第44話 グレイソンの提案
グレイソンがおねぇであることがバレてしまったので、開き直るようにそのまま話ていた。
「アリーシャ、あなたが鍵よ。」
私たちが遠征に行っている間にグレイソンたちは魔物につけられた腕輪を外すための研究をひっそりと行っていた。
腕輪にもエスティオを攻撃出来ないという封印魔法だけではない何かがあることにも、その時に気づいていたという。全ての属性魔法が合成されて作られた腕輪から、微量な異質の魔力が感知されたのだ。今考えればそれがエスティオによる闇の魔力だった。腕輪から伝わる闇の魔力が魔物を一時的に混乱させているのではないかとのことだ。
そして研究の結果分かったことは「瞳」が鍵ということ。
瞳に魔力を宿し支配したい相手の目を一定時間見ることで意のままに操れるという。実際に自分の使役した魔物で試したら一時の間だが思い通りに動いたそうだ。
「だけどね、前にも伝えた通り人間には効かなかったの。それで他の方法を試していた時にエスティオに見つかってしまったってわけ。」
するとアレックスやシュナウザーが思い出したように「そう言えば…」と呟いた。
「俺が入ったばっかりの時もエスティオが魔塔の見回りとかで、新しい魔導師の一人ひとりの顔を確認してた…。」
「僕の時もそうだ…。」
「ディアナやノクスの時もそうなの?」
するとディアナやノクスもうんうんと頷いた。
「なるほど…。これで分かったわね。きっとその時に魔法をかけているんだわ。ただ、黒魔導師は同じ系統でかからないから、一応形式的にやってただけね。」
それには皆納得した。
するとノクスがおずおずと手を挙げる。
「あの…それでいうと僕たちはエスティオの支配を受けたことになります。でも、かかっていませんよね。アリーシャのおかげだとは分かりますが、そこが腑に落ちないんですけど…。」
グレイソンはニヤッと口の端を上げ、「いい質問ね」とノクスに笑いかける。
「私が思うに上書きじゃないかと思うの。ノクスやディアナは普段からアリーシャとよく一緒にいたし、アレックスやシュナウザーも何らかのきっかけでアリーシャに上書きされたんじゃないかしら。」
「何らかのきっかけって…。」
「そうねぇ…とにかく『瞳』が鍵だから目をじっくり見た、とか。」
目をじっくり…。
アレックスは確か赤の魔塔でのいざこざがあって睨んだような気がする。
シュナウザーは逆に顔をじっと見られたような気が…その時目が合ったのかもしれない。
「そう…かもしれないです。」
そう言えばルーカスの時も彼の顔をじっと見つめていたし、ドルマンは見るなと言った。
やっぱり瞳に無意識に魔力を込めていたのかも。
「だからアリーシャ、あなたが鍵なのよ。リュッセント王国をエスティオのいい様にさせないために何としてでも取り返さなくちゃ。そのためにはどうしてもエスティオの魔法を解く必要があるわ。」
「ということはエスティオの魔法にかかった魔導師を一人ひとり上書きしていくって…。」
「いいえ、そんなことをしては時間がかかりすぎるし、向こうだってさらに上書きするかもしれない。」
「じゃあ、一体…。」
「だから最初の計画通り、エスティオの魂に魔法をかけるのよ。」
ドルマンがそこでニヤリとした。
「二千年前の闇魔導師狩りか?」
「ええ、古代文字で書かれた文献をあさったら出てきたの。闇魔導師を封印したのは同じ闇魔導師だって。そしてその封印に協力した闇魔導師の末裔が彼なんじゃないかしら。」
ドルマンがクックッと笑い、赤い目が光っていた。
「アリーシャ、お前は本当に数奇な運命を持っているようだな。本当に楽しませてくれる。」
グレイソンはチラッとドルマンを見て微笑んだ。
「吸血魔族のお兄さん、あなたとはとても気が合いそうだわ。」
そしてグレイソンは私の方を向き、真っすぐに私を見据えた。
「アリーシャ、この王国の未来はあなたにかかっているわ。私はこれを伝えるために自分の相棒を残したまま来たの。この意味わかるでしょ。」
私の心臓にグッと何かが突き刺さった。
グレイソンの使役した魔物を置いて来たということは、すなわち犠牲にしたのと同じことだ。使役した魔物に魔力を渡さないままいたら、生命エネルギーがなくなりやがて死んでしまう。
彼の命を懸けた意志が伝わるようだった。
「どうすればいいんですか?正直、私は自分の魔法をコントロール出来ていないんです…。闇魔導師だとわかったのもつい最近で…。」
グレイソンはニッコリと笑って周りを見渡した。
「だからこそ特訓するのよ。ここには実験に協力してくれそうな魔導師が沢山いるしね。」
特訓は分かるが、今この人…実験って言わなかったかな…。
何やら嫌な予感がしつつ、私は自分の魔法を使えるようにするための訓練が始まるのだった。
♢♢♢
特訓は明日から始めることになり、今日は疲れを取るために全員休むことになった。
ルーカスの家は大きくたくさんの小部屋があるため、それぞれ二人ずつ部屋に入ることになった。
アレックスとシュナウザー、ノクスとグレイソン、そして私とディアナ、ルーカスとドルマン。
ルーカスの父親であるルシエルは私室で、あのナイスバディのリタは一旦南の龍の巣へ戻るという。
そうして寝静まる時間になった時、私とディアナの部屋にルーカスとドルマンが訪ねてきた。
「アリー、魔力ちょうだい?」
「俺もだ。瞬間移動しすぎで使い過ぎた。」
ずかずかと入る二人にディアナは耐えられないといった形で、結局ディアナは別の部屋で一人寝ることになった。
私は二人をジロッと睨むと、はぁーとため息をついた。
「来るならもっと早い時間に来てよね。ディアナがびっくりするじゃない。あの子、あれでいて繊細なんだから。」
「そう言われても…寝ようとした時に思い出したんだ。仕方ないだろ。」
ルーカスが髪をポリポリとかきながら申し訳なさそうにする。
私はモフモフで出来たふかふかの綿毛の上に座りながら、二人に近くに来るように言った。
「じゃあ、ルーカスから。」
そう言って手を差し出すとルーカスは小さく「えっ…」と声を出した。
「アリー、俺…口がいいな。」
ルーカスがキラキラした目で見るので、
「ばっ…!」
ばっかじゃないのと思いルーカスの手をサッと握ると、私はそのまま魔力を流し込む。
「調子に乗るんじゃないの!」
そして今度はドルマンに渡そうとした時、彼は不適に笑い私の口を塞いだ。そしてそのままモフモフベッドに倒れ込む。
あまりに一瞬のことに私は何も出来ず、ルーカスの顔が遠のいた。
「二人がしてるのを見てキスというのをしてみたくなった。とても甘くて美味しい。」
ドルマンの唇が離れた時、ルーカスがドルマンを壁を突き破って吹っ飛ばす。
「吸血野郎、一遍死ね…。」
「俺は簡単には死なないがな…。」
そんな二人のやり取りがある中、一気に魔力を持ってかれた私は軽い貧血のような状態でそのまま倒れた。
もう、どうでもいいや。
好きにして。
遠くの方で私の名前を呼ぶルーカスの声がする。
しかし極上の眠りを誘うモフモフベッドに私はそのまま意識を失った。
朝、目が覚めると私はルーカスにしっかりとホールドされていた。
すぐ隣には手をお腹の上で組んで眠るドルマンがいる。
ルーカス一人でも大変なのに、今度は二人かと思いながらため息をついた。
そしてお腹がぐぅと鳴った。
お肉…食べたいな。
私はどうやらかなり神経が図太く出来ているらしい。
ルーカスとドルマンが起きるまで私はまた静かに目をつぶった。




