第34話 傷だらけのルーカス
王宮を出発してから20日あまりが経ち、私たち王宮魔導士団一行は順調に討伐をしていた。
アレックスさんはというとあの後はっきりと断ったのにも関わらず、毎日のように花束を持ってきてはルーカスと喧嘩になる。幸いなことに口喧嘩なので大ごとには至っていないが、エスティオといいアレックスさんといい何とも言えない違和感が拭いきれなかった。
そしてもう一つ問題なのがルーカスが毎回怪我してくることである。
もともと黒魔導師の使役した魔物は代えが効くと思われているのか、最前線で戦わされることが多い。エイミーのラスコーもザックの炎鳥も確かに傷を負って戻って来るが、ルーカスのそれは比ではない。
どうやら他の魔導師たちが倒す予定の魔物まで一気に一人で倒してしまうらしい。攻撃をよけるそぶりもなくそのまま突っ込んでいくのだとか。わざと避けれる攻撃も受けているように見えるとさえ聞く。
「ルーカス、痛む?」
「ああ、少し…。」
そして毎回のようにその痛々しい傷にポーションを塗ってやるのだ。
「無理しないでって言ってるのに、どうして…。」
「別に無理してない。雑魚ばかりだから一人でやった方が楽なだけだ。」
「嘘つき。」
「嘘はついてない。チマチマやらずに一気に森を吹き飛ばした方が本当は速いし簡単だ。ただ、そうするなと言うから余計やりづらい。それだけだ。」
ルーカスは私がポーションを塗っている間、とても穏やかな顔をする。
そして時々送る熱っぽい視線に気づかないフリをしながら、私は淡々と手当するのだ。
ルーカスがなぜこんなことをするのか聞かなくたって本当はわかっている。こうしてる間は私に触れてもらえるからだ。でもそれを言葉にしたら、もう出来なくなってしまうからあえて言わないのだ。
それがわかってて私も黙っているということは、そういうことだ。
「ねぇ、ルーカス…。落ち着いたらルーカスに聞きたいことがあるの。」
「何?」
「この討伐任務が終わったら話すよ。」
「…わかった。」
この任務が終わったら、どうして女性を攫ったのか聞こう。
もう、私はルーカスから離れられないのだから…。
「アリー、これが終わったら王宮に戻るのか?」
「…そうね。」
「アイツがいるのにか?」
「それは…腕輪があるから…。」
私はルーカスの腕輪をチラッと見た。戻らなければ魔塔の、みんなの魔物は死ぬかもしれない。
あの時のエスティオの目は本気だった…。
「ルーカス、お願いだからもう少し待って。そしたらきっと解決するから!」
「…わかった。でも、もしアイツが今度アリーに何かしようものなら、俺にも考えがあるから。それだけは覚えておいて。」
いつになく真剣なルーカスに気押されつつ、私はその考えというのが恐ろしくてそれ以上聞けなかった。
そしてルーカスは触れられない代わりに私に熱い視線を送る。
「アリー、君がどう思っても俺たちはずっと一緒だ。」
そしてまた辛そうに微笑むルーカスから視線を外すのだ。
「アリー、大好きだ…。」
私はいつもここで声が出ない。
「私も」と言えばいいのに、言った瞬間にルーカスが全てを破壊してしまいそうで怖いのだ。街も王宮も全て壊して、私をどこか遠くへ連れ去ってしまうのではないかと思ってしまうのだ。
ルーカスの顔を見る度に彼を傷つけているという罪悪感だけが募っていく。
もう、私にも限界が近づいていた。
♢♢♢
そしてそれから一週間ほどが経ち討伐もいよいよ終盤へと差し掛かっていたその頃、敵国のソリティア王国が攻めてきたとの一報が舞い込んで来た。
彼らは吸血魔族を従えてリュッセント王国の南東方面を侵攻中らしい。
本来王宮に引き返す予定だった私たち魔導師団も、急遽そちらへ加勢しなければならなくなった。
不謹慎ながらもこの知らせは私にとってありがたかった。
グレイソンが使いとしてよこした魔物からの伝達では、まだ精神魔法の研究が成功していないと聞いていたからである。魔物には成功したが、やはり人間にはうまくいかないそうなのだ。それでも魔物にはできたということなら、あともう一歩の所まで来ている。
今回のことはそんな何とか時間を稼げないかと思っていた矢先の出来事だったのである。
私たちは急いで魔導車に乗り込み、現地へと向かった。
そして現地に着いた時、私は不謹慎にもこのことに喜んだことを後悔することになる。
私はまだ理解していなかったのだ。
私が想像していたよりも、この世界は恐ろしく残酷であることを。




