第65話 闇魔法の最終特訓(グレイソン編)
「みんな、準備はいい?」
全員がコクっと頷くと静かに目を閉じる。
フリードとライト、そしてアースには私が闇魔導師だとは告げていない。ただ黒魔導師の新たな魔法が使えればエスティオの魔法に対抗できると話している。
きっと三人は私が普通の黒魔導師でないことには気づいているが、敢えてそれを聞かないのは彼等なりの配慮だ。それはエスティオのことも含めて…。
全てを明かしていないにも関わらずこうして私たちに協力してくれるのは、やはりゲシュト王直々の命令であるからだろうが、彼等の誠実な心には感謝しかない。
魔力融合に関係のないルーカスとドルマン、そしてディアナは少し離れた所で固唾をのんで見守っている。
本当はディアナも最後まで協力したかっただけに少し不服そうだが、何が起こるか分からない不確定要素の多いこの状況で彼女には少しでも安全なところにいてもらいたい。
そうしてアレックス、フリード、ノクス、シュナウザー、ライト、アース、私の順に手を繋いだ状態で円になり、私の正面にグレイソンがいる状態で一気に魔力融合する。
魔力融合と言ってもいわゆる魔力交換をするような感じで、繋がっている手から円を行きわたらせるように魔力を流すのだ。魔力量が少ないと行きわたらせることも出来ずに、途中で気を失ってしまうらしい。
何より全ての属性魔法ですることなどないので、どれだけの魔力を消費するかは未知数である。
私の魔力量が一番多いらしいので他と合わせながら調節して流す。この調整が結構難しく気を抜くとすぐに多く流してしまいそうだ。
やがて一番近いアレックスとアースから火と土属性の魔力が流れ込むのを感じると、順番に水、雷、風、光と体に循環する。それぞれの魔力がピリピリとしながら反発するように体を駆け巡った時、私の闇の魔力がその他の魔力を吸収するように取り込んだ。
そして目を開けると凄まじいほどの熱さが眼球を支配している。
目の前にはグレイソンがいた。
正確にはグレイソンの紫の瞳をじっと見ていた。
以前、彼に闇魔法をかけようとした時は真っ暗で何も見えなかった。
けれども今は違う。
全ての属性魔力がグレイソンの魂までの道筋を教えてくれるように、虹色の線が一つの方向へ向かっている。
なるほど、これかと思いながらその線を辿るように魔力の流れを追っていくと、真っ暗な闇に丸い輪郭をかたどった何かがある。まるで真っ暗な夜の月食のように、輪郭だけがくっきりと見えてきて、あれこそが彼の魂の核だと確信した。
私はそこにめがけて光の鎖でもって命令する。
『汝の魂に命令する。今すぐしたいと思う事をせよ!』
真っ暗な宇宙にある暗黒星のように隠れた魂に光りの鎖が巻き付くと、私は一気に闇の魔力を解き放った。
その力が強かったのか繋いでいた手が静電気でもあびたようにビリっとし、全員の手が一気に離れ後ろに体がのけ反った。後ろに跳ねた私の体もそのまま地面に倒れ込むと思った瞬間、気づけばルーカスの引き締まった胸の中にすっぽりとおさまっている。
「あ、ありがと。ルーカス」
ルーカスはニコッと笑うと私の体を支えるようにその場にゆっくりと座らせてくれた。
周りはと言うと何とか自分で尻もちをつかないよう魔法で回避した人もいれば、もともと戦闘魔法が主体ではないノクスやシュナウザー、あとフリードは思いっきり後ろに倒れたらしく、腰やお尻を手でさすっている。
「みんな…大丈夫?」
「ああ、大丈だ。それよりグレイソンはどうなっ…」
アレックスが返事をしたその時だった。
グレイソンがゆらっと立つとそのままアレックスに近づいて行く。
「あ?グレイソン、どうし…」
アレックスがグレイソンに話しかけたと思った時、皆は一瞬目を疑った。
なぜならグレイソンがいきなりアレックスにガバッと抱きつき、あろうことかチューをしたからだ!
「ん!…っつな、おいっ、やめろ!」
「ああ、アレックス。そんなつれないこと言わないでん。」
「っちょ、おいっ!アリーシャ、これどういうことだよ。何とかしろ!」
「ああ、素晴らしい筋肉だわ。ずっとこの胸にスリスリしてみたかったの」
「わーーーー!やめろ!」
まさかグレイソンの今すぐしたいことがアレックスを襲うことだとは知らず、私は少々呆然としてしまった。そういえばすっかり忘れてたけどグレイソンはオネエだったっけ…。
私はグレイソンの顔をグイっと両手でつかむと、アメジストのようなキラキラの瞳をぐぐっと近づいて見つめた。もはや目にハートマークが飛び散っていそうな乙女の瞳だ。とそんな余計なことが頭をよぎりつつ、私は先ほどかけた闇魔法を解くべく魂の核を探す。
もう一度同じように魔力融合しないと見つからないかとも思ったけど、どうやら一度見つけた魂は他の魔導師と一緒でそこに辿り着くまでの道筋が出来ていた。
真っ暗な闇の中の闇の魂。
けれどもそれは見えないだけで確実に存在する。
光りさえも吸収するかのように先ほど巻き付けた光の鎖はみえなくとも、私にはそこにあることが肌で分かった。
『汝の魂に刻みし我が命令の鎖よ、滅びよ!』
パリンッと光の鎖が散りバラバラになると、目の前のグレイソンはフッと目を閉じて脱力した。一番近くにいたアレックスが反射的にグレイソンの体を支えるが、それが姫を支える王子の図みたいでつい先ほどのやり取りが思い出される。
そう思ったのは私だけではないようで、シュナウザーが必死に笑いを堪えていた。
「アレックス、目覚めのキスで起こしてあげたらどうです?」
普段あまり冗談など言わないシュナウザーが珍しく揶揄った。するとそれを聞いていたアースが真面目な顔をしてシュナウザーをたしなめる。
「失礼ですよ、シュナウザー殿。恋愛に性別は関係ないのでは」
「ああ、それはそうだね。僕としたことが長年の友を失うところだった」
そしてアレックスはそんな彼等の会話を恨めしそうに睨みながら、
「何でもいいけど誰か手伝ってくれ。俺一人で運ぶの嫌だからな」
アレックスは無類の女好きだ。
それはグレイソンも分かっているだけに何もしなかったのだろうが、今回のことでグレイソンの欲望がどんなものか知ってちょっと複雑な気持ちになるのだった。




