第41話 龍の巣(1)
ルーカスの背中に乗った私たちは雲の層を一つ、二つ、三つと抜けてどんどん上へと上昇した。
その間振り落とされないように皆必死に捕まっている。
ルーカスもいつもよりスピードを落としてくれているようだ。
やがて雲が下に、上には太陽と青空が広がった時、巨大な入道雲が目の前に現れた。
(アリー、あれが「龍の巣」だ。)
私たちが壮大な景色を堪能するのもつかぬ間、ルーカスがその巨大な雲の中へと入っていく。
目の前が一気に真っ白になり隣にいるだろうディアナやノクスの姿すら見えなくなったその時、目の前が急に明るくなった。
「眩しっ!」
そこは美しい大きな湖を取り囲むように段々畑のような山が連なり、そのところどころに竪穴が掘られている。そこから湯気や煙が出ているのが見える。
また、大きな湖の真ん中には浮島があり、そこには神殿のようなものが建っていた。
ルーカスは湖のほとりに私たちを降ろすと、彼は人間の姿へと変わった。
ディアナとノクスはまたその場にへたり込み、気持ち悪そうに胸を押さえている。ドルマンは至って普通だ。特に変わったところはない。逆にアレックスやシュナウザーは少年のように目を輝かせながら興奮していた。
「俺、龍族の住処がこんな綺麗なところだとは思ってもみなかったぜ!」
「僕もです!竜宮城の昔話はもしかしたらここかもしれないですね!」
竜宮城の昔話がこっちの世界にもあるのは驚きだが、それは海の中だろうとちょっとツッコミを入れたくなるのを抑えながら私はルーカスを見た。
「アリー、俺の故郷…どうだ?気に入ったか?」
「うん、とっても綺麗。」
ルーカスは満足そうに微笑みながら私を見つめていた。
私たちが腰を下ろして休んでいると、大きな影が私たちを覆っているのに気が付いた。上を見上げるとたくさんの黒龍がバッサバッサと羽ばたいている。
そして一頭の黒龍が地面に降り立つと、ルーカスと同じように体を光らせ人の姿になった。
長い黒髪に切れ長の目をした黒目のこれまた眼福な美形である。
魔導服を来ているのかルーカスと同じように龍から人間の姿になってもちゃんと服を着ていたことに少し安心した。
その男(?)はルーカスに近づくと大きく手を振った。
「親父!」
「えっ、お父さん!?」
どう見てもまだ二十代くらいにしか見えない美形がお父さん…ですと?
それは一緒にいたアレックスたちも同じだったようで、皆目を丸くしていた。
そしてさらに驚いたのがその年齢。あんなに見た目は若いのにもう三百年は生きているという。驚かなかったのは何前年も前から悠久の時を過ごしているドルマンだけだ。
「親父、ありがとな。変な頼み事聞いてくれて助かった。」
「構わないぞ。ところで…お前の嫁はその子か?」
そう言って私の方をルーカスをもう少し大人っぽくした超絶美形が見ている。
ルーカスに似ているせいか計らずもドキッとしてしまった。
「お嬢さん、お名前は?」
「あ…アリーシャと申します。」
ルーカスのお父さんだと思うと余計に緊張してしまった。
何だろう…ただ親に挨拶してるだけなのに、なぜか結婚の挨拶みたいな感じがしてしまうのは…。
「アリーシャか…。美しい名前だね。見た目も美しいし、声も美しいね。そして緊張する姿が美しい。」
ん…?
何か、美しいが異常に多くないか…?
今回は私は目をなるべく合わせないようにしているから、魅了魔法にはかかっていないはずなんだけど…。
「息子よ、アリーシャは美しい。父に譲る気はないか?」
その瞬間、ルーカスが自分の父親を思いっきり殴って湖の対岸まで吹っ飛ばした。
「!!!」
「アリー、ごめんな。俺の親父…浮気性なんだ。それで母さんも愛想つかして人の世界に戻っていったし…。こうなりそうだったから絶対会わせたくなかったんだけど…。」
ルーカスのお父さんはすぐに対岸から飛んで戻って来ると、ルーカスの胸倉を掴んだ。
「おいっ…息子だからって容赦しないぞ。」
「それはこっちのセリフだよ、親父。」
二人が目をギラギラさせながら睨み合ってると、今度はものすごいナイスバディな黒髪ロングの女の人が現れた。
「ちょっとぉ…ところでこの人間、どうするの?」
そう言って彼女に引きずられるようにして運ばれていたのは、ボロボロになったグレイソンだった。
「グレイソン!」
私とアレックス、シュナウザーは一気にグレイソンの方へと駆け寄ると、ナイスバディは手を放しドサッと地面にグレイソンを降ろした。
かなりの雑な扱いに少し腹は立ったものの、グレイソンの方が心配だったため私はその小さな苛つきを無視した。すぐさまシュナウザーがグレイソンの怪我を見て、回復魔法をかける。
「ヒール!」
グレイソンの体が光ると、彼は薄っすらと目を開けた。
「グレイソン!分かるか?俺だ、アレックスだ!」
「…アレックスか…。」
「グレイソンさん、アリーシャです!大丈夫ですか?」
「ああ、アリーシャ…。良かった。君に伝えることがあって、黒龍に助けを…。」
「ダメだ…。完全には回復していない。ゆっくり休ませないと…。」
少し離れたところにいたディアナやノクスがこちらへ駆けて来る。
ドルマンは相変わらず自分に興味のないことは我関せずだ。
ルーカスが私たちの方へと来ると、一緒に彼の父親もついて来た。
「一旦、家へ運ぶか…。いいか、親父?」
「構わないさ。それと一時休戦といこうじゃないか、息子よ。」
不適に笑うルーカスのお父さんは、チラッと私の方を向いてニコッと微笑んだ。
その顔はやっぱりルーカスが笑った時に似ていた。
そうしてグレイソンをルーカスの家に運ぶことになり、私たちは全員彼の家へと向かうことになった。
そして私はというと、こんな時なのにルーカスの隣にぴったりとくっついて来るナイスバディが気になって仕方がなかった。
これがきっと嫉妬というやつなのだろう。
私は久しぶりの感情にイライラしながら、彼の家を目指していた。




