第16話 旅立ちの日
卒業式当日、優しそうな両親は私をぎゅっと抱きしめると心配そうに見つめた。
「元気でやるのよ、アリーシャ。」
「お前は俺たちの自慢の娘だ。怪我に気を付けるんだぞ。」
この時ばかりはルーカスは離れた位置で待っていた。気を使ってくれているらしい。ちゃんとそういうことも出来るんじゃん。
「うん。元気で頑張るね。心配しないで。」
たった数日しか過ごしていないこの体の父親と母親だけど、やっぱり体が覚えているのだろうか。それとも本物のアリーシャの魂がどこかに残ってそうさせるのか。私は自然と涙をこぼしていた。
王国魔導士は魔導師の中のエリート中のエリート。だけど危険な任務に就くこともあり、ほとんど家には帰って来れない。この世界に転生してまだ頼れる人も少ない中で、私には帰る場所があるんだというだけで何だか嬉しかった。
「じゃあ、行ってきます。」
そうして私は卒業式へと向かった。
♢♢♢
卒業式には皆、黒に赤のラインが入ったローブを着ている。そして巨大な大聖堂に集まり一人ひとり順番に指輪を受け取っていた。その指輪こそがこのアカデミーの卒業の印だと言う。太めのシルバーリングにエメラルドのような緑の石がはめ込まれていた。
「綺麗…。」
大聖堂のステンドグラスに反射して、宝石のようにキラキラしていた。隣にくっついているルーカスが興味なさそうに見ている。今日の彼はとても大人しい。よしよし。実は昨日の夜に人間にむやみに魔法で攻撃したら二度とキスしないと言ったのだ。やはりコイツにはこれが一番効く。
しばらくしてすべての卒業生がリングを受け取ると、何やら皆席を立ちそれぞれ誰かを探し始めた。そして声を掛け合いながら手を合わせている。一体何をやっているんだろう。
「ねぇ、ノクス。あれ何?」
「ああ、魔力交換しているんだよ。それぞれ魔法には対になる属性魔法があって、魔力交換すると自分の魔法がコントロールしやすくなるんだ。例えば火属性と水属性、僕のような風属性は光属性だね。あとは雷属性と土属性かな。」
「へぇ、そうなんだ。」
「アカデミーを卒業すると対の属性魔法を使える魔導師になかなか会えないかもしれないからね。大抵は同じ属性同士でまとまることが多いから。ただ、僕たちは王国魔導士になるから心配ないだろうけど。」
「なるほど。ところで黒魔法の対になる属性魔法は何なの?」
ノクスは少し言いにくそうにルーカスの方をチラッと見た。
「黒魔法は実はよくわかっていないことが多いらしくて、どんな魔法が使えるのかまだ研究段階なんだ。だから他の魔導師から敬遠されることも多くってね。確実にわかっているのは魔力交換をした魔物は使役できることくらいかな。」
だから黒魔法は魔物を使役することしかできないって言ったのか。
じゃあ、もしかしたらこれから新たな魔法が使えるようになる可能性もまだあるってことね。
私はそれを聞いて少しワクワクした。
「因みに魔力交換をすると魔法が安定するのよね。じゃあ、もう一度すれば何か違うのかな?」
「それは僕にもわからないな。使役した魔物に魔力を渡さないといけないのは知ってるけど、魔力交換を何度もするってのは聞いたことないし。何より魔物は自然に魔力が回復しないしね。」
「そっか…。」
すると会話を聞いていたルーカスが私の肩をトントンとたたいた。
「そんなに気になるならやってみるか?俺は後でまた魔力をくれれば別に構わないし。」
「ホント!」
私はこれで何か新しい力や魔法が目覚めればいいなと思っていた。ただ問題が一つある。それは皆がやるように手を握っても全然魔力が渡せないということだ。試しに昨日も手を合わせてみたが、やっぱり魔力を渡すことは出来なかった。なので二人きりの時にと思ったのだが、急にルーカスが私の腰を引き寄せた。
「じゃあ、遠慮なく。」
するとルーカスはあろうことかノクスや皆がいる前で、私に甘くキスをした。
初めて魔力交換をした時と同じように熱いものが体中を駆け巡り、ルーカスの魔力が流れてくるのを感じる。そしてやっぱり気持ちいい…じゃない!
私はルーカスをめいいっぱいの力で押し返した。
「ちょっと、ルーカス。何やって…。」
ふと見るとルーカスの顔が間近にあり破壊力抜群だった。右目のホクロが何とも言えず甘い雰囲気を出している。ルーカスがカッコイイのと、こんな公衆の面前でキスしたので顔から火が出るとはまさにこのこと。
「アリー、また顔を真っ赤にして可愛い!」
ルーカスがぎゅうっと私を抱きしめると、大聖堂のあちこちから悲鳴が上がった。
隣のノクスは頭を押さえてよろめき、なぜかディアナは喜んでいた。
そして私はやっぱりコイツを選んだのは間違いだったと思いっきり後悔したのだった。
ふらふらと歩くノクスとスキップを踏むディアナ、そしてルーカスに抱きしめられる私。
この4人を乗せた無人四輪車は盛大に見送られながら王都へと向かった。
♢♢♢
王都へ向かう途中のディアナは終始上機嫌だった。
「アリーシャ、今までごめんね。私どうやら勘違いしてたようだわ。まさかアンタは魔物が…ねぇ。」
彼女は私とルーカスをチラチラ見て、にやにやしている。
ノクスは手で目を覆い、うーんうーんと唸っていた。
ルーカスはルーカスで私の腰にしっかり手をまわし、離そうとしない。
「おい、女。お前は俺とアリーシャをどう思う。」
「とってもお似合いだと思いますわ。ええ。すごく!もう二人は運命の赤い糸でつながってると思いますわ。」
「そうか!人間は嫌いだがお前はいいヤツだ。」
「お褒めにあずかり光栄ですわ。」
もうこの二人の会話を何とかしてほしい。これじゃ、ルーカスが益々つけあがるに決まっている。
「ディアナ、お願いだからちょっと黙っててほしいんだけど。」
「あら、なぜかしら?私はあなたと黒龍様が超絶お似合いだと話しただけよ。」
彼女はノクスが私とくっつかなければそれでいいのだ。だから嬉しくてたまらないのだ。私とルーカスがキスしたのが。
「女、どんな所がお似合いだ?」
「それはもう、二人のラブラブな雰囲気ですわ。それに金髪と黒髪も相性抜群の組み合わせと言われてますのよ。」
「ホントか?」
「ええ!」
金髪と黒髪が相性抜群?そんなの聞いたことないけど。
「ちょっといい加減に…。」
と言いかけたところで、私は外の景色に目を奪われた。
初めて見る王都というものに。
今までいた草原と自然に囲まれた街の風景とは全然違う。
目の前に広がるのはまさしく中世の巨大都市といったところか。白で統一された壁に色鮮やかな屋根や飾り。そして目を見張るような大聖堂や宮殿のような建物が立ち並ぶ。
ここと比べて初めて分かった。私がいたところはどうやら田舎だったらしい。
私は思わず声を上げた。
「綺麗!」
王都の建物に食いつくように見る私に、ディアナは恥ずかしいからやめろと言ったが私はずっと見ていた。そしてルーカスはそんな私を見て微笑んでいた。ノクスは…ちょっと今はそっとしておこう。
しばらく街の中を走ると私たちは王都の中央にある王宮の前で降ろされた。
ゆっくりと私たちは降り、王宮の中へ足を踏み入れた。
こうして私の第二の人生は始まったのである。
第2章に突入します。ここからまた物語がどんどん展開していく予定です。
そしてアリーシャとルーカスの恋の行方も楽しみにしてもらえたらと思います!!
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