第17話 王との謁見(1)
王宮内は想像を遥かに超えたところだった。巨大な宮殿が空中に浮かび、その周りを取り囲むように塔が建っている。そして広がる美しい庭園と、おそらく王族専用と思しき大聖堂がそびえたっていた。それ以外にもバロック様式の建物がいくつかあり、同じようなローブを着た人たちが慌ただしく出入りしている。
「うわ、異世界だ…。」
思わず私は呟いていた。特に宮殿が空中に浮いてるのが不思議で目が離せなかった。
私たちを出迎えてくれた男の人の後について歩いていたが、私は完全なおのぼりさんになっていた。
だから最初は気づかなかったのだが、私たちはかなりジロジロと見られていたのである。いや、私たちではなくルーカスをだ。それは彼も気づいていたようで、目を金色に光らせながら警戒していた。
「アリー、見られてる…。」
「うん、それは私も気づいた。」
「違う、もっと上だ。」
ルーカスは私の手をぎゅっと握ると「俺から離れないで」と言った。
そして上の方をひたすら睨み続けていた。
私には青く広がる空しか見えなかったが、ルーカスには何か見えているようだった。そして急に手を握る力が強くなったかと思うと、「アイツ、殺してやる」とボソッと呟いた。私がハッとしてルーカスに顔を向けると「アリーは俺が守るから」とだけ言った。
一体何が起こっているのかわからなかったが、私の身に危険が迫っていることだけは何となくわかった。
そして空中宮殿の前まで来るとノクスとディアナは別々の所に連れてかれ、私とルーカスは真ん中の建物の中へと案内された。中に入ると巨大な魔法陣が描かれており、そこに立った瞬間真っ白な光りに包まれた。その時あの書庫の時と同じものだとわかった。
そして気づけば先ほどの庭園が下に広がり、私とルーカスは空中宮殿の中にいたのである。
♢♢♢
ルーカスが目を光らせ警戒していた頃、ある男が巨大な水鏡を熱心に覗き込んでいた。
その男こそまさにここリュッセント王国の王にして空中宮殿の主、エスティオ王だったのである。
彼は若干20歳にして王位を譲り受けると、魔法研究に力を入れわずか5年で隣国より恐れられる強大な魔法都市を築き上げた。
しかし隙あらばと狙う隣国との緊張状態は続いていた。
そんな中、敵国のソリティア王国が吸血魔族を引き入れたとの情報が入るや、それに対抗するため以前より調査していた龍族の力に目をつけたのである。そしてついに1頭の黒龍に狙いを定め、王国から魔導師を派遣するも全て返り討ちにあい業を煮やしていた。そんな時、地方アカデミーの学生が黒龍を使役したと緊急で知らせが入ったのである。まさに渡りに船とはこのこと。
正直、黒魔導師は陰険な顔つきの暗い奴らが多いので好きではなかったが、黒龍を使役したとなれば話は別。黒龍が本気を出せば国一つなど容易いと聞く。王国魔導士として抱えれば隣国の牽制としては十分と、一応顔を確認するため透視できる水鏡の前に立った。
ほとんどの魔導師は知らないことだが、この水鏡を使えば王宮のどこでも自由に見ることができる。そして気づかれることはまずない。さて、どの魔導師かな。
エスティオ王は3人の魔導師と黒龍をその目で捕えた。
「あの黒髪が黒龍か…。随分と警戒してるようだな。それから…。」
黒魔導師はどれだ?もう少し距離を縮めるか…。
するとエスティオ王は一瞬、目を見開いた。
「なんだ…あの可愛らしい魔導師は…。ふわりとした金髪にキラキラとしたピンクの瞳。ぷるんとした唇にまだ男を知らない無垢な表情。私の好みドンピシャじゃないか。」
エスティオはアリーシャから目が離せなかった。
見てるとドキドキしてたまらない!こんなことは初めてだ!
そう思った時のことだった。
ちょっと待て…。よく見ると黒龍と手をつないでいるじゃないか!
もしかしてあれが黒龍を使役した黒魔導師か!?
エスティオ王はこの運命に笑いをこらえることが出来なかった。
最高じゃないか!
黒魔導師だと!あの子が黒魔導師!
何て素晴らしいんだ!私の理想がまさにそこにいる!
やはり彼女は私の運命だ!
ああ、あの子を俺のものにして色々したい!
その瞬間バチっとものすごい強い魔力が目に飛んで来た。
水鏡をチラッと見ると黒龍がギラギラした目でこちらを睨んでいる。
「っつ…黒龍君、なかなかやるじゃないか。でも君にはもったいないよ。その子は。」
そしてすぐに黒魔導師と黒龍をこの空中宮殿の謁見室に連れてくるように指示をした。
待ってて、もうすぐ会えるよ。
エスティオ王は顔のニヤ付きが止まらなかった。




