第49話 龍の巣での生活(水浴び編)
龍の巣での生活にも慣れ、すでに半月ほどが経っていた。
今日も日課である水浴び(人間世界で言うところのお風呂)に皆向かった。人間世界のようなバスルームと言ったものはなく、浮島の真ん中にある大きな湖で軽装のまま入るのである。
ルーカスが性別に関係なく風呂に入ることに何の躊躇いがなかったのはこのせいかもしれない。
だいたい太陽が真上に登る正午から午後三時くらいまでの間に好き勝手に水浴びをするのだが、最近は異常なほど同じ時間帯に水浴びをする龍族の女性が増えた。
と言うのも…
ぱしゃっ!
赤いロングストレートの髪をしならせた筋肉質のアレックスに
「きゃー!アレックス様ー!手振ってー!」
美しい長い銀髪を滴らせる細マッチョのシュナウザー。
「シュナウザー様ー!今日も上品で優雅ですー!」
クリッとした緑の瞳に栗色の髪がサラサラと揺れるノクス。
「ノクスくーん!可愛い!笑ってー!」
ダークグレーの髪がしっとりと濡れ紫の瞳が怪しく光るグレイソン。
「グレイソン様ー!どうか私と契約してー!」
一体何なんだ、これは…。
まんざらでもなさそうなアレックスはニカッと笑いながら手を振り返し、シュナウザーはいつもの微笑みを讃えている。ノクスは恥ずかしそうに俯き、それを見たディアナが握りこぶしをワナワナさせていた。そしてグレイソンはおねぇですよー!と叫びたい。
そして私の気がかりはやはりルーカスだ。
ルーカスと父ルシエルが出てくるとさらに大きな歓声があがる。
ツヤツヤとした黒髪になぜ興奮気味なのかと聞きたい金の瞳を輝かせ、二人とも惜しげもなく美しい筋肉をさらけ出している。父ルシエルが三つ編みにした長い髪をほどき、涙ボクロのルーカスが髪を掻きあげながらため息をつくと二人の色気が駄々洩れる。
「きゃーー!ルシエル様!ルーカス!どっちでもいいから結婚してー!」
「龍族の男の中ではやっぱりダントツ、カッコイイー!」
このようにして黄色い歓声が日々増えていくのだ。
それを聞くたびに私のモヤモヤは大きくなる。
ルーカスのバカ。
何でそんなカッコイイのよ。
しかし、驚いたことに最も人気があるのはルーカスではなかった。
透き通る白い髪の男が出てくると歓声は止み、一気に静まり返る。
男がそのまま湖に入りその水を片手ですくって一口飲むと、歓声を上げていた女性たちはゴクリと唾をのんだ。美しい透き通った髪に人間離れした真っ白な肌。赤く光るルビーの瞳に血の通った唇が目立つ。軽く布を纏い水浴びをする姿は、まるで神話に出て来る神そのものだ。
そう、最も人気があるのは他でもないドルマンだ。
固唾をのんでドルマンの一挙手一投足を見守り、部屋に戻るまでじっと見つめている。
そしてドルマンの姿が見えなくなると同時に多くの龍族の女性がバタッと倒れた。
「尊い…尊いわ。」
「水浴びをする姿なんてまるで精霊のよう…。」
「あんな真っ白な肌…見たことない…綺麗すぎる。」
精霊どころか恐ろしい吸血魔族ですよと思いながらその様子を見ていた。
ドルマンは皆に恐れられていると思っているようだけど、実際は違うということをそろそろ教えてあげてもいいかもしれない。
私はクスッと笑うとルーカスが冷たい視線を私に向ける。
「アリーもあの吸血野郎が綺麗なのか?」
「そうね…綺麗は綺麗かもね。」
確かにドルマンは恐ろしい吸血魔族ということをのぞけば綺麗かもしれない。
「何だそれ…俺と二股する気か?」
気づけばルーカスから凍えるような冷気が出ていることに気づく。
私は慌ててルーカスの手を取り、自分の頬に当てた。
「そんなことある訳ないでしょ。私はルーカスだけなんだから。」
「アリー…。」
ルーカスが濡れた私の唇を指でなぞりそのままキスされるかと思った瞬間、パシャっと冷たい水が顔にかかった。
「えっ…。」
「お二人さん、僕が見てる前ではさせないよ。」
そう言ってシュナウザーがニッコリと微笑んだ。
ルーカスがヒヤリとした視線をシュナウザーに向ける。
「おい…銀髪男。諦めたんじゃなかったのか?」
「まさか。僕がいつ諦めるなんて言いましたか?チャンスがあればいつでもつけ入るつもりですよ。」
「シュナウザーさん…?」
「これからは僕のことはシュナウザーと呼んでください。それとアリーシャが知らない僕を一つ教えてあげましょう。僕はとっても諦めの悪い男なんですよ。」
シュナウザーが優しく微笑む顔とのギャップに驚かされながら、私は「はは…。」と笑った。
どうやら当分、外でいちゃつくのは無理そうだ。
私はルーカスの手をパッと放しシュナウザーの方を向いた。
「じゃあ私もシュナウザーさんの知らないことを一つ教えます。私はとっても頑固な人なんですよ。」
「はは。じゃあ、まずはシュナウザーと呼んでもらうところから始めようかな。」
全然響いてないシュナウザーに呆れつつ、私は腕を組むルーカスを見上げた。
「じゃあ俺たちはお前の見てないところで存分にいちゃつくことにしよう。な、アリー。」
それはそれで困ると思いながらまた「はは…。」と笑った。
ルーカスの瞳はいつもよりさらにギラギラと光っていた。
そんなこんなで水浴びタイムが過ぎると、私はまたいつもの部屋に戻った。
モフモフソファに座り一息つく。
そして頬をパンっと叩くと気合を入れ直した。
後から入って来た赤髪の女の子に視線を向ける。
今日はいよいよディアナの番だった。




