第24話 ルーカスとベッドと恋心と
部屋の扉を開け私の目に飛び込んで来たもの。
それは白いヒラヒラしたレースのカーテンがついたベッドだった。
ピンクベージュと白を基調とした、いわゆる天蓋ベッドというやつだ。
お姫様とかがよく寝てる、アレである。
「な、何これ…。」
私が扉の前でピタッと止まると、ルーカスが私の肩に手をのせ「ベッドだけど。」と言った。
「いや、それは見ればわかるんだけど…。」
「今日店員に聞いたら二人で寝るにはこれくらいがいいって言ってたぞ。」
私は酔いのまわった頭で一生懸命思い出していた。
確かルーカスのベッドを買いに行って、直接店員と話してて…私は値段だけ確認して。
それがコレなの!
「そもそも私は二人で寝るなんて…。」
「何言ってるんだ?いつも一緒に寝てるじゃないか。」
まぁそりゃ確かに王宮に来てからはそうなんだけど。それはもともとアンタが床で寝るのが嫌でベッドに入って来たからでしょうが!
近づいて見るとベッドの上にバラの花びらでハートマークが作られている。
なんじゃこのサービスは!
私は思いっきり花びらを手でパッパと払うと、花びらがベッドや床に舞い散った。それがまた変な雰囲気を出してしまっている。
こんなベッドで二人で寝るなんて…前の簡素なベッドだとそんな雰囲気もなかったのに、この甘々な感じは本当にまずい。間接照明みたいなのもついてるし、これはまさしく新婚初夜!
「前のベッドはアリーがよく落ちそうになってたから取り替えて正解だな。」
いや、本当にマズイ…。せっかく意識しないようにしようとしてるのに。変な想像してまたドキドキする。
ルーカスは一体どこまでわかっててやってるんだろう…。
「アリー、どうした?気に入らないか?」
「えっと…。取りあえずシャワー浴びてくる!」
とにかく一時退散!
まずは一人で落ち着こう。というより先にシャワーとかも何かそれっぽくって、何もかもが変な想像をしてしまう。落ちつけ私!ドキドキしながらバスルームの鍵を閉めた。
ルーカスはベッドの上に腰かけるとアリーシャのいるバスルームをじっと見つめた。
「アリー、もっと俺にドキドキしてくれなきゃ。俺は君からのキスを待ってるのに…。」
ルーカスはそのままベッドにバタンと仰向けに倒れた。
そして今日一日繋いでいた手を唇に当て、匂いを嗅いだ。
「アリー、いつになったらまたあの時みたいにキスしてくれるんだ…。」
ルーカスは目をつぶりながら、ドアの向こうのシャワーの音を静かに聞いていた。
♢♢♢
シャワーを浴びるといつもの白いワンピースのようなパジャマに着替えた。
思えばコレも当たり前のように着てるけど、もしかしたらズボンとシャツみたいなのに変えた方がいいかも…。
バスルームから出てベッドの上に仰向けになっていたルーカスに声をかけると、入れ違いにバスルームに入って行った。お風呂もよく知らなかったのにだいぶ人間の生活に慣れている。
そう思いながら私はベッドの上に正座して考えた。
まず最初に思い浮かんだのが、このまま先に寝てしまうこと。私に危害は加えられないはずだから、寝ても襲われることはない。
寝たふりしちゃうって手もあるけど…。
問題は今日はルーカスに魔力を渡す日だ。先に寝てしまうと渡せない…。
やっぱりいつも通りルーカスが眠ってから寝るしかないか。
それまでなるべくドキドキしないように、とにかく落ち着いて、落ち着くのよ。
私はよくわからない気合を入れた、その時だった。
突然バスルームのドアがバンッと開き、上半身裸のルーカスが急に走って私を抱きかかえると布団をバサッとかぶせたのだ。
気づけば私は布団の中でルーカスに押し倒されるような形でかかえられている。
えっ…何…。
私の心臓はバクバクと音を立てた。
まさか、これって…。
「ルー…カス。あの…。」
ルーカスの瞳が薄暗い布団の中で金色に光っていた。
やっぱりこれって…。
「待って、二年の約束…!」
そう言いかけた時、ルーカスが「シッ」と口に指を当てた。
「アイツが見てる。アリーを探してる。」
アイツって…ルーカスが言うアイツを一人しか思いつかない。エスティオ王だ。
指輪で求婚されてから特に何もなかったから少し安心してたのに、何?部屋に入って来たってこと?
それにしては人の気配なんてまるでないけど…。
「とんだ変態野郎だ。こんな時間にアリーを覗きに来るなんて…。」
覗き!?もしかして魔法か何かで…。
私は背筋がゾッとした。自分の知らないところで誰かに見られてるなんて。
もしこれがシャワーをしていた時だと思うと…。
ドキドキする心臓でルーカスに手を伸ばし、私は彼に抱きついた。
一瞬ルーカスの体がこわばった気がしたが、彼はそのまま周りを警戒していた。
「何かの透視魔法だ。じっとしてれば諦める。」
そうして私たちはしばらく布団の中でじっとしていた。
抱きついたままじっとしていると、どんどん抑えていた気持ちが湧き上がってくる。
心臓もバクバクとさっきからずっとおかしい。
私…いつの間にルーカスのこと…。最初はただカッコイイってだけだったのに。
それでも魔物だということが頭の片隅でずっと引っかかっている。
あの黒龍の姿が本当の彼なのだと。
しばらくするとルーカスは抱きかかえていた手の力を緩めた。
「アリー、もう大丈夫だ。アイツの気配は消えた。」
それを聞いて私はすぐに抱きついていた手をサッと放した。体がものすごく熱かった。
ルーカスも私から離れようと体を起こすと被っていた布団がずれ落ちた。
その瞬間、私とルーカスの目が合った。
「っあ…。」
私は小さな声を漏らすと、すぐに目を反らした。
ルーカスの金色の瞳が、右目の涙ボクロが、ツヤツヤした黒髪が、そして引き締まった裸の上半身が目に飛び込んで来たのだ。
意識しちゃ駄目!私はすぐに顔を手で覆った。
「は…早く服着てよ。」
すると離れようとしていたルーカスはピタッと止まり、私の髪の毛を触った。
髪を触られたのに反応するように、私の体はぴくっと動き心臓はドキドキした。
「アリー、どうしてそんなに可愛いんだ…。俺がどれだけ我慢してるか知らないくせに…。」
私は覆っていた手を少しずらしルーカスを見た。
綺麗な金色の瞳がまたゆらゆらと揺らめいている。
「顔、見せて。アリー。」
「ルー…カス?」
私は視線を反らしながらゆっくりと顔から手を外すと、ルーカスは私の唇を触った。
また私の体はぴくっとした。顔は火照ったように熱かった。
「そんな顔しちゃ駄目だ。抑えられなくなるだろ。」
私はルーカスの顔をチラッと見た。
ルーカスはまた舌をペロっと出すと自分の唇を舐めた。
「今日の食事がまだだったな。」
そう言うとルーカスはまた私にキスをした。
しばらくしてなかったキスはやっぱり甘かった。
アルコールと魔力が体中を駆け巡って、私の心臓はずっとドクドクと波打っていた。




