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【完結】転生したら黒魔法しか使えなかった。でもイケメン黒龍を使役した  作者: 茄乙モコ
【第2章】リュッセント王国と王国魔導士
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第35話 膨らむ違和感

ソリティア王国が吸血魔族を従えて攻撃をしてきたという知らせから、私を含めた魔導師団は急遽南東へと向かう。魔導車に乗り込み風魔法で一気にスピードを上げ、前線へと近づくにつれ生臭い匂いが鼻を突く。

そしてすでに戦闘があったとされる場所を過ぎ去ろうとした時、全ての魔導師が戦闘態勢へと変わった。


辺り一面血の海と化したその場所には敵とも味方ともわからない死体がごろごろ転がり、その中から体を起こして起き上がる者がいる。すると怪我人かと思ったその人影は白目をむき、突然こちらめがけて噛みつくように襲ってきたのである。


「しまった…遅かったか。」


ザックが小さく呟くと、炎鳥でその人影めがけて炎を浴びせた。

あまりの光景に私は吐きそうになりながら「どういうこと?」と聞き返す。


「吸血魔族お得意の狂った血の雨さ。一滴でも体に入ると死ぬか、ああやって魂がぶっ壊れたみたいに襲ってくる。もう、あれは人間じゃない。」


ルーカスも背中から黒い羽を生やして一気に上昇し、手から光るエネルギー弾を浴びせた。エイミーの相棒ラスコーも口から冷気を吹き付け、次々と凍らせている。


(これが…すべて、人間…。)


次々と死体が起き上がり襲い掛かって来た。同じ魔導服を着た人間を見るとさらに気持ち悪さが増す。

ディアナやアレックスさんは最前線で、ノクスたち第二魔導士団は後方でこの辺り一帯の情報を集めつつ、吸血魔族と敵国の魔導師たちを追跡している。


「君、ここにいたら危ないよ。」


突然後ろから白いローブを着た男の人に声を掛けられると、私は後ろからガシッと抱きかかえられ後方へと連れてかれた。


「怪我人が出ている。黒の魔導師なら直接戦わないだろう。運ばれてくる人にポーションを飲ませてくれ。」


すると私を抱きかかえた魔導師は「ヒール」と詠唱しながら、怪我を負った魔導師の治療をしていた。白いローブは光魔法の使い手だ。回復魔法や能力向上魔法が使える。

白いローブを着た人たちの中に黒いローブが一点、私は必死にポーションを飲ませた。


「っくそ…キリがないな…。」


先ほどの私を連れてきた男が舌打ちした。白いローブからは綺麗な長い銀髪とガラスのような瞳を覗かせている。

吸血魔族の血は人間を狂わせ、死に至らしめる。そして一度死んだ肉体は蘇り、痛みを知ることなく目の前の人間を襲ってくる。元魔導師だと魔法も使えるから厄介で、その中にはきっと知り合いもいるのだろう。苦痛の表情を浮かべながら詠唱する魔導師たちの顔が目についた。


私は刻印のある右手で両目を覆い、ルーカスに話しかけた。


(ルーカス、状況は?)

(一体一体は大したことないが、思ったより数が多い。どうやら吸血鬼様は敵国魔導師も気に入らなかったようだ。)

(どういうこと?)

(敵も味方も関係なく、ここにいた人間まとめてあの世へ送ったってことさ。)

(ソリティア王国の魔導師が引き連れて来たんじゃないの?)

(それは俺にもわからん。ただ俺の知る限り吸血魔族は人間に加勢するようなやつらじゃない。奴らにとってはおそらくただの暇つぶしだ。)


暇つぶし…?

これが?

たくさんの人を殺すのが暇つぶしなの?

その時、私は昔の出来事を思い出していた。小さな子どもが蟻の巣を掘り返して遊でいるのを。

そしてまた言いようのない吐き気が込み上げる。

吸血魔族にとって私たちは蟻のような存在。じゃあ、人間にとって蟻は…?

遊び半分に殺したりしない。けれども命の重みは同じではない…。

その時、ルーカスの声が頭に響く。


(アリー、アリー!大丈夫か?)

(ごめん、ルーカス。大丈夫。あとどれくらいかかりそう?)

(…一気に魔力消費していいなら、残りは森ごと焼き尽くせるが…。)

(なら、そうして。これ以上は見るに堪えない!)

(了解。その代わり後は頼んだ。)


私は右手を目から外すと一気にルーカスの方へと走り出した。


「君!まだ、そっちは…。」


後ろからさっきの白いローブの魔導師が声をかけるが、私は無視をして空中にいるルーカスに目を向ける。いつしか出来るようになったこのテレパシーのようなものは、まだ他の魔導師には気づかれていない。


「ルーカス!」


私が叫ぶと同時に目の前に物凄い大きな音と衝撃が走り、目の前が真っ白になった。そして血の海と化していた地面の半分以上があとかたもなく消え去っていた。残ったのは数人の(うごめ)く死体とえぐり取られた地面だけ。


上からゆっくりとルーカスが力なく落ちてきて、地面に着いた時には羽もなくなりヨロヨロと私の方へと駆け寄ってくる。近くまで来るとルーカスは立ち止まり、その場で腰を下ろした。


「アリー、…ちょうだい。」


魔力をくれということだが、何だか自分をくれと言われているようでドキッとする。

私は差し出された彼の手を握り一気に魔力を渡す。ごっそりと持ってかれる感じがして、頭が一瞬クラっとした。一気に渡すと私の体にも負担は大きい。

でも、もう見ていられなかった。

そうして私は魔力を渡し終えると、そのままルーカスにもたれかかった。

彼は何も言わない。

エスティオの部下の目が気になりつつ、私はルーカスに触れられるギリギリの線を攻めている。魔力を渡す時以外手を握るのも、抱きつくのも、当然キスをすることも出来ない状況で、私が出来る最大限のことをルーカスにする。


ルーカスは私に触れられないことを酷いと言うが、私が触れられるのに我慢しなければならない辛さを抱えていることなんてきっと思いもよらないだろう。


全てが終わったら、全部言おう…。

それまでの辛抱よ。



♢♢♢



残党狩りが終わったところで各魔塔のリーダーたちが集まり話し合いをしている。こんなところでも黒の魔導師にはリーダーはいないので、全ての命令は後から知らされるのだけど…。

赤の魔塔からはアレックスさんが、そして白の魔塔は先ほど私を抱えた男の人が立っていた。


吸血魔族の向かった先がわかったようで追いかけるかどうか相談しているようだ。

というのも、追跡魔法をつかったが敵国の魔導師の気配がないそうなのだ。

どうやらルーカスの言っていたことが当たったらしい。

その時、アレックスさんが私に来るように手を振りながら私を呼んだ。


「アリーシャ、ちょっとこっち来てくれ。」

「は…はい!」


何事かと思いながらリーダーたちの所へ行く。

赤の魔塔からはアレックスさん。

白の魔塔は…さっき私を抱えた男の人だ。

それから雷魔法を使う金髪の男の人に、他の三人は女性の魔導師だった。

アレックスさんは私が来るとニコニコしながら質問をしてきた。


「アリーシャ、実は君の使役している魔物についてちょっと聞きたいんだけどいいか?」

「ルーカスですか?何でしょう。」

「さっきの攻撃はどれくらいの力でしたものなんだ?わかったら教えてくれ。」

「そうですね…。」


私はルーカスに魔力を渡した日からだいたいの量を逆算する。


「おそらく五分の一くらいの魔力消費かと。」

「あれで五分の一?それは…すごいな。」


アレックスはまともに戦わなくて良かったという顔をしている。


「聞いたか?五分の一だそうだ。それなら行けるんじゃないか?」

「しかし…魔物頼りとなると…。」


どうやらこの後、吸血魔族を追うのにルーカスの力を頼りにしているらしい。

黒の魔導師を邪険に扱っておきながら今更と思ったが、他の街や村で同じような光景になるのだけはやはりどうしても避けたいと思った。


「ルーカスなら平気です。先ほど魔力も全て回復させましたから。」

「そうか!」

「それなら…。」


渋っていた魔導師も私の言葉を聞いて、そのまま追いかける方へと気持ちが傾いているようだ。

そして土使いの女性魔導師が締めくくるように言った。


「追いかけましょう。危険な魔物狩りに来たのが本来の私たちの役目じゃない。そうでしょ、皆さん。」


その言葉をきっかけに話し合いはまとまり、追跡する方向へと固まった。

そして私は軽く会釈しルーカスの元へ戻ろうとしたその時、後ろから声をかけられた。

さっきの銀髪ロングの光魔導師である。


「さっきはいきなり抱えてごめんね。急いでたものだから。」


透き通った色素の薄い瞳が美しい。私はその瞳をじっと見つめた。

すると少しその男は顔を赤らめた…ような気がした。


「はい。大丈夫です。」


ルーカスほどではないが、こちらもかなりの美顔の持ち主である。

この世界には美形が多い。


「さっきアレックスにアリーシャって呼ばれてたね。それが君の名前?」

「はい、そうです。」

「そっか。僕はシュナウザーと言うんだ。よろしく。」

「あ、よろしくお願いします。」


黒の魔導師にわざわざ名乗るなんて珍しい。

そう思いながら差し出された手を軽く握った。

するとぎゅっと強めに握り返されたかと思うと、急に顔を近づけてきた。


な…何?


「もっとよく顔を見せて。」

「えっ…?」

「黒の魔導師なのに輝く金髪に、ウルウルとしたピンクの瞳。可愛いね!」

「あ…どうも…。」


そして私はこの状況に既視感を覚えていた。

あれ…?

この感じ…似てる。

そう思った瞬間にはもう遅かった。


「僕、何だか君のこと好きになったみたいだ。不思議だ。こんなこと初めてだよ。」


そう言った瞬間、シュナウザーは私をグイっと引き寄せるとぎゅっと抱きしめたのだ。

ただしそれはほんの三秒ほどで終わる。

後ろからアレックスに思いっきり蹴りを入れられ、前からはルーカスに殴られていた。


「おい!シュナウザー!お前、俺のアリーシャに何してんだ!焼き殺すぞ!」

「いつお前のアリーになったんだ?アリーと(つな)がってるのは俺なんだよ。」

「アレックスも黒龍君も血の気が多いな。そんな男は彼女には合わないと思うけどね。」


三人の男(魔物含む)がなぜか私を取り合って喧嘩を始めたのである。

周りにいた魔導師たちは唖然としてそれを見ていた。


そしてそれを見ながら私はある違和感の正体に気づき始める。

エスティオといい、アレックスといい、シュナウザーといい、こんな短期間で一気に好かれるなんておかしい。いや、もしかしたらルーカスも…?


アレックスとシュナウザーは他の魔導師たちに(いさ)められ、お互いフンっと顔を背けながら反対方向へと歩きだした。もちろん二人とも私ににこやかに手を振りながら。

そしてルーカスは私の元に戻って来る。


「アリー、もっと顔を隠した方がいい。君の甘い香りが男を誘うんだ…。」

「甘い…香り…?」


そう言えばルーカスはよく抱きついたりキスをした時に甘い匂いだとか何とか言っていた。


「アリーは可愛くて甘い匂いがする…。俺はいつでも抱きしめたいのを我慢してるのに…。大好きなのに…。」


私の中で今までのルーカスの言葉がぐるぐると頭をよぎっていた。

甘い匂い…。

甘い香り…。

可愛い…。

大好き…。

食べてしまいたい…。


何だろう。今まで言われてドキドキした言葉が急に不安へと変わっていく。


「ルーカス…私のどこがそんなに好き?」


今までそんなことを言わなかったからか、ルーカスは少しだけ戸惑ったようだった。


「…可愛い…とこ。」


ルーカスは顔を赤らめながら恥ずかしそうにしていたが、私の心はなぜか不安でいっぱいになっていた。


可愛い…。

なぜかそのフレーズが引っ掛かってしょうがない。

エスティオもアレックスも、そしてシュナウザーも似たように可愛いと言う。


私はその拭いきれない違和感を持ったまま、吸血魔族を追うためにまた魔導車へと乗り込んだのだった。


書き終わって時間予約せずに更新してしまいました。ということで、今日はこんな時間にあげています。すみません(ーー;)

こんなうっかりミスをしてしまう私ですが、引き続き最後までお付き合いいただければと思います。



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