第39話 エスティオの正体
王宮に戻ると案の定エスティオが空中宮殿の前で待ち構えていたが、その様子は明らかにおかしかった。
エスティオを中心として全ての魔導師が魔塔の前で整列し、私たちを虚ろな目で見据えている。
そしてよく見ると黒の魔導師の姿がない…。
私はその異様な光景に違和感しかなかった。
それは遠征を共にした魔導師たちも同じらしく、一定の距離で彼らも止まりエスティオを見ていた。
エスティオは端のほうにいた私の方へと近づき手を広げた。
「アリーシャ、よく戻ってきたね…。さぁ、私たちの結婚の義を執り行おうではないか!」
何を言っているんだろう…。
前からおかしいと思っていたけど、この王はどこか相当ぶっとんでいる。
「あんた…見てわからないの?私たちは遠征から戻ったばかりよ。普通は部下を労うのが先でしょ!」
「そうかな…。彼らも私たちの結婚を祝福してくれるみたいだけどね。」
すると一緒に遠征に行っていた魔導師たちがゾロゾロと、それぞれの魔塔の前で整列している魔導師たちの方へと歩いて行く。そうしてその魔導師たちの列に一人、また一人と加わっていった。
結局、私の側に残ったのはルーカス、ドルマン、そしてノクスとディアナ、あとアレックスとシュナウザー、エイミー、ザックの八人だけだった。
ほぼすべての王宮魔導師がエスティオの側についた中で、エスティオは不適に微笑んでいる。
王様なので当たり前と言えばそうなのだが、私は皆がなぜこんな王に従っているのか不思議でならなかった。
「ほぉ、黒魔導師以外で私の指示に従わない魔導師がいたとは…。」
「どういう意味よ。」
アレックスやシュナウザーは不審な目でエスティオを見ている。ディアナは攻撃態勢を取り、ノクスは状況を理解しよう必死だ。斜め後ろのルーカスの目は金色に光り、左隣のドルマンは愉快そうに笑っていた。
「アリーシャ、君も闇魔導師なんだろう?」
君…も…?
「最初は単純に黒魔導師だと思っていたが…私の魔法が効かない魔導師がいるということは、君がその四人を操っているんだろう?」
「どういう…意味よ。」
四人…というのはディアナとノクス、それにアレックスとシュナウザーのことだろうか…。
そしてエスティオは君も…と言った。
ということは…。
「ふふ…私は闇魔導師の生き残りだよ。ずっと昔から我が一族は王家を操っていたのさ。」
「じゃあ…本物の王様は…。」
「そんなのとっくに死んでるよ。操るより自分がなった方がいいと思ったのさ。」
エスティオは不適な笑みを浮かべている。
彼は若干二十歳にして王位を譲り受けたと聞く。
ならば本物の王様はその時に…。魔法研究に力を入れたのも自分では操る事しか出来ないからだわ…。
黒の魔導師には精神魔法は効かない…。
だからあんなに邪険に扱って、使役した魔物にも腕輪をはめて…。
「狙いは何?そんなこと、私に…私たちに話していいの?」
驚愕の事実にディアナやクロン、そしてアレックスやシュナウザーも驚きを隠せない。エイミーやザックも同じなようだ。
「問題ない。どうせ後で私に従う羽目になるからね。だけど…。」
エスティオはエイミーやザックの方へ視線を移すと、彼らに向かって手をかざし何かを詠唱した。
するとエイミーとザックの使役していた魔物が急に暴れ出し、彼らに向かって攻撃しだしたのである。
すぐさまシュナウザーが防御魔法を繰り出す。
「光のシールド展開!」
「きゃあ!」
「やめろー!」
そしてエイミーのラスコーはエスティオの足元に、ザックの炎鳥は彼の肩へと止まった。
「その腕輪。実は精神魔法を施した魔道具だ。気づかなかっただろう?」
そう言うと、黒の魔塔にいた魔物たちが続々と彼の背後に整列する。
そしてグレイソンを先頭に他の黒魔導師たちは鎖でつながれ、捕えられていた。
「グレイソン!」
私が大声で呼ぶと、彼は一瞬チラッとこちらを見た。
エスティオは黒魔導師たちを一瞥すると、また私たちの方へと向いた。
「私もまさか彼らがあんな研究をしてるとは知らなかったよ。この私に精神魔法をかけようとしてるとはね!知った時は本当に滑稽で笑いが止まらなかったよ!」
グレイソンが悔しそうに顔を背ける。
「動きが怪しいと思ってはいたんだが…。君を遠征に行かせたことといい、何かあると思ってね。私がその間馬鹿みたいに結婚の準備でもしてると思ったのかい?」
「だとしてもなぜ、そんなに私にこだわるんですか!本当に顔が好きってだけでそんなことするとは思えない!」
エスティオは恍惚に満ちた表情で私を見た。
「怒った顔も可愛いね…。最初は本当に一目惚れだったんだよ。君を見るとドキドキしてね。だけど、黒魔導師だと知ってもっとほしくなった。闇魔導師の魔法能力を継ぐには同じ魔法属性じゃないと無理だからね。」
「たったそれだけで、こんなことを…。」
「たった?いや、私にとっては君は運命だ!その上、黒魔導師ではなく同じ闇魔導師だったなんて!この世に私たちたった二人だけだ。私たちなら世界も征服できるのだよ。」
「世界征服?ふざけないで!そんなの望んでないわ!それにあなたのその気持ちも…。」
そう言いかけて私は止まった。
エスティオは闇魔導師だったのだ。だとしたら私の魅了魔法は効かないはず…。
彼の言う一目惚れや私を好きだと言う気持ちは少なくとも、嘘…ではないのだ。
「お察しの通り君の魅了は私には効いてない。この気持ちが本物だとわかってもらえたかな。君の周りにいるニセモノとは違うのだよ。」
なぜよりによってエスティオなのだろう。
なぜ、ルーカスの気持ちはニセモノなのだろう。
こんな酷い事実、知りたくなかった。
「アリー、話は終わったか?」
歯をギリギリと噛みながら我慢していたルーカスの体が光っていた。
「ルーカス…。」
「おい、ドルマン…。お前の瞬間移動は一気にどれだけの人数を移動できる…。」
愉快そうに笑っていたドルマンは指を一本、二本と折り、そして首を振った。
「たったの二人か…。案外使えないな。」
「そんなことを言われても、本来誰かを運ぶための能力ではない。」
「っち…仕方ないな…。ならそこの赤髪の女と栗毛の少年を瞬間移動させろ。」
隣で聞いていたディアナとノクスは恐ろしいことでも耳にしたかのようにルーカスを見やった。
「その栗毛頭は追跡魔法が使える。俺はアリーと残りの人間を運ぶから、栗毛頭を使って追いかけてこい。」
「黒龍、お前が命令するな。俺はアリーシャの言うことしか…。」
「なら私から命令するわ。ドルマン、二人をお願い。」
するとドルマンは二人を抱え一気に消えたかと思うと、ルーカスは体を光らせ黒龍へと変身した。
「全員乗れ!精神魔法は離れると効かない!一旦ここから逃げるんだ!」
ルーカスの合図にアレックスとシュナウザーがルーカスの背中に飛び乗った。しかしエイミーとザックは乗ろうとしない。
「アリーシャ、私たちは行けない。ラスコーから離れたらあの子死んじゃうから。」
「俺もだ…。戻って来れないかもしれないなら、尚更だ。」
「エイミー、ザック…。…わかった。でも必ず助けるから!」
そうして私も移ろうとしたその時だった。
「そうはさせないよ!」
エスティオはルーカスの方へと手をかざす。
そして詠唱を唱えようとした時、すかさずアレックスが火柱をエスティオめがけて出した。
しかしエスティオ側の大勢の魔導師たちが一斉に詠唱を唱え、一気に攻撃をしてくる。
シュナウザーが防御魔法をするも間に合いそうにない。
「くそっ、さすがに魔導師全員の攻撃は無理だ!」
その瞬間、黒い影が頭上を覆った。
見たことのない数の黒龍が王都の上を飛び、口から光線を一気に出した。
魔導師たちからの攻撃を相殺するように、攻撃に対して同じように攻撃で返している。
するとルーカスの声が聞こえてきた。
(遅いぞ、親父!)
「ガルルルウウウ!ガルウ!」
何か話しているようだが、黒龍のうめき声しか聞こえない。
(アリー、さぁ行くぞ。捕まれ。)
私はルーカスの背中に乗ると、ルーカスは一気に羽ばたいた。
下でエスティオたちが攻撃をしているが、それを二十羽ほどの黒龍が防いでいる。
「アリーシャ!私は君を逃しはしない!絶対にね!!!」
エスティオが睨むように私を見ている気がした。
私とアレックス、シュナウザーはルーカスの背中に乗ってどんどん上昇し雲の上まで来ると何も見えなくなった。アレックスとシュナウザーは気が抜けたのか、大きく二人とも息を吐いた。
「俺…エスティオ王があんなだとは全く気付かなかったぜ…。」
「僕もだ…。正直ショックを隠し切れないよ…。」
二人にとってはずっと仕えていた王が実はニセモノだったなんて、それは衝撃だったに違いない。
そしてノクスやディアナが少し心配だったけど、ドルマンには人間に手出ししないよう命令してあるから、まぁ大丈夫だろう。
(ルーカス…さっきの親父って…。)
(実はこの遠征が終わったら王宮ごと吹っ飛ばそうと思って。だから親父たちに協力を頼んだんだ。)
(いつ、そんな…。)
そう思いながら、ルーカスが一日出かけた日のことを思い出した。
もしかして、あの時に…!
(これからどこ、行くの?)
(とりあえず龍族の住処だ。人間に知られてない場所にあるしな。)
龍族の住処…そう聞いて、私は数十年前に連れ去られたという女性の話を思い出していた。
きっとそこに違いない…。
複雑な気持ちのまま、私はルーカスの背に乗って龍族の住処へと向かうことになったのである。
いつも読んで頂きありがとうございます。
ここまで根気強く読んでもらえていることに感謝しています。
少し体調を崩してしまい、執筆に多少の支障が出てしまいましたが、引き続き応援してもらえたらと思っています。




