第50話 闇魔法と私(ディアナ&ルーカス編)
ディアナの瞳はアレックスと同じ炎が宿ったような赤ともオレンジともつかない揺らめきがあった。
彼女の気の強さが瞳にも現れて、こちらまで火傷をしそうだ。
「準備はいい、ディアナ。」
「もちろんよ。」
どっからでもかかってきないさいと言わんばかりに、ディアナは腕を組みいつもの高飛車な態度を取っている。これが強がりだということを知っていると、やっぱりツンデレだなと思いながら私は彼女の瞳をじっと見た。
熱い炎のゆらぎ。
ヒリヒリとした痛みが私の目を刺激する。
ディアナ…。
今では私の大切な親友。
あなたの願いを叶えてあげる!
炎の中を突き進むように彼女の魂のカケラを探す。
チリチリとした痛みが目から神経を刺激し私の顔を歪ませても、瞳を見開いたまま彼女を捕えようと必死だった。
昨日の夜、寝る前にディアナと約束したのだ。
― アリーシャ、あんたにお願いがあるの。聞いてくれる?
燃えたぎる炎の中で彼女のさらに熱く燃えているであろう魂を探していた。
と、その時…ひと際熱く燃える炎の塊が誰も寄せ付けまいとしている。
今まではっきりとした実体があったのに、形のない魂は初めてだった。
これは同性だからこのように見えてしまうのかわからないが、その炎の塊めがけて光りのチェーンをくり出した。
『汝の魂にかかりし制約を解除し新たな制約を刻む…好きな人の前では素直なディアナを見せること!』
炎が勢いよく広がったと思った瞬間、パリンと光りが砕け散り新たな光りがそれを包みこんだ。
その一瞬だけ形のなかった彼女の魂が見えた気がした。
とても綺麗な炎の球体だった。
やっぱり本当は丸いんじゃない…。
自分でもよくわからない感覚に襲われながら目を閉じる。
眼球もその周りもヒリヒリしてしばらく目を開けることはできなさそうだ。
隣にいるルーカスがやっぱり私の体を支えてくれているのがわかった。
「大丈夫だよ、私は平気。それより…ディアナは?」
するとディアナは私の手を握り、はっきりと言った。
「アリーシャ、ありがとう。やっぱりあなたは親友ね。」
好きな人の前では素直に…。
今の言葉は素直な表現だと受け取っていいかな。
そう思うと私は嬉しくてたまらなかった。
「こっちこそ、ディアナ。これからもよろしくね。」
私は笑ったつもりだが上手く笑えていただろうか。
目をつぶっているとよく分からない。
そうして私はディアナの手から伝わるあたたかな体温にまた救われた。
これでアレックス、ノクス、シュナウザー、ディアナにかかった魅了魔法を解いた。
残すところは黒魔導師のグレイソンに闇魔法が通じるかだが、その前にやらねばならないことがあった。
「ルーカス、ご飯の後…外で待ってるね。」
この時も微笑んだつもりだけど、上手く笑えていただろうか。
♢♢♢
ご飯の後、私は湖の近くに座っていた。
綺麗な満月が煌々と湖を照らして水面が光っていた。
後ろから足音が近づいて私はサッと振り返る。
「アリー…。」
陶器のような肌に青白い光が反射して綺麗な骨格を浮き彫りにさせていた。
漆黒の髪がサラサラと揺れている。
トサっと隣に座るとじっと私を見ていた。
「ついに俺の番なのか…。」
私は目を軽く伏せた。
「本当は一日二回が限度なんだけど、魔法を解くだけならそんなに疲れないから。」
「どうしても解かなきゃだめか?」
ルーカスの眉間にしわがより、顔を辛そうに歪めた。
そんなに切なそうに見ないでほしい。
そう思いながら私は笑った。
「嘘はいやなの。ほら、私…頑固だから。」
そして私は魔法を解く前にどうしても聞きたいことがあった。
「それと一つ教えてほしいことがあるんだけど。」
「何?」
ルーカスが少し項垂れた首を横に向け、垂れ下がった髪の隙間から私を覗きこんだ。
「五十年くらい前にルーカスに連れ去られたっていう女の人がいるの。知ってる?」
「…。」
思い出しているのか、それとも言いたくないのかしばらくルーカスは黙ったままだった。
「五十年前はまだ俺がこの龍の巣にいた時だな…。その時は親父のマネごとをしてたかも。」
「真似事って?」
「酷い扱いを受けてるヤツとか、襲われてる人間をその場から連れて人里離れた森で匿った。もし…龍の巣に行きたいなら誰かの嫁にしてやるつもりで。でも、助けた人間に怖がられるは、人間のやることは変わらないはで俺は嫌になってここから出たんだ。」
「それで西の森に?」
「そうだな…。もう、人間に関わりたくなかったのかもな。」
人間を助けたというルーカスと、突然連れ去られたというあの女性。
きっとどちらも本当なのだろう。
だけれども、あの女性にとっては恐怖でしかなかったのだ。
「そう…。もし、その時に連れ去った人に会ったらわかる?」
ルーカスは首を振った。
「覚えてない…。俺は…きっと助けたいなんて気持ちなんて全くなかったんだ。あの時はただ龍族の皆がするようにしてただけで何の気持ちもなかった。…嫌いに、なったか?」
不安を目に浮かべるルーカスを私はぎゅっと抱きしめた。
「大丈夫。どんな答えでも、もう揺るがないって決めたから。」
そして私はルーカスの頬を両手で挟むと、そのまま自分からキスをした。
どうか…気持ちが変わりませんようにと願いを込めて。
「アリー、俺…アリーが大好きだ。俺の血を一生懸命拭いてくれたのも、カッコイイって言ってくれたのも全部ドキドキしてた。だから…。」
「ルーカス…もう、いいから。黙って…。」
ルーカスの光る金の瞳を見つめた。
魔物との契約では行動に対する支配しかできない。
精神まで及ぼすとなれば、それはもはや闇魔法の力だ。
願わくばルーカスの魂にあの光る鎖がないことを祈ったが…それは、やっぱり無理なお願いだったようだ。
真っ暗な漆黒の世界に金色に輝く魂のカケラを見つけた時、そこに掛かる光りの鎖をはっきりと見て取れた。
やっぱり…あった。
私はその時一筋の涙が自分の瞳からこぼれるのを感じながら命令する。
『汝の魂に刻まれし魅了の鎖よ…滅びろ!』
バリンっと割れる音がし、粉々に砕け散った光りの鎖が目に映った。
光る金の瞳が漆黒の色に変わっていく。
それと同時に私の瞳もピンクの輝きを失いブラウンの瞳へと変化した。
自分の瞳から魔力が感じられなくなった時、皮肉にもこの時初めて自分の魔力をコントロールするすべを知った。
ルーカスの頬から手を放し、私は不安な気持ちと期待で入り混じる瞳で彼を見た。
「ルー…カス…?」
震える声で名前を呼んでみる。
ただ私を漆黒の瞳で見るルーカスに私の不安は現実のものとなっていく。
「ルーカス…。嘘…だよね。お願い…何か言って、ルーカス。」
私の瞳から涙の粒が一つ、また一つと出てきた。
「嘘…。こんなのって酷すぎる。お願い…ルーカス、また言ってよ。」
また言ってほしい。
私を好きだって。
大好きだって。
するとルーカスの瞳が綺麗な金色に輝き、私をぎゅっと引き寄せた。
そして耳元で絞り出すようなルーカスの声がした。
「酷いのはどっちだ…。黙れと言ったり、俺を試すようなことをして…。」
「ルーカスっ。」
ルーカスはぎゅうっと私を抱きしめると、いつものフレーズを言った。
「アリー、大好きだ。死ぬまで一緒だよ。」
私は感動のあまり気づいていなかった。
この時はただ嬉しさで胸がいっぱいだった。
この言葉がどんなに重い意味があるのかを…。
いつもご愛読ありがとうございます。
ブクマや★での評価もありがとうございます。
最近、体調を崩しがちで更新が予定通り行えていないこと、申し訳なく思います。
読んでいただけてると思うと、頑張ろうと思うから不思議ですね。完結させずに終わらせることのないよう最後まで頑張ります。
皆様も体調にはお気をつけてください。




