第40話 仲直り
王宮からだいぶ離れたところでルーカスは私たちを地上に下ろした。
周りには何もなく、辺り一面草原が広がっていた。
「龍族の住処に行く前に吸血野郎たちと落ち合わないと…。」
どうやら龍族の住処は人間に見つからないように雲の上にあるらしく、そのまま住処まで行くとノクスでは追跡できないからだそうだ。
「龍族の住処が雲の上にあるなんてよー。そりゃあ、見つからない訳だ。」
アレックスが空を見上げながら草むらにドサッと寝っ転がった。
「本当ですね。僕も驚きです。」
シュナウザーはその隣に腰をおろし、同じように上を見上げている。
私も同じように流れる雲とスカイブルーの綺麗な空を見上げた。
そうしてあの女性の話を思い出していた。ルーカスに捕まり命からがら逃げだしたと言うあの女性を。たまたま通りかかった魔導師に声を掛け助かったと言っていたが、そもそも雲の上にある住処に魔導師が通りかかるなんてことあるのだろうか…。
ふと湧いた疑問をルーカスに確認しようとした時、近くでドサッという鈍い音がした。
音のした方へ顔を向けると、そこには涼しい顔をしたドルマンと真っ青になって倒れ込むディアナとノクスがいた。
「ディアナ!ノクス!」
私はすぐさま駆け寄り二人に声を掛ける。
「どうしたの!大丈夫?」
「ア…アリーシャ…僕…。」
「アリーシャ…あ…んた、これマジ…。」
「何?一体どうしっ…。」
すると二人はその場にぐったりと倒れ込み、同じことを言った。
「「気持ち悪い…休ませて。」」
どうやら瞬間移動を繰り返したせいで何度も体に負荷がかかり、二人は目をまわしていた。
富〇急なみのジェットコースターを何度も乗ったような感じだ。
私はルーカスの背中に乗って何度も上昇と降下を体験したから慣れたけど、二人にとってはきつかったのかもしれない。
ぐったりとした二人が回復するまで、私たちは周りを警戒しながらしばらく過ごすことになった。
「ドルマン、ありがとう。二人を無事ココまで連れて来てくれて。」
「…命令だからな。」
ドルマンはそっけないけど、血の契約のせいか今は怖くない。
「そう言えばドルマン、ちょっとこっち…。」
「なんだ…?」
私は魅了魔法についてもう少し聞こうとドルマンの耳に顔を近づけた時、後ろからの物凄い冷気で背筋がゾクッとした。チラッと振り返るとルーカスが冷たい金の瞳でこちらを見ている。
そしてすぐさまアレックスとシュナウザーも間に割って入って来た。
「アリーシャのために花束を摘んでたら、油断も隙もないな。」
「僕の方こそ美しい花冠をあげようとしていたのに。」
ドルマンはそんなんじゃない上に、二人が自分の魅了魔法のせいでこうなっていると思うといたたまれない。そしてルーカスも…。
その肝心のルーカスは何も言わずただじっと責めるように私を見ている。
それはそれで心臓にズキッとクルものがあった…。
私は思い切り息を吸うと、渾身の思いを込めて頭を下げた。
「ごめんなさい!」
アレックスやシュナウザーは私の突然の謝罪に戸惑い、ルーカスはその成り行きをじっと見ていた。
そして何が起こったのだという風にディアナやノクスもこちらに顔を向ける。
「ごめんなさい…みんながそうやって私を好いてくれたり優しくしてくれるのは…全部ウソなの。」
ノクスが虚ろな目でゆっくりと起き上がる。
「…どういう…こと?」
「ここにいるみんなは何でエスティオに従わなかったと思う?」
「…。」
「もうわかってるでしょ?私がエスティオと同じ闇魔導師だってこと…。ここにこうしていることが、私の魅了魔法にかかってる証拠なのよ!同性には効かないってドルマンは言ったけど、ディアナがいるってことは影響はあるようだし。現にエスティオも同性を従えてたわ…。」
するとルーカスが私にギリギリまで近づき、またあの切ない金の瞳で私を見つめてきた。
「…だから何だ。だから何だって言うんだ?それが何か問題なのか?」
「問題…あるでしょ。アンタの…ルーカスのその感情も本当じゃないの。操られてるのがわかんないの!自分の気持ちが操られてるなんて…気分、悪いでしょ!」
私はいつの間にかボロボロと涙をこぼしていた。
今まで頑張って抑えてきたものが、溢れ出すような気分だった。
するとディアナがヨロヨロと私に近づき、思いっきり手を振りかざした。
ッパン!
私の頬にまたヒリヒリとした痛みが走った。
ディアナにはたかれるのはこれで二度目だ。
「ばっかじゃないの!ここにいるのは私の意志よ!」
「でも…。」
「でもじゃない!そこまで言うならその魔法、解いてからもう一度私たちに確かめて見なさいよ!私はアンタのこと…しっ…親友だって、言うと思うわ。」
するとアレックスもシュナウザーもウンウンと頷いている。
ノクスも青白い顔で、微笑んでいた。
そしてルーカスは…。
「アリー、大好きだ…。お願いだ…命令解いて…。」
私は…まだ何も解決していないのに、もうこれ以上自分の気持ちを押し殺すのは限界だった。
右手の龍の刻印の上に涙の雫がポタポタと垂れている。
私は震える小さな声で言った。
「…ルーカスが…私に、触れることを…許す…。」
するとルーカスの体がぼわっと光り、パチンと命令が解除されるのが分かった。
それと同時に彼は思いっきり私をぎゅうっと抱きしめた。
骨でも折れるんじゃないかと思うくらい、きつく抱きしめていた。
「アリー、大好きだ。こんな命令、二度としないで…。」
そうしてルーカスが私に顔を近づけようとしたところで、邪魔が入った。
「おい、黒龍!抱きつくまでは許したが、キスはダメだ!俺はまだ諦めてないからな!」
「それを言うなら僕の方こそ、野蛮なアレックスや乱暴な黒龍より品のある僕の方が合っています。まだまだこれからですからね!」
アレックスとシュナウザーが私たちを引き離したところで、私とルーカスの感動的なシーンは終わってしまった。ノクスは…気持ち悪いのかまたゴロリと横たわっている。
ドルマンはクックっと横目で意地悪そうに笑っていた。
私は少し肩の荷がおりたように、心が少しだけ楽になっていた。
それからしばらくして、私たちはルーカスの背中に乗った。
雲の上にある龍の住処に行くために。
いつも読んでいただきありがとうございます。
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今日もうだるような暑さの中、書いていました。
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