第28話 謝罪と本音
「ちょっとアリーシャ、一体どうなってんのよ!」
空中宮殿を出るとディアナが興奮したように声を荒げた。
「聞いてた通りよ。私、求婚されてるの。」
「そうじゃなくて!」
ディアナは私の肩を掴みグイっと自分に向かせた。
「あんた黒龍様はどうしたのよ!」
ディアナは怒ったような心配するような何とも言えない表情をしていた。
そして意外だった。
何を脅されてるかでもなく、エスティオのことでもなく、彼女がルーカスのことを聞いてきたのが…。
「どうもしないわ。魔塔にいるっていったでしょ。」
私は目を背けた。ディアナは掴んだ肩を離さない。
「あんた、やっぱりおかしいわ!気に入らないなら黒龍様に一発殴ってもらえばいいじゃない!」
「そうもいかないのよ。もう、ほっといて!」
ディアナがグッと手に力が入り、掴まれた肩に痛みが走る。
「何か理由があるにしても、一緒にいないのは変よ!黒龍様はあんたの恋人なのに!」
私の中でこれ以上もう何も言われたくないという思いが湧きおこった。お願いだから今はもうそっとしてほしい。ルーカスに命令した時の彼の傷ついた顔が頭にチラついてしょうがないのに!
「黒龍様、黒龍様って一体何なの?みんなして様なんかつけて。だいたい私が魔物なんか恋人にするわけないでしょ!キスだって仕方がなくだったのよ!」
するとディアナは肩を掴んでいた手を放した。
そして、その手を思いきり振りかざすと、私の頬にバチンという音と熱い痛みが走った。
ディアナのつり上がった目がさらに上に引っ張られ、怒りを向けている。
「あんた最低だわ。昔から気に入らなかったけど、本当に最低よ。黒龍様がどれだけあんたに気を許してるか全然わかってないのね。魔物だから何なの!そういうの気にしないと思ってたのに、とんだ見当違いだったわ。」
頬をはたかれたことで私も頭に血がのぼった。
「何言って。ディアナたちこそ魔物を差別してるんでしょ!黒魔導師以外はみんな魔物は敵だと思ってるくせに。」
ディアナは冷たい視線を私に向けながら吐き捨てるように言った。
「アリーシャ、あんたとはもう絶交よ。」
ディアナはフイっと反対を向くとそのまま赤の魔塔へと走って行った。
こんな声を荒げて喧嘩するなんて、子どもの時以来だろうか。十六歳の子相手に本当に大人げない。
私はぶたれた頬を手で覆った。
「絶交って…。」
そんな言葉も久しぶりだ。
本当に、今日一日で色んなことが起こる。
これは一体誰のせいなんだろうか。
ルーカスと出会わなければ。エスティオが私を気に入らなければ。それとも、そもそも私がこの体に転生しなければ。
結局答えなんて出るはずもない。
ただ一つ言えることは、私はこの世界で生きているということだ。
「謝ろう…。」
私はボソッと呟いた。
ルーカスにもディアナにも。
そう決めると、私はまず黒の魔塔に向かって歩き出した。
♢♢♢
私がグレイソンの所に向かうと、ルーカスも隣で静かに座っていた。そして私が声をかけるまでただじっと固まったように動かなかった。
「ルーカス…。」
いつもだったらすぐに抱きついてくるのに、それもない。当たり前だ。そうしたのは私なんだから。
ルーカスは何か言いたげな目で私を見上げ、私の手を掴もうとしてやめた。
「アリー。ごめん。」
私はグレイソンにどこか二人で話せる部屋を貸してほしいと伝えると、別の部屋に案内してくれた。
バタンとドアを閉じると部屋には二人だけになった。
私はルーカスに近づき抱きつきたい気持ちを抑えながら、ローブをぎゅっと握りしめた。
「ルーカス、謝るのは私のほうだよ。ごめんなさい。」
ルーカスも私を抱きしめたいのを堪えるように握りこぶしに力を入れる。
「俺のこと嫌いになったか?」
私は顔を横に振りながら付け加えるように言った。
「そうじゃない。だけどわからなくなった。」
「どうして?」
「ルーカスのことは好き。だけど私はノクスやディアナ、この魔塔のみんなも大事なの。でもそれはルーカスには分からないでしょ?」
「アリーが好きなだけじゃ駄目なのか?」
私はコクンと頷く。
「二人だけで生きてる訳じゃない。ルーカスさえいれば他はどうなってもいいなんて、私には無理。それがわかったの。」
ルーカスは納得してない様子で顔を歪めた。
「だからもうアリーには触れるなってことなのか?」
「そうよ。だってあのままだったら私はきっと自分じゃなくなっちゃうもの。」
エスティオに脅されたとか、そんなのは言い訳だ。強制的に遠ざけたのは私自身の問題だ。
ルーカスはしばらく押し黙ったままだった。
そしてしばらくたった後に、
「わかった。」
と小さな声で答えた。
そして彼は切ない表情を浮かべながら、揺れる金色の瞳で私を見つめた。
「俺は待つよ。アリーから触れてもらえるまで。だって俺はどうしたって君が好きなんだから。」
私はローブを強く握りしめながら、彼に強く惹かれる気持ちに蓋をした。
自分の気持ちを抑え込むことがこんなに苦しいなんて…。それは心臓がぎりぎりと締め付けられるような痛みだった。
私はまた顔を隠すようにフードを被ると、視界からルーカスを消した。
魔塔のみんなはこの黒いローブは気に入らないって言ってたけど、今の私はこれくらいが丁度いい。
「じゃあ、私は触れたりしない。魔力を渡す時以外は…。」
これで良かったんだと自分に言い聞かせる。
ルーカスから何度も離れなきゃって思ってた。なのに、わたしはルーカスに甘やかされてどんどんおかしくなってしまった。
そして今は前よりもずっと苦しい。
でも、この苦しい気持ちもいつかは収まる。
私は顔を上げルーカスの方を向く。
「ディアナのところに行くわ。ルーカスはどうする?」
彼は私を抱きしめるかのような眼差しで見つめながら、泣きそうな微笑みを見せた。
「聞かなくてもいいだろ。ずっと一緒なんだから。」
ずっと一緒…。
この刻印がある限り。私は改めてその言葉の重みを知った。
いつも読んでくださってありがとうございます。
ルーカスは150年生きていますが1000年を寿命とすると、だいたい精神年齢は15歳くらいという設定です。なのでルーカスは少年と成人男性が混ざった直情型な感じでしたが、これから精神的にも成長させたいなぁと思っています。今後も応援よろしくお願いします。




