第59話 ソリティア王国の王ゲシュト
ソリティア王国の王宮は灰いろの城壁に囲まれた軍事要塞のようでもあり、中世ヨーロッパの古城のような雰囲気があった。
まずは門番から始まり王国魔導士の志願者だと嘘をついて中に入った。中にはいくつか建物がありどれが何なのかはよくわからなかったが、ドルマンが一番奥の建物だと言うのでそのまま突き進む。
何度か不審に思った衛兵に声をかけられるも、そこは闇魔法を使って騙し騙し動き回った。
やがて王宮内の一番奥までたどり着くと、扉の前に立つ魔導師に闇魔法をかける。
『我、汝に命ずる。王にドルマンを使役した者が来たと伝えよ。』
ぼやっとした瞳で「はい。」と返事をしたその魔導師は王宮内へと入っていった。
その間ルーカスには外の茂みで待機するように指示し、何かあればテレパシーで伝えることにした。
「本当は俺が一緒について守ってやりたいが、ここは瞬間移動を使える吸血野郎に譲る。アリーに傷一つつけさせるなよ。」
「そんなこと百も承知だ。本当に黒龍は心配症だ。いざとなれば俺が血の雨を降らせて一気に…。」
「はい、そこまで。私はなるべく平和的に魔導師を連れて行きたいの。面倒でも私のやり方に従ってちょうだい。」
まだ名前で呼ばない二人を見て仲良くやっていく道のりは遠そうだが、本当にほんの少しだけ信頼が生まれているのかなと思った。でなければルーカスが譲るはずない。
そうして待っていると奥からパタパタと駆けて来る足音がする。ルーカスはサッと茂みに隠れ、私とドルマンは向こうの出方を窺った。
息を切らして戻って来た魔導師は「すぐに王がお会いになるそうです」と告げると、私とドルマンを中へと案内する。エスティオの時のように封印魔法がかけられていないかドルマンに注意させ、二度とルーカスと同じような羽目にならないよう緊張しながら歩を進めた。
やがて両開きの大きな扉の前に案内されると、魔力を封じ込めた石を扉にはめ込んだ。
するとギギギと鈍い音を立て扉が開く。
「どうぞ」と言われ中に入ろうとした時、私は床に幾何学の文様が描かれていることに気づき出そうとした足を引っ込めた。
「ドルマン、王の元へ。」
私がそう告げるとドルマンはニヤリとし、私を抱えて一瞬で消えた。
当然その場にいた魔導師たちはその場でキョロキョロしたが、すでに私の目の前には王の姿があった。
「初めまして、アリーシャです。ドルマンはもうご存じですよね。」
極めて不気味な笑みを浮かべて私は挨拶する。
こういう場合最初に舐められたら付け込まれることをこの世界で学んだ。少しくらい礼儀を欠いていようがもう関係ない。私は目的を果たすためにここに来たのだから。
早くも警戒した謁見室の魔導師や兵士たちが攻撃態勢を取るが、王がサッと手を挙げると攻撃の姿勢を止めた。
「こんにちは、お嬢さん。私がソリティア王国の王ゲシュトだ。」
年は四十くらいだろうか。黒髪に黒ひげを生やした狼のような紫目の男だった。ごつごつとした指にはいくつも指輪がはめられ、腕や首回りにもじゃらじゃらと飾りがついている。おそらく全て魔道具だろうと思いながら警戒する。
そしてすぐさま彼の瞳を見る事わずか1秒。
驚きのあまり「ドルマン!」と叫びその場から離れるよう叫んだ。
王ゲシュトはしたり顔で悠長に髭をさすっている。
当初の計画では王に闇魔法をかけ、王宮で一番強い水と雷、土属性の魔導師を連れてくるよう指示する予定だったがそうもいかなくなった。
なぜならゲシュト王の瞳を見た時、それはグレイソンと同じ真っ暗な闇だったのだ。
それが意味するところは彼もまた黒魔導師か、そうでなければ闇魔導師である可能性が極めて高かった。
ドルマンは私を抱えながら蝙蝠のように謁見室の天井に張り付くと、王ゲシュトはその場にいる魔導師たちを下がらせた。何の口答えも動揺もなく出て行く魔導師や兵士の姿を見るに、私の中で彼もまた闇魔導師である可能性が高いと見ていた。
やがて謁見室の扉が閉じられると、大きな広間のような部屋に王ゲシュトと私、そしてドルマンの三人だけになった。
「これで少しは落ち着いて話ができそうかね、闇魔導師のアリーシャ殿。」
「やっぱりあなた…。」
私たちが警戒して天井に張り付いたままでいると、
「お気づきの通り私も闇魔導師だ。だから床の封印魔法は発動できない。これを発動するためには何人かの魔導師の力が必要だからね。」
「でも魔道具がありますよね。そんな言葉には騙されません。」
絶対に信用してはならない人間だと思いながら、私は上からゲシュトを見据えた
「はっはっはっ。随分と警戒されているようだ。」
「当然です。だって…。」
と言いかけてやめた。なぜならその続きは、エスティオで十分に痛い目を見たからと言おうと思ったからだ。しかしゲシュトがエスティオのことを知っているかどうかまだわからない。だとしたらここは黙っておくことにした。
「ところで何の用で私を尋ねた。吸血魔族の王の血でも差し出してくれるつもりか?」
「お望みなら。ただし命の保証はしませんけどね。」
ドルマンの血はその肉体に宿る魂を破壊する。私がこうして生きているのは奇跡みたいなもので、おそらくゲシュトの場合は違うだろう。
「なるほど。不死の血とやらに興味があったのだが…。」
また髭をさすりながら何やら考えているようだった。
「…して望みは何だ?一応聞こうじゃないか。」
相手が闇魔導師ならかなり分が悪い。
きっと向こうの方が一枚も二枚も上手だ。
ならばここはもう素直に行くしかなかった。
「魔導師を三人、借りたいのです。」
「ほう…なぜ?」
やはりそう来るよねと思いながら、さりげなく探りを入れる。
「隣国のリュッセント王国で何が起きてるかご存じですか?」
敢えて敵国ではなく隣国と言った。決して私が争う意思がないことを遠回しに伝えたかったのだ。
「エスティオか…。アイツは我が国というよりも我が一族を目の敵にしている奴だ。」
「エスティオをよくご存じで?」
「ああ、よーく知っている。アイツはこちらからすれば我が一族の裏切り者の血筋だからな。」
「裏切り者…?」
王ゲシュトは私とドルマンを見上げるとゆっくりと立ち上がり、はめていた指輪を台座に押し当てた。するとガガガという何かが動く音がしたと思ったら、台座の下に階段が現れた。
「ついて来なさい。罠などないから。」
私はドルマンに下に降りるように言い、王ゲシュトから数歩離れた位置まで近づいた。
ゲシュトは柔らかに微笑むと「我が一族以外にも生き残りはいたんだな…。」と小さく呟いた。
そして台座の下に現れた階段を先に降りていく。
私はドルマンの方を一瞥し、そしてその階段に足を踏み入れた。
壁に光り魔法でも施してあるのか、割と中は明るい。
そうして行きついたところでゲシュトは待っていた。
その先にはまた扉がある。
ゲシュトはまた別の指輪を扉に当てると、ズズズズと扉が横にズレていく。
一体何を見せようと言うのだろうか。
これは本当に罠ではないのか。
色々な疑念が渦巻く中私はその扉の向こうへと入っていった。
最近、更新がきちんと出来ておらずすみませんでした。
やっとソリティア王国まで来れて嬉しい限りです。
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