第23話 街デート
それからルーカスとの微妙な距離が出来た日が続いた。
相変わらず「可愛い」だの「大好き」だののフレーズは連発していたが、何となく前とやっぱり様子が違っていた。うまく言えないが雰囲気とでもいうのだろうか。
気づくとルーカスは私をじっと見つめていた。そして私はその視線に極力気づかないふりをした。
魔力をキスしながら渡していたのが嘘のように、今は手を握って渡している。
一応、魔力交換もするがやっぱり手からだ。最初に魔力交換をした時のような、あの熱い感じは今はない。ただ魔力をコントロールするだけ。
体に流れる魔力を感じることが出来るようにもなったし、上手に渡せるようになったのに寂しさを感じるのはやっぱり…そう、なのかもしれない。
でもまだ認めるわけにはいかなかった。
もしかしたらこのままこうやって距離を保っていけば、少し芽生えたこの感情も消えるかもしれない。それならそれで、いいのではないかと思う。
もともと一人でいても平気だったのだから…。
「はい、これ。黒龍様に。」
グレイソンが私に黒に金の刺繍が入ったローブを手渡した。
「何ですか、これ?」
「今日は街に買いに行くでしょ。黒龍様がそのまま行ったら街はパニックになっちゃうから、これを着せてちょうだい。魔力が探知されにくいローブだから。」
なるほど。魔力の流れが感じ取れるようになってからわかったが、ルーカスは金色のオーラのような魔力を纏っている。それだけでもビビる人もいるらしいが、何かの拍子に攻撃態勢になると普通の魔力持ちは耐えられないらしい。
「ありがとうございます。」
ルーカスに渡すと早速ローブを羽織っていた。なかなか似合う。
ちょっとダークな雰囲気のルーカスもやっぱりカッコ…いや、考えるのはよそう。
「ああ、あとこれはアリーシャにね。」
「これは?」
「黒龍の刻印を隠すためのハンドカバーよ。その刻印を見たらわかっちゃうからね。」
「あ…確かに。」
私は真っ黒なハンドカバーをつけた。何か日焼け止め対策みたい…。
よく見たらこのハンドカバー、先ほどのルーカスのローブと同じ金の刺繍が入っている。
「今日はデートでしょ。ちょっとしたカップルコーデよ。」
グレイソンはニッコリと笑った。
「デ、デートって。ただの買い出しです!」
「デートって何だ?」
「ルーカス、あなたはちょっと黙ってて!」
「あらやだ。黒龍様ったらデートを知らないんですか?恋人同士が手をつないで街を歩いたり、買い物したり、ご飯を一緒に食べることですよ。あとは…。」
「もういいです、グレイソンさん!」
どこまで説明するつもりかわからないけど、それ以上言うのはやめてほしい。
私はルーカスの手を引っ張ると、「行ってきます。」と言って魔塔を後にした。
グレイソンさんも時々ああいうことを言うから困ってしまう。
今日は遠征のための服やポーション、それから買おうと思ってずっと後回しになっていたルーカスのベッドを買うのが目的だ。これはただの買い物であってデートなんかじゃないんだから。私は自分に言い聞かせていた。
♢♢♢
馬車に乗って街に降りると、そこは沢山の人でにぎわっていた。白い壁にカラフルな屋根造りの建物はヨーロッパのどこかの国のようだ。私はちょっと海外旅行にでも来たような気持ちでテンションが上がった。
「ねぇ、ルーカス見て!あの建物すごく可愛い。何屋さんだろう。」
「どれ?」
「あれよ、あの赤い屋根の隣の…。」
ルーカスは私の顔のすぐ横に屈んで顔を近づけた。
「どれのこと?」
すぐ横にルーカスの声がする。私は急に心臓が速くなった。
「あ…いや、大丈夫。」
そしてルーカスとは反対側に顔を向け視線を反らした。
そして誤魔化すように言った。
「それより早く服見に行かなくちゃ。」
私はそのまま行こうと歩き出すと、ルーカスが突然私の手をぎゅっと掴んだ。
「アリー、一人は危ない。」
またも私の心臓は穏やかじゃなかった。
「だ…大丈夫よ。ここは街だもの。」
「それでも、俺から離れるな。」
「…わかったから、手離して。」
「何で?」
「何でって…。」
「これはデートなんだろ。手はつながないと。」
グレイソン!帰ったら絶対ひとこと言ってやるんだから!
そしてなぜかルーカスは私の指に自分の指を絡めて、恋人繋ぎをし始めた。
「ル、ルーカス!」
「何?」
「何じゃなくて、手が…!」
「おかしかったか?さっきから恋人っぽい奴らはみんなこうしてるじゃないか。」
「っ…。」
そんな観察力はいらないってのに。人間に興味ない癖にそういうところはちゃっかりと見てるなんて、本当に抜け目ないヤツ。
こんなんじゃ、本当にデートみたいじゃない。今まで一度もしたことないのに初デートが魔物のルーカスなんて。どうしてこんなにコイツはカッコイイのよ!
「あれ…アリー、顔が赤いけどもしかしてドキドキしてるのか?」
「ち…違う!ちょっと暑いだけで。」
するとルーカスは着ているローブの中に包み込むように私を抱きしめると、小さい声で「嬉しい」と言った。そして抱きしめられたところから伝わるルーカスの心臓は私よりももっと速く波打っていた。
こんなのドキドキしないわけないのに。
いつまで私の心臓は持つのだろう。
「ルーカス…カッコイイよ。」
私が聞こえるか聞こえないかぐらいの小さな声で言うと、彼の耳にはもちろんはっきりと聞こえたのだろう。さらに私をぎゅうっと抱きしめた。
「アリー、可愛い…。大好きだ…。」
やっぱり何か違って聞こえた。
それは私が変わったからなのかルーカスが変わったからなのかは分からないが、確実に私たちは何かが変わろうとしていた。
♢♢♢
それから私とルーカスは服を見て回った。もちろんずっと恋人繋ぎで…。
ルーカスが変身して戻った時、裸にならないような魔導服はないかと探したらなんと見つかって5着も買ってしまった。遠征中はこれを着まわしてもらおう。
私の魔導服は支給されているものを着るので問題ない。そういえばスカートが短い件もすっかり忘れていたので、また明日にでも言おう。
それから街で売っているお菓子やホットドッグを食べ歩きした。
ルーカスが口の周りに着いたケチャップをペロッと舐める姿にまたドキリとしつつ、私はまた視線を反らして自分のホットドッグに集中した。
「アリー、ちょっと…。」
「ん?」
私がホットドッグを口にくわえながらルーカスの方を見ると、彼は急に顔を赤くした。
そして急にローブで私を隠すようにすると、ルーカスは私をじっと見下ろした。
「アリー、食べ終わるまでこうしよう。」
「ん?何で?」
すると私の唇のについたケチャップをルーカスは親指でぬぐい、それをペロっと舐めた。
私の心臓は飛び出るかというくらいドキッと音をたて、顔が急に熱くなった。
なんってエロい仕草を…。
ドキドキしながらルーカスを見上げた。
「アリー…そんな顔、絶対他のヤツに見せちゃダメだ。いい?」
「ん…うん。」
やっぱり心臓はうるさかった。
食べ歩きも一通り済むと今度はポーションを買いに行った。基本的には回復があればいいのかなと思いつつ、一応念のために全ての種類を買っておいた。店の人は少し驚いていたがまだ何があるかわからない世界。いつか何かの役に立つだろう。消費期限もなさそうだしね。
そして最後はルーカスのベッドを買いに行った。
珍しく自分で選ぶというので、ルーカスに任せた。店内を一通り見た後ルーカスは定員に決めたものを告げていた。私は予算だけ確認し、問題なさそうだったので二つ返事でオーケーした。
早速、今日届けてくれるらしい。部屋にセットしといてくれるそうだから、今日からルーカスとは別々のベッドで寝ることになる。こうやって少しずつ距離を保っていこう。
そうすれば、今日の昼みたいにドキドキすることもなくなるだろう。それでいい。
帰ってもベッドはセットされてないので、街のダイナーで夕食を取ることにした。
この世界ではお酒を飲むのに年齢制限などなく、子どもも普通に飲んでいた。
前は毎日一杯のビールを楽しみにしていたので、私は飛び上がるほど嬉しかった。
取りあえずビールと言いたいところだったが、それはなさそうなので皆が注文していたブドウ酒を頼んだ。ルーカスは別にいらないというので、普通のジュースを飲んでいたが何だかおかしかった。
明らかに私の方が年下なのに…。
ブドウ酒はワインよりも渋みもなく、ブドウサワーのように飲みやすい。調子に乗って私は三杯も飲んでしまった。
少し頬が熱く火照った感じがして、久々のアルコールに酔いしれた。
そしてルーカスに少し寄りかかりながら私たちは自分の部屋へと入った。
そこで私が目にしたものは…。
「何…これ?」
私の想像を超えたものがそこにはあった。




