第26話 ねじれる関係
ルーカスはただじっとベッドの上でアリーシャが朝食から戻るのを待っていた。
そして部屋に近づく足音が聞こえると、先ほどと同じ態勢で眠ったフリをした。
バタンと勢いよくドアが開く音がする。
アリーの甘い香りと少し上がった息づかいが聞こえた。
走って戻って来たのか?
そんなに早く俺に会いたかったのか?
嬉しい想像を膨らませながら、目をつぶっている。
少しずつアリーがベッドに近づいてくる。
「ルーカス?起きてる?」
起きてるよ。いや、もっと前から起きてた。
アリーが俺に「好き」って言った時からずっと。
アリーが俺を起こそうと手を伸ばすのが気配でわかった。
俺はその時アリーの手を勢いよく掴んで、ベッドの中に引き込んだ。
アリーが小さく驚いた声を漏らしていたが、もうそんなの関係ない。
俺はそのままアリーを思い切りぎゅうっと抱きしめた。
「アリー、俺を置いてくなんてひどいじゃないか。」
彼女はいつもより強く押し返していたが、もう気にしない。
恥ずかしがってるのはもう百も承知なんだから。
「お願い!ルーカス。ちょっと離れて!」
「駄目。そう言って俺の我慢を試してたんだろ?」
「そうじゃないの。お願い!今、話がしたいの。」
俺の腕の中でもがくアリーもすごく可愛い。
「もう、アリーの話したい事なら知ってる。だからそんなに恥ずかしがらないで。」
「ルーカス、そうじゃないの!お願い。」
アリーの目が少し潤んでいる。それがまた俺を煽ってるようにしか見えない。
そんな顔見せたらダメだって言ったのに。
「アリー、大好きだ…。もう、いいだろ?」
俺はアリーの頬を触ると、そのまま彼女の唇にキスをした。
今までで一番甘いキスを。
食事のためではない本当のキスを。
アリーが小さな声を漏らしている。可愛い。こんな可愛い声が聞けるなら一日何十回したっていい。
「ルー…カス。お願い…。」
「わかってる、アリー。もう何も言うな。」
俺はそのまま彼女の首筋に唇を当て、強く甘いキスを落とした。
またアリーの可愛い声が聞こえる。
俺は彼女の首筋に着いた赤い痕を指でなぞりながら彼女を見た。
「起きてる時にするとそんな可愛い声が聞こえるなら、もっと早くすれば良かった。」
俺が小さく耳元で囁くと、彼女はピクッと体を動かした。
くすぐったかったのか…。すべての反応が可愛くて仕方がない。
「ルーカス…前にもしたの?」
「少しだけだ。君が寝ている時に。」
「どうして?」
「そんなの決まってるじゃないか。キスだけじゃ足りないからだよ。」
そして俺はまたアリーをぎゅうっと抱きしめた。このまま、もういいよな…。
俺はまたもアリーにキスをする。
「アリー、すごく可愛い。」
「お願い、ルーカス。話をさせて。」
さっきから話、話ともう君の言いたいことはわかっているのに。
そんなにちゃんと言いたいのか?
「話って?」
「こんな状態じゃ話せない。だから一旦離れて。」
「このままでいいじゃないか。」
「違うの!このままだと魔塔の…みんなの使役した魔物が死んじゃうかもしれないの!」
また馬鹿なことを…。そう簡単にあのレベルの魔物は死んだりしないのに…。
ビックリさせて俺から離れる気だろうが、そうはさせない。
いつも食べたくて我慢してたんだから。
「そんなのどうだっていいじゃないか。今はこっちの方が大事だ。」
そして俺が頬にキスした時、舌にしょっぱい味を感じた。
よく見るとアリーが大粒の涙を流している。
「…アリー?」
彼女はボロボロと涙をながしながら、ピンクの瞳で俺を真っすぐに見ていた。
「ルーカス…。やっぱり私が間違ってた。魔物と人間はやっぱり違うみたい。」
そして彼女は刻印のある右手を俺の胸に当てると、震える声で言った。
「刻印の契約により命令する。黒龍ルーカスから私に触れることを…一切禁止する!」
その瞬間、黒い龍の刻印が光りルーカスの体全体を覆った。
そして彼女を抱きしめていた俺の体は、まるで磁石が反発するように引き離されていく。
「アリー、どうして。どうしてなんだ…。」
彼女はただ涙を流しながら俺を見ていた。
「ごめんなさい、ルーカス。」
彼女は真っ黒なローブを羽織ると、顔を隠すようにフードを深くかぶった。
「先に魔塔に行くわ。ルーカスは後から来て。」
そして彼女は部屋から出て行った。
俺は今、何が起こったのかまるでわからなかった。
ただアリーの甘い唇と抱きしめた感触だけが残されただけだった。




