイミーのラスコーに、ザックの炎鳥、そしてフリードとライトとアースがいる。こんな戦いに巻き込んで申し訳ない気持ちでいっぱいだ。


そして瓦礫すらないクレーターのようになった地面の中心に、分厚いシールドで守られたエスティオの姿。あなたを裁けなかったことだけが私の心残り。


でも最後に…私の意識があるうちに…


体中の神経が麻痺しているのか、もう痛みも感じない。


ただ残された生命の力だけが私の便り。



そうして私は全身から生命の魔力を解き放つと、それは光の矢となり魔導師たちに降り注いだ。


彼等の魂の嘆きが一つ、また一つと解放されていく。


ディアナ、ノクス、アレックス、シュナウザー、グレイソン、フリード、ライト、アース…。


私の大切な仲間たち。


彼等の周りにドルマンの血界が見える。


意外にくそ真面目だね…。


そうして私の体はどんどん下にと落ちていった。

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