第36話 吸血魔族ドルマンと死
残酷な表現が含まれます。
吸血魔族を追っていくと街から何人かの人間が攫われ、さらに奥深い森にある廃城に留まっているとの情報が入って来たらしい。早速、追跡魔法で確認していたがそこで間違いないとのこと。
私たちはすぐにそこへ向かった。
吸血魔族は完全なヒエラルキーで成り立っているらしく、ターゲットはその頂点に立つ魔物を討伐することだ。その名もドルマンというらしい。
白い肌に白い髪、そして赤い目の残酷極まりない特級指定された魔族だという。
ドルマンは一定の距離を瞬間移動できる能力を持っており、確実に現れたところを狙ってルーカスに仕留めてほしいと言うのだ。それ以外の吸血魔族は何とかするから、と。
指示通りルーカスは攻撃せずに待機し、私は離れた所から見守った。
魔導師たちが廃城へと攻撃を開始すると同時に、城の中から黒髪に黒マントの吸血魔族たちが現れる。彼らが血の雨を降らそうとする前に先制攻撃をし、次々と倒していく。
昼間は吸血魔族たちにとって一番力が弱まるらしく、こちらが明らかに優勢であった。
そして一時間ほどが経過したとき、遂に現れた。
望遠魔法で遠くが見えるようにさせてもらった私は、はっきりとその姿を見ることが出来た。
廃城の一番上の窓からゆっくりと姿を現し、下を見下ろす美顔を。
真っ白な髪に真っ白な肌。そして赤い瞳に血のにじむ唇。ギリシャ神話に出てくるような布を巻いた格好で、明らかに異質な空気を漂わせる恐ろしい魔物の姿がそこにあった。
つい余計なことを考えてしまった自分の思考をすぐさま打ち消しルーカスを見る。
彼もドルマンを視界にとらえると、眩しい光を一気にドルマンめがけて打ち込んだ。大きな振動とともに城ごと何もかもを消し飛ばし、白煙が立ち込める。
「殺ったのか…?」
疑心暗鬼になりながら隣にいるシュナウザーが呟く。
「…。」
私も目を凝らしながら城のあった部分を見てみる。
しかし白い煙のせいでよく見えない。
すると私の背後に聞いたことのない声がした。
「お前か…?」
背筋が一気に凍り付くような寒気を感じ、ルーカスの声が響いた。
(アリー!!!逃げ…!!!)
私が動こうとした瞬間、後ろから真っ白な腕が伸び体を掴まれる。
隣のシュナウザーや周りの魔導師はすでに倒れていた。
体にジェットコースターに乗った時のような負荷がかかったと思ったら、一瞬にして目の前の景色が変わっていた。
先ほどまで森の中にいたはずなのに、窓の外に…海が…見える。
どこかの部屋の床にゴロっと転がされて、私は何か横たわる冷たいモノに体が当たった。
目の前には先ほど見た白い肌に白い髪、そして赤い目の男が佇んでいる。そしてすぐ隣には冷たい…人間が横たわっていた。
「黒龍…あれ、お前のだろ。」
私は震えて言葉が出ない。明らかに今まで見た魔物とは違う、人を殺すことを何とも思わない冷酷な瞳が私を見下ろしている。
「まぁ…答えなくても、わかるけど。」
そうだ…ルーカス!
みんなはどこに。
私は刻印のある手を目に当てようとした時、白い手に手首を強く掴まれた。
「痛っ!」
赤い目がすぐ近くまで来たかと思うと、私の口が指でこじ開けられる。
「あの黒龍に仕返ししないと…。」
そして白い指からたれた血が私の唇に舌にポタッ、ポタッとたれた。
その血は喉を通り私の心臓の動きを止めていく。
(ルー…カ…ス…。)
「では、最後の血をいただくとしよう。どんな味か楽しみだ。」
薄れる意識の中で私の首筋に激痛が走る。
血を飲む時に首筋に噛みつくのは、ドラキュラと同じなの…ね。
そんなことを考えながら私はこの世界でも死んだ。
これで死ぬのは二回目である。
月島アリサで三十年。
アリーシャとして二か月半…。
この二か月半が三十年よりも濃い人生だと感じたのは不思議だ。
「ああ、君の血はとても甘くて美味い。黒の魔導師でなければ生かしても良かったかもな…。」
そうして私の目の前は真っ暗になった。




