第43話 グレイソンの秘密
「黒龍の右頬に手形がついてるが…どうしたんだ?」
外をふらついていたドルマンが家に戻る私とルーカスを見つけ声をかけた。
ドルマンの赤い目が細くなり、ニヤリと笑っている。
「どうもしないわよっ。」
ルーカスからフンっと顔を背けると、ドルマンの側へ駆け寄った。
先ほどすごくロマンチックな感じで告白して、キスして…そこまでは良かった。
だけど調子に乗ったルーカスがあろうことか胸を…胸を触ろうとしたので思いっきりひっぱたいたのだ。
ナイスバディのリタのこともあり、どうしても気にしてしまう。
「ルーカスは当分近寄るの禁止だから。」
「おい、アリー。さっきは命令しないって…。」
「命令じゃないわ。ルーカスの自制心に訴えてるのよ。」
「なっ…俺がどれだけ我慢して…。」
その時ドルマンが小さくクックッと笑っているのに気づいた。
顔を少し歪めて咳を我慢するように笑っている。
「…ドルマン、何がおかしいの?」
「いや…黒龍もアリーシャの前では形無しだと思ってな。」
「そう?」
「ああ…俺は数百万年という途方もない時間を過ごしてきたが、黒龍がこんな尻に敷かれているのは初めて見た。」
数百万年…。
不死の血とは言っていたけどそんな気の遠くなるような時間を過ごしてきたのかと思うと少しだけ同情した。もし自分がそんな時の流れで生きるとしたら、きっと寂しいとか愛しいとかそういう感情は薄れるだろうと思ったからだ。
「ドルマンは吸血魔族の王なのよね。」
「そうだが、何だ今更?」
「いや、仲間とかいないのかと思って…。」
ドルマンの白い肌やガラスのように透ける髪に、ふと何だか儚いものを感じた。
「俺に仲間はいない。一緒にいたのは傀儡のようなものだ。王とは唯一無二の存在を表す敬称でしかない。人間の世界とは違う。」
「そうなんだ…。」
じゃあ私はと聞こうとしてやめた。
私をそこら辺の石ころのように殺そうとした奴だ。偶然に偶然が重なってこうして生きて一緒にいるだけで、きっとアリほどの価値もないだろう。
するとドルマンは急に私の顔を覗き込み、ほんの少しだけ人間らしい瞳を覗かせた。
「だが…俺は非常に癪だがお前に使役されたこの運命を少し愉快に思う。」
「えっ…ドルマン…。」
「お前が死んだら骨一つ残らず綺麗にしてやるからな。ありがたく思え。」
「…。」
今のをどう解釈してよいか分からず、取りあえず作り笑いを浮かべた。ドルマンも同じように赤い瞳をニンマリさせると家へと入っていった。
私の心臓は別の意味でバクバクしていた。
やはりドルマンは…ヤバい奴だ。
もしあれがドルマンなりの愛情表現なら完全にぶっ飛んでいる。
はぁーと息を吐き落ち着かせると隣でルーカスが不満そうに私を見ている。
「アリー、吸血野郎と少し仲良くなってないか?」
「そんなことないよ。何?…妬いてるの?」
冗談半分で言ったつもりだったが、ルーカスは大真面目な顔をして言った。
「妬いてるよ。アリーに男が近づくといつも俺はイライラする。」
「なっ、何いきなり。」
「アリーが本気で俺のこと好きだってわかったから、そろそろ本気出そうと思って。だから…他の男とあんまり仲良くするなら容赦しないから。」
「容赦って…。」
「アリー、魔法が解けても好きでいてもらうように努力するんだよな。だったらもっと俺に集中して。」
ルーカスはまたあの背筋のゾクリとする金の瞳で私を見下ろすと、すぐに爽やかな微笑みを作った。
最初は単純で直情的な単細胞だと思っていたけど、いつの間にかものすごい腹黒になっていたんじゃと思うと心臓がドクドクした。
♢♢♢
それからグレイソンが寝かされた部屋へ行くと、丁度起きたらしく体を起こしてこちらを向いた。
「あら、アリーシャ…丁度良かったわ。すぐ話せる?」
グレイソンはにっこりと微笑んでいたが、問題はそこではなかった。
皆がいるにも関わらず、グレイソンは自然におねぇ言葉になっていたのだ。
おそらくそこまで頭が回らなかったのだろう。
周りにいるアレックスやシュナウザーが口をポカンと開けたままになっている。ディアナやノクスも表情には出さないように努めてはいるものの、驚いているに違いない。
ここで遂に黒の魔塔の管理責任者がおねぇであることがバレてしまったのだった。
グレイソンもそんな皆の表情で気づいたらしく「あら、しまったわ…。」と軽く笑った。
長い付き合いのあるアレックスやシュナウザーは気づかなかったことにショックを隠し切れない様子だったが、グレイソンはそのまま何事もなかったように話を進めた。
「アリーシャ、あなたが無事で本当に良かったわ。」
「グレイソンさん…。」
「早速だけど皆に聞いてほしい話があるの。そしてカギになるのは、アリーシャ…あなたよ。」
そうして私たちはグレイソンの話を聞くことになったのだった。




