第55話 凶報と吉報
左手の薬指にはめられたソレを隠すように右手を添え、ソワソワしながら皆が来るのを待っていた。
ルーカスはそんな私の隣にピッタリとくっついて、添えた私の右手の上にさらに覆い隠すように片手を添えている。まるで大事なものを守っているかのように。
しばらくすると回復したグレイソンを連れてシュナウザーが部屋に入って来た。
それからディアナ、ノクス、アレックスと続きドルマンが最後に現れた。ドルマンはそのまま部屋の隅の壁にもたれかかり、そこで静かに皆の様子を見ていた。
私はまずあの場にいなかった三人にさっき起こった出来事を伝えた。
私がグレイソンの魂の支配に失敗したこと。
そしてドルマンが闇魔導師の魂に闇魔法をかける方法を知っているかもしれないこと。
最期にグレイソンがドルマンの記憶を読むのをかって出たこと。さらにはその反動でグレイソンは倒れ、ドルマンの血が暴走しかけたこと。
話し終わると三人は安堵のため息をつき、少し怒り気味のアレックスがグレイソンの方を向いた。
「次そういうことをする場合は一応俺たちにも先に言ってくれ。何も出来ないかもしれんが、もし何かあった時その場にいなかったら悔やまれるからな。」
ディアナとノクスも頷いている。
グレイソンは「はは…」と苦笑いをすると「すまない」と小さく謝った。
そしてグレイソンは本題のドルマンの記憶について語りだしたのである。
「先に結論から言うわね。」
皆がグレイソンに注目する中、ドルマンただ一人は天井をぼぅっと見ていた。
「闇魔導師に魂の鎖をかけるためには、おそらくあと三人必要よ。」
「三人…。それは一体どういうことですか?」
あと二日もたてばエスティオに私たちの位置が知られて攻撃されるかもしれない時に、あと三人も必要だと言われ私は愕然とした。
「私が読んだ記憶の中に一人の魔導師を円のように魔導師たちが取り囲む儀式みたいなのがあったわ。きっとあれが闇魔導師の魂に鎖をかける方法だと思うの。」
「それで、何であと三人なんだ?」
ルーカスが苛立った様子でグレイソンに投げかけた。
「円のようになっていた魔導師は全部で七人の魔導師いたわ。七人よ。この数字で何か思いつくことはないかしら。」
するとノクスが思いついたように発言する。
彼はディアナと一緒にいるうちに、少し男らしくなったようだ。
「もしかして、全ての属性魔導師の数…ですか?」
「ええ、私もきっとそうだと思うの。それで今ここにいるのは火属性のアレックスとディアナ、風属性のノクス、光属性のシュナウザー、闇属性のアリーシャよ。足りないのは?」
シュナウザーがため息をつきながら腕を組んだ。
「水と雷と土属性ですね…。」
「そうよ。だからあと三人足りないの。」
それを聞いていて私はふと疑問に思ったことをぶつける。
「ちょっと待ってください。でも、それってグレイソンさんの半分は想像ですよね。それが確実だっていう何か確信でもあるんですか?」
それは他の皆も思っていたのかグレイソンをじっと見た。
「そうね…。確実だとは言えないけれども、一つ確信はあるわ。」
そう言ってグレイソンはルーカスの腕にはめられたあの金の腕輪を指差した。
「黒魔導師たちが使役した魔物たちにはめられた金の腕輪。もともとはそれを外そうとしたところから始まったのよ。そしてその腕輪もじっくり研究したわ。」
「そうですね。それは私も前に聞きました。それで…?」
「前にも言ったかもしれないけど、その腕輪には全ての属性魔法が付与されているの。最初は魔物がどんな魔法を使っても効かないようにするためだと思ってたけど、エスティオが闇魔導師なら少し話は変わってくるんじゃない?」
「と言うと?」
「いくらエスティオでも他の魔導師が使役した魔物を支配するのは簡単じゃないわ。じゃあ、それを可能にしているのは?何かエスティオの闇の魔力を助けるものがあるんじゃないかと思うの。」
「それが他の属性魔法…。」
「おそらくね…。どういう原理かわからないけど、今回の記憶を読んで何かつながった気がするの。これが私の確信よ。」
グレイソンの説得力のある説明に皆、納得しているようだった。
そして各々が何か頭の中で思考を巡らしている。
そんな中でアレックスが一瞬静まり返った空気に切り込みを入れた。
「じゃあ、そんな話の中で一個朗報な。どうやらこの龍の巣は魔導師の浮遊魔法程度じゃ来れない高さにあるってことがわかった。試しにノクスが地上に降りてやってみたが、半分くらいまでしか上昇出来なかったんだ。」
「なるほど。とするとこの場所を攻撃するためには向こうも龍族の背中に乗ってくるしかないってことですね?」
「アリーシャ、正解!まぁ、向こうも血の契約だっけ?それで捕えた龍族を使役してるかもしれないけど、相当魔力量がないと黒龍を使役するのは困難だからエスティオでも簡単にはいかないってこと。」
ディアナは私を見てニッと笑った。
「だからアンタは相当レアだってことよ、アリーシャ。位置を知られてもしばらくは何とかなりそうだわ。ただ、向こうも何か考えてくるでしょうから、気は抜けないけどね。」
それを聞いてほっとした私はつい堅く握っていた手を緩めてしまった。
その拍子に指にはめられた指輪が露わになる。
そして当然それを目ざとく見つけたのは、
「アリーシャ、ちょっと何よそれ!ゆ、ゆ、指輪じゃない!えっ、いつの間にそんな深い関係に?」
ディアナは私とルーカスを交互に見ると、顔を真っ赤にした。
「私たちが必死で頑張ってる時に二人はそんないちゃいちゃしてたのね!信じらんない!」
「っちょっと、待って。ディアナ。それはちが…。」
いや、違わないかと思いつつ一生懸命否定する。
「黒龍君もやりますね…。僕が見ていない隙にそんなことをするなんて…。」
シュナウザーが薄っすらと笑いながら、軽く怒っている。
「俺の勝手だろ。何か文句でもあるのか?」
ルーカスは否定せずに正面から皆の注目を迎えうっていた。
ほんの数分前まではかなり深刻な話をしていたはずなのに、指輪のせいで一気に気が緩んでしまった私たちはご飯を食べてから作戦会議をすることとなった。
そうして一人ずつ部屋を出て行く中で私はグレイソンに呼び止められる。
「アリーシャ、あなたにだけ話したいことがあるの。ちょっと残ってくれる?」
真剣な表情のグレイソンに胸騒ぎがしつつ、私は軽く頷いた。
私は残りたがるルーカスを追い出しソファに座ると、自然と薬指にはめた指輪を触っていた。
少し気持ちが落ち着く気がした…。
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