第33話 突然の告白
ガタガタと揺れる魔導車が一旦止まると、休憩の合図が出た。
一か月かけて南の森の国境近くまで進み、街や村の人間を襲う魔物を討伐していくのが今回の任務だ。
丁度、目的の街の半分くらいまで来たらしい。
魔導車には私たち黒魔導師の他に、風と光の魔導師が一緒に乗っている。軽くノクスに手を振ると彼も振替してきた。ディアナも一緒に乗りたがったが火の魔導師は別の魔導車だ。
ルーカスが火の魔導師ともめたため、わざと別々にさせられているのだろう。
休憩の合図が出てぞろぞろと降りていく。
幸い穏やかで優しそうな雰囲気の魔導師たちばかりなので、問題なくここまできている。やはり魔法の特性が性格にも影響しているようだ。
エイミーとザックに外に出るかと声をかけたが、彼らはこのまま魔導車の中で休むという。因みにエイミーの相棒のラスコーはタヌキのようで割と人懐っこいのか、私の膝の上に乗ったりして可愛らしかった。逆にザックの赤い大きなワシのような魔物はお高くとまって魔導車の上に乗っている。
ルーカスのように人間の姿になることはないそうだ。
私は少し体を動かそうとルーカスを連れて外に出た。
広がる草原と太陽がまぶしい。私は木陰を見つけると、そこに座った。
「ルーカスも座って。」
「そうだな。」
彼は隙間を空けて私の隣へ座る。
すると冷やかすかのように他の魔導師たちがニヤニヤしながらこちらを見ていた。
以前、私とルーカスができてるという噂のせいだ。この中にエスティオの部下もいて私たちを監視しているに違いない。
しかしそれもほんのつかの間、ディアナやノクスも混ざると自然とその好奇の色は薄れた。
「アリーシャ、あんたも大変ね。」
もとはと言えばディアナが部屋を開けたせいじゃないと言いそうになり、私はそれを飲み込んだ。
「別にもう気にしてないから、大丈夫よ。」
「ふーん。」
ノクスは私とルーカスをチラチラ見ながら、もの言いたげにもじもじしている。
ルーカスは目をつぶったまま、静かに木にもたれかかっていた。
風にサラサラと揺れる黒髪につい手を伸ばしたくなる衝動を抑えながら、私は二人の方を向いた。
「ところでノクスは追跡魔法が得意って言ってたけど、他に何ができるの?」
「うーんと、よく使うのが風で切りさいたりするのかな。料理をする時に役立つよ。あとは風の魔導師があと三人ほどいれば竜巻なんかも起こせるけど、僕はあんまり好きじゃないな。」
魔法で野菜でも切ってるのかと思うと少しおかしかった。チラッとディアナを見ると、ノクスの方に熱い視線を向けている。何とも可愛らしい。
「ディアナは?」
「私は攻撃魔法が得意よ。知っての通り炎系の魔法なら私の右に出る者はいないわ!」
私はクスクス笑った。本当にディアナのその自信はどこから出てくるのだろう。
すると後ろから低い声で、
「本当に?」
と声がした。振り返ると赤の魔塔の管理責任者にして火の魔導師を取りまとめるアレックスが立っていたのだ。その声にルーカスも反応し、チラッとアレックスを見る。
「だ、団長!」
当然ディアナは慌てふためいていた。自分が一番などと言ったのだから。
「おう、ディアナか。炎系の魔導師では俺が一番だと思っていたんだがな。」
「いえ、これは…。」
ディアナの目が右左と泳いでいる。
「ははは!気にしないさ。ところでそこにいるのはアリーシャだな。」
「あ、こんにちは。」
私はすぐに立って挨拶する。赤髪のロングストレートに赤目の男はやはり目立つ。
そしてそんな彼の手には可愛らしい花束が握られている。
「アリーシャ、花は好きか?」
「花…ですか?…はい、嫌いじゃないですけど…。」
「じゃあ、これ。」
そういって手に持っていた白い小さな花束を差し出した。彼の熱い視線が気になる。
「近くで摘んで来たんだ。これを君に。」
「えっ…。」
なんで私に花束を…と思いながら先日「可愛い」とボソッと言ったのを思い出した。
まさか…。
そしてアレックスはなぜかソワソワしている。
待って…まさかここで何か言うつもりじゃないでしょうね!
絶対やめて!
しかし、その悪い予感は当たってしまった。
「アリーシャ、俺は君に一目惚れしてしまった!好きだ!」
嘘でしょ…。
一体どうなってるの?
そう思った瞬間、目を光らせたルーカスがパーンと彼の手をはたき花束は地面にパサッと落ちた。
ディアナとノクスはまたもや大変な場面に遭遇し、目を白黒させている。
「お前…何言ってんだ?俺とアリーのこと知らないのか?」
ルーカスがジロリと睨むと、アレックスもまた睨み返す。
「さぁ、何のことだか。最近では別れたと聞いたけどな。」
「馬鹿か。俺とアリーが別れることなどない。ずっと一緒なんだから。」
まさに一触即発の雰囲気の中、私は慌てて二人の間に入る。
背の高い二人に挟まれ、私はまるで宇宙人に拉致されるかのようだ。
「お、落ち着いて、ルーカス!アレックスさんも!」
「アリー、邪魔するな。コイツは見た時から少し気に食わなかったんだ。」
「それは奇遇だな。俺も同意見だ。」
一体何がどうなってんのよ。
そう思いながら私は無意識にルーカスの手を取る。
「アレックスさん、い…今は話せない状況なので、また今度落ち着いて話しましょう。さぁ、ルーカスちょっとこっち!」
私はルーカスを連れて行こうとすると、アレックスは私の肩を掴んだ。
「アリーシャ、俺は本気だ。覚えといて。」
「は…はい。」
アレックスはニコッと笑うと、その場を立ち去って行った。
炎の男は去って行ったが、その火種を残したままだ。
私はルーカスの手をぎゅっと握ったまま、その場で立ち尽くしている。それに気づいて、また慌てて手を放した。
「アリー、君が好きなのは俺だろ。なぜ、はっきり言わないんだ?」
私はルーカスの問いに何も言えないまま彼を見上げた。
先ほど握った手が熱い。
「アリー、俺は一体どうしたらいいんだ?君から離れることもできず、触れもしない。小さな夢を見せて俺を縛り付けて…本当に残酷だよ。」
ルーカスはそう言うと、そのまま魔導車に戻って行った。
ディアナとノクスはその様子を見ながら、何とも気まずそうにしている。
私は二人に一言謝ると、しばらく皆と離れて一人でいた。
何かがおかしい。
それが何なのかはよく分からないが、そんな気がしていた。




