第29話 赤の魔塔
ルーカスを連れて赤の魔塔に行くと、物凄く険悪なムードで出迎えられた。
塔の中に足を踏み入れるや、頬に傷のある男に睨まれ、背の高い女に舌打ちされ、ルーカスと同じくらいの男には罵倒され。
それもそのはず。ルーカスが西の森で戦っていた人たちだ。
その仲間の一人は魔力をほぼ限界まで吸い取られ川に投げ捨てられたと聞くから彼らの怒りは相当なものだ。最近やっと回復したらしいが、魔力がまだ回復しきっていないらしい。
ルーカスは思っていた以上に危険だということがこれでわかった。
私がまだ知らない残忍な一面。
それなのに好きだという感情。私はどうかしている。
ルーカスもルーカスでまた火に油を注ぐようなことを言う。
「殺さずに生かしてやったんだから、感謝すべきだろう。」
私以外には態度が横柄だ。さっきのシュンとしたルーカスとは別人のよう。
「何だと、今すぐ殺されたいのか!」
「俺を殺れるものならやってみろ。どうせあの時のように逃げ帰るのがオチだ。」
「ふざけんな!」
私は一生懸命止めに入る。
「ちょっと待ってください!私は友達を訪ねてきただけで!」
長身の男は怒りで何も聞いていない。
「うるせー!」
するといきなり火柱が立ち、火の球があちこちから飛んできた。ルーカスが「俺の後ろに!」と私を引っ張ろうとしたが、刻印の命令のせいで反発して触れられない。
ルーカスはすぐさま私の前に出ると美しい黒龍に変身し、私に火の球が当たらないように体で攻撃を受け止める。
「ルーカス!」
(アリーは早く逃げろ!)
私はルーカスのお荷物でしかない。すぐに魔塔から出ると、私は振り返った。
中から魔獣の叫び声が聞こえる。
「ルーカス!!!」
その時、ドーーーンという大きな音ともに魔塔の壁が吹き飛ばされた。
美しい黒龍がそこから飛び出し、空の上から見下ろしている。
当然、他の魔塔からも魔導師たちが集まってくる。
ルーカスは地上にいる私を見つけると、下に降りてきてたちまち人間の姿に戻った。
体が所々傷ついている。
「アリー…。俺に他の人間を大事にするのはやっぱり無理そうだ…。」
「ルーカス、今はそんなことどうでもいいから!」
私は自然とルーカスに触れていた。
モクモクと赤の魔塔から煙が出ている。そしてその中からぞろぞろとエンジ色のローブを纏った魔導師たちが出てきた。先ほどの長身の男も、頬に傷がある男も、舌打ちした女も一応無事のようだ。
ただディアナに謝りに来ただけなのに、ものすごいことになってしまった。
そしてぞろぞろと出てきた中にディアナもいる。
全員がこちらをじっと見ていた。
すると綺麗なロングストレートの赤髪の男が前に出てきて、私たちと魔導師たちを見渡した。彼もまたエンジ色のローブを羽織っているところ見ると、火魔法を使う魔導師だろう。
「何だこの騒ぎは!一体誰の仕業だ!!」
全員がルーカスと私を見る。
「貴様か!一体どういう!」
だけど私も黙っていられない。
「先に攻撃してきたのはそちらが先です!」
私は赤髪の男をじっと睨んだ。するとその男も私をじーっと見つめ「黒の魔導師か…。可愛いな。」とボソッと呟くと赤の魔導師たちの方に向き直った。
「おい、こっちが先に攻撃したというのは本当か?」
すると先ほど罵倒を浴びせた長身の男が慌てて反論する。
「で、ですが。あいつは俺たちの仲間を…。」
「言い訳は聞きたくない!」
そう言うと赤髪の男は長身の男に向かって、炎の球を浴びせ吹っ飛ばす。頬に傷のある男も舌打ちした女もただ俯いていた。
なんだか赤の魔塔の人たちって、別の意味でぶっ飛んでるかも…。
クルっと赤髪の男は私に向き直ると、急に丁寧な口調でしゃべりだした。
「どうやらうちの部下が失礼した。俺は赤の魔塔の責任者、アレックスだ。ところで君は…。」
「あ…えっと。黒の第一魔導士団所属、アリーシャです。こちらは黒龍のルーカスです。」
他の魔導師たちも集まって見てる中で、ちょっと恥ずかしい。
「アリーシャか!可愛い名前だな!ところで赤の魔塔にはどうして?」
「あの…友達に会いに。」
「友達?誰だ?」
「そこにいるディアナという子です。」
私はディアナを指差した。
「おい!ディアナ!呼んでるぞ、来い!」
ディアナは渋々といった形で私の前に来る。上司の命令だもんね。一応…。
「な、何よ。」
「えっと、アレックスさん。ディアナを少しお借りしてもいいですか。ルーカスの手当てもしたいし…。」
「もちろんだとも!」
アレックスはニカッと笑った。
「あと、魔塔…たぶんルーカスが破壊したと思います。どうすれば…。」
「それは気にするな。また土の魔導師に頼んで修復してもらうさ。」
また…ということはしょっちゅう壊してるのかな…。
そう言えばディアナが最初に行った時も、新人魔導師同士で戦わせたっていうし…。
私はペコっとお辞儀するとディアナとルーカスの手を引っ張ってこの場を立ち去った。
周りの魔導師が避けて花道みないになっている。
恥ずかしい…。
取りあえず二人を連れて一度部屋へ戻ることにした。
そして少しだけ気がかりなのがアレックスがボソッと「可愛い」と言ったこと。
聞き間違いだよね…。
私は小さな違和感を感じつつ、部屋へと向かった。
読んで頂きありがとうございます。
少しずつアリーシャ自身に関する違和感を出す予定です。引き続き応援をよろしくお願いします!




