↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/77

第45話 父ルシエルの妻たち

二度寝して起きた時、部屋の向こうからいい匂いがした。

どうやら朝ごはんを用意してくれたらしい。


ルーカスをどけて匂いのある方へ行くと、せっせと三人の女性が支度をしてくれていた。そのうち一人はかなり年配である。最初はルーカスのお祖母ちゃんかと思ったが、何と父親であるルシエルの第一夫人だという。てっきり綺麗な若い女性を嫁として侍らせていると思ったので、これには正直驚いた。


「おや、あなたがルーカス坊ちゃんのお嫁さんかい?」


顔をしわしわにしながら第一夫人が優しく微笑んだ。


「あ…えっと、嫁ではなく性格には契約者です。アリーシャと言います。」

「似たようなもんじゃろ。」

「そうですかねぇ…。」


そこは適当に誤魔化しながら相槌を打つ。


「私はルシエルの嫁のオランジュだよ。あっちでスープを作っているのが二番目のキャロル、今テーブルの上に運んでくれているのが三番目のマリーじゃ。」


見たところキャロルは四十代くらいで、マリーは二十歳前後といった感じだった。

三人ともルシエルに拾われて嫁になったらしいが、私はこの時ルーカスに(さら)われた女性の話を思い出していた。どんなことがあっても受け入れる覚悟で告白したのに、結局未だに聞けずにいる自分は意気地なしだ。


「あの…。」


私は彼女たちに聞きたいことがたくさんあった。

どうしてここにいるのか。

無理やり連れて来られたのか。

黒龍の嫁にさせられてどう思っているのか。

次から次へと質問が頭に浮かぶのに、何から切り出していいかわからない。


するとオランジュが何かを察したように口を開いた。


「私たちは無理やり連れて来られた訳でも、嫌々ここにいるわけでもないよ。」


私は思わず顔を上げた。

オランジュさんは相変わらず優しく微笑んでいた。


「もう五十年も前になるかね。私は奴隷商に売られて気持ちが真っ暗だった時さ。目の前に綺麗な男が現れてね、私を救い出してくれたのさ。それがルシエル様だよ。」

「助けられたんですか?」

「そうさ。キャロルもマリーも似たようなもんさ。怖いのは魔物だけじゃない。本当に恐ろしいのはもしかしたら同じ人間かもしれないね。」


すると話を聞いていたマリーが加わった。


「本当にそうよ。私は男に襲われそうになったところを助けられたんだから。相手の男がボッコボコになるのを見た時は今思い出してもせいせいするわ。」

「それでどうして…その…嫁に?」

「そのまま人間の世界にいたくないなら嫁になるかって聞かれたから、二つ返事でオッケーしたわけ。ルシエル様はカッコイイしやさしいし、最高よ。」


話を聞けば聞くほど、以前に聞いた話と違っていて頭が混乱した。

どうやらこの龍の巣には同じような目に遭った人間が妻や夫として一緒に住んでいるらしい。そして何年もずっとそうやって共存してきたというから不思議だ。


「龍族の魔法は基本的には攻撃魔法が中心だから、私たち人間の生活魔法が必要なのさ。この雲の上に浮く島だって何年もかけて風魔法を土に蓄積させて出来たらしいしの。」


するとルシエルが様子を見にやって来た。

今日は長い黒髪を後ろで縛っている。やはり何度見てもルーカスの父親というよりはお兄さんと言う感じだけど。


「いつもありがとう。働き者の私の奥さんたち。」


ルシエルはオランジュから順番に頬にキスをしていった。

年齢的にはルシエルの方がはるかに上なんだろうけれども、見た目にはやっぱりお祖母ちゃんに若い男がキスしてるようにしか見えない。でも、なぜだか見ていてその光景は何だか羨ましかった。

見た目ではなく心でつながっている…そんな気がした。


「ふふ、ルシエル様はいつもこうやって私らにキスをしてくれるんじゃ。アリーシャさんから見たら不思議に見えたじゃろ?」


何だか考えていることがそのまま顔に出ていたのかと思うと、申し訳ない気がした。


「いえ…何というかルーカスから聞いていたお父さんのイメージと違ったので…。」

「へぇ、息子は私のことを何て言っていたのかな?」

「それは…浮気性だとか、お母さんに愛想をつかされたとか…。」


するとルシエルや夫人たちは思いっきり笑った。


「それはルーカス坊ちゃんの勘違いですよ。ルシエル様も人が悪いですな。そろそろ誤解を解いてあげてもいい年ごろですじゃ。」

「確かにな。」

「あの…どういうことですか…?」


するとオランジュが私の手を取り、じっと目を見た。


「見てくだされ。私の手、もうボロボロじゃろ。きっと顔もしわくちゃじゃ。人間は五十年もすれば皆こうなる。でもルシエル様は今でも会った時のまま綺麗じゃ。これに耐えられなくなる嫁は大概、人の世界に戻っていくんじゃよ。」

「そんな…。じゃあ、ルーカスのお母さんも…。」

「アイツの母親はルーカスを産んだ後、十年くらいして人間の世界に戻ったんだ。その後、人間の男と結婚してもうだいぶ前に死んでしまったけどね。」

「なんで本当のことを言わなかったんですか?」


ルシエルは複雑な表情をしながら、奥の部屋の方を見た。


「何でだろうな。ただ…もし息子に好きな人間が出来た時、躊躇(ためら)ってほしくなかったのかもしれないな。」


その言葉は私にではなくまだ部屋で眠っているだろうルーカスに言っているようだった。


「そう…ですか。」


少ししんみりしてしまった時にキャロルさんが机にお肉をドンっと置いた。


「ほら、どいてどいて。まだ並べるものがあるからね。」


目の前に出されたお肉に、私のお腹がぐぅと勢いよく鳴る。

すると近くにいたオランジュとルシエルはまた大きく笑った。


私はその様子を見て、私もルーカスとこんな風になれたらいいなと思っていた。

そしてルーカスとの未来がほんの少しだけ具体的に見えたような気がした。

恐れる事なんてきっとない。

そう自分に言い聞かせながら、今度こそルーカスに聞こうと覚悟を決めた。



♢♢♢



皆でテーブルを囲み朝食を食べた後、早速グレイソンによる特訓という名の実験が始まった。

朝食でしっかりとお肉を食べた私は望むところだと言わんばかりに気合十分だ。


まずは自分の魔法を認識することから始まった。

中途半端になっている魅了魔法をきちんと完成させ、魂に鎖をかけることが出来る様になること。

これを少なくとも一か月以内にやらなければならない。

それ以上時間をかけてしまうと、打撃を受けたエスティオの魔導師たちが完全に回復して攻撃を仕掛けてくる可能性が高いというのだ。


そしてその特訓としてアレックスが最初の犠牲者に選ばれた。

というのも、グレイソンいわく精神魔法がかかりやすい属性とそうでない属性に分かれるというのだ。

火魔法と使う魔導師は単純で情に流されやすいから一番かかりやすいと判断したらしい。


ということで私は言われるがままアレックスの真向いに座りじっと彼の瞳を見た。

下手をすればガンをつけているようにしか見えない角度で。


そしてその様子を皆じっと観察していた。

周りを取り囲むようにじっと。

私とアレックスの様子を固唾をのんでじっと見ている。

じっと…。

じーっと…。

じーーーっと…。


「だぁーーーーー!」


私はくしゃくしゃっと髪を搔きむしった。


「どうした、アリー!」

「どうしました、アリーシャ!」

「ちょっとどうしたのよ、一体?」

「アリーシャ、大丈夫?」

「アリーシャ、やっぱり無理だったかしら?」

「…フッ。」


私はジロッとみんなを見回した。


「みんな…お願いだからどっか行って。全然集中出来ないから。」


私はため息をつくと、これは前途多難だなと思った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。