第32話 ルーカスの疑惑(2)
ディアナはソファに座ると、私を真向いに座るよう促した。
彼女の後ろには大きなノクスの写真が飾られているので、何だか二人に見られているようで変な感じだ。
私がソファに腰かけると、彼女はいきなり直球でかましてきた。
「アリーシャ、まさかさっきの話、全部信じわたけじゃないわよね。」
さすがディアナ。いきなり本題に入ってくる。
「全てが本当かは別として、あの人は嘘を言ってるようには見えなかった。」
最初はエスティオが自分に有利になるように用意したとも考えたが、あの人の苦しそうな表情は作り物ではなかった気がするのだ。本気で恐ろしい目に遭って、今でも苦しんでいる…そう見えて仕方がなかったのだ。
「だとしても、ちゃんと黒龍様には聞くべきよ。」
「それはわかってる…。だけど、ルーカスに聞いて本当だって言われるのが怖いの。」
「アリーシャ、あんた…。」
「ちゃんと受け止められる覚悟ができたらきちんと聞く。ディアナもわかって。」
本当だったら?もしそうだとしたら、もう本当にルーカスと一緒にいられなくなってしまう。
何だかんだで私はルーカスと離れたくないのだ。
それは刻印がとかそういうのではなく、心の問題なのだ。
ディアナはあきれたようにため息をつくと、机の上のクッキーを口に運んだ。
「アリーシャって呆れるくらい頑固なのね。」
「どこがよ。」
「全部よ!」
そう言った後、ディアナは付け加えるようにボソッと言った。
「でも、嫌いじゃないけどね…。」
つり目で意地悪だった印象が、今では可愛らしくて仕方がない。いわゆるツンデレってやつかしら。
私はクスクスと笑っていた。
その後はディアナの恋バナを延々と聞かされた。
ノクスとの出会いから現在に至るまで。これのおかげでだいぶ昔の情報が得られたのは良かったけどね。
ディアナと男の趣味が被らなくて本当に良かった。
気づけば日も落ちて暗くなっていたので、私は部屋に戻ることにした。
ルーカスのいる自分の部屋へ…。
自分の部屋なのに今日は一段と緊張していた。
ディアナに手を振って、自分の部屋に戻るとルーカスはまだ帰っていなかった。
「なんだ…。」
少しほっとしたような寂しいような気持ちのままお風呂に入り、そしてベッドに入る。
自分で貼ったテープの線が一段と彼との距離を感じさせた。
(そろそろ魔力を渡さなきゃいけないのに、一体どこに行ったの。)
(あの人の話は本当なの?)
聞きたいことが次々にあふれるなかで、ベッドの空いたスペースを見つめた。
一時間、二時間と時間が過ぎてもルーカスは戻って来なかった。
そうしているうちに私の瞼は重みを増し、視界がどんどん狭くなっていく。
やがて完全に瞼が閉じた時、ドアがカチャリと遠くで開く音がした。
ルーカス?
名前を呼んでみたが体が完全に眠ってしまって動かない。意識だけが微かに残っているようだった。
「アリー…。」
ルーカスが名前を呼んでいるようだが、それもどんどん薄れていく。
「そんな甘い香りをさせて無防備に寝て…。」
何を言っているのかもう聞き取れない。ただ低く透き通った音がするのみだ。
「1ミリも触れさせてくれないなんて…本当に酷いことをする…。」
頬に冷たい何かがポタっと落ちたような感触が微かにした。
「…苦しいよ、アリー。それでも…君が大好きだ…。」
私は夢の中で一筋の涙を流すルーカスを見た。
♢♢♢
結局ルーカスがどこに行ったのか、女性を連れ去ったことがあるのか聞けないまま時は過ぎ、遂に遠征へと出発する日がやって来た。
昨日部屋に届いた真新しい長めのスカートを履いている。
黒の魔塔からはエイミーとザック、そして私の三人だけだったが、他の魔塔からはもっとたくさん集まっており、いかに黒魔導師は肩身が狭いかがまざまざと見せつけられた。
合成魔法が使えないから明らかにのけ者にされている。魔塔ではあんなに明るかったエイミーとザックも上から真っ黒のローブを被り一言もしゃべらない。
これじゃあ、仲良くっても難しいか…。
その上ルーカスがつい最近、赤の魔塔で暴れたことでさらに視線は冷たかった。
それでもディアナやノクスも一緒にいたので、まぁ何とかやっていけるような気がした。
今回は各地で暴れる魔物の討伐をするらしい。
ルーカスは一体どう思ってるんだろうと覗き見ると、ニコッと笑い返してきた。
やっぱり悔しいくらいの美顔である。
「どうした、アリー。不安か?」
「ちょっとだけ…。私が戦うわけじゃないのにね。」
「大丈夫だ。アリーは安全な所にいて、俺に魔力をくれさえすればいい。」
そう言われると余計に私は何も出来ない、ただの魔力持ちのようで悔しかった。
何か私にももっと出来る事があればいいのに…。
「ルーカスは大丈夫なの?」
「何が?」
「その…同じ魔物同士で戦うこと…。」
「別に…同族じゃなければな。」
どうやら同じ龍族同士ではやり合いたくないようだ。そこは、少し安心した。
「そっか…。私に出来る事があったら何でも言って。」
私はルーカスに笑顔を向けると、彼はまた熱っぽく私を見つめながら切ない顔をする。
「じゃあ…いや、何でもない。」
ルーカスはその後黙りこくってしまった。
微妙な空気の中、私たちは20名ほどが一気に乗れる大型魔導車に乗りこみ目的地までつれられる。
ガタガタと揺られる度にルーカスの肩や腕に当たって、また意識してしまうのを必死に抑えた。
ルーカスを受け入れる覚悟。
もしくはルーカスと完全に離れる覚悟。
一体いつになった出来るのだろう。
自分のはっきりしない気持ちに振り回されながら、私はまたうとうとと眠りについた。
いつも読んでくださりありがとうございます。
アリーシャの精神年齢は30歳なので、なかなか恋に突進できない感じも含んでいます。対照的にディアナは16歳と若いので恋に真っすぐです。
そんなところも楽しんでもらえたらと思っています。




