第15話 校長室にて
「おお!待っていたぞ、アリーシャ!よくやった。」
校長室に入るなり眼鏡をかけた白髪老人が両手を広げて歓迎していた。
長い白髪を後ろで一つに束ねた男性は、いかにも魔法使いのおじいさんと言った感じである。
「黒龍を使役するとは、我が校始まって以来だ!私にもよく見せてくれまいか?」
興奮気味にルーカスに近寄ろうとすると、私の後ろにいた彼はまたもや目を光らせて威嚇した。
「おおっと、そんな怒るでない。私はちょっと確認したいだけじゃ。ふぉっほっほ。」
笑い方まで想像通りだ。それが私はちょっと可笑しかった。
「ルーカス、大丈夫だから。何もしないで。」
「でも、アリー。コイツ何か胡散臭いにおいがする。」
「コイツじゃない。校長先生って言って。」
やっぱり私はお母さんだ。こんな大きな図体をして150年も生きてるのに、中身はまるで子供そのもの。これからは私がしっかりと躾てあげなくちゃ。
「どれどれ、じゃあぐるっと見させてもらうかの。」
黒いローブを纏った校長はルーカスの周りを一回りすると、立派な顎鬚をなでながら私の方へと向き直った。
「さて、アリーシャ。お前の右手を見せておくれ。」
私がさっと右手の甲を差し出すと、校長は珍しいものでも見るかのようにまじまじと見ていた。ルーカスはそれも気に入らない様子で、後ろからぎゅうっと抱きつきまた威嚇していた。
「これが『黒龍の刻印』か…。それにしても珍しい。」
「何が、ですか?」
「龍族の中でも黒龍は特に人間嫌いだと聞いておる。だから黒龍を使役する場合、血の契約によってしかされたことがないと聞くが…、この刻印を見る限りそうではないようだの。」
「そんなことも分かるんですか?」
「簡単じゃよ。血の契約の場合は刻印が赤くなる。だが、お前のは黒く美しい刻印だからの。」
「なるほど…。(知らんかった)」
「しいて黒龍が人間に心を許すとしたら、それは…。」
と言いかけて校長は私とルーカスを交互にチラッと見ると「ふぉっほっほ。」と笑って誤魔化した。何となく言いたいことは分かった気がする。
「さて、アリーシャ。これを渡そう。」
校長は私の前に筒のように丸められた一枚の紙を差し出した。私は丁寧に受け取り中を見ると、何やら文字が書かれている。そして私はこの時ものすごく感動した。
字が、字が読める!
もしかしたらこれもルーカスと魔力交換したせいかも!
と盛大な勘違いをし彼と契約したことを喜んだ。
「これは…。」
「卒業後の就職先じゃよ。黒龍を使役したことで、王国魔導士として受け入れたいと、向こうからお呼びがかかった。これは素晴らしいことじゃ。」
「王国魔導士、ですか?」
「そうじゃ。我がアカデミーから王国魔導士が3人も出るなんて、開校以来初めてじゃ。私も鼻が高い!」
校長がこれだけ喜ぶってことは、きっとものすごいことなんだろう。王国魔導士ってのも何だか響きがエリートっぽい。ちょっといいかも。
「明日、卒業式を迎えたら早速王都に向けて出発するがよい。必要な準備はこちらでしておくからの。まぁ最初の1、2年は見習いかもしれんが、王国魔導士は我々魔導師にとっては憧れじゃ。頑張っておくれ。」
「は、はい。」
何だかルーカスのおかげで就職先も決まって、ちょっと面倒なヤツだと思ったの撤回しなきゃ。
そういえば…。
「ところで、あと2人って誰ですか?」
「おっ、とっくに知ってると思っておったがの。いつも一緒にいるノクスとディアナじゃ。」
ノクスとディアナ!
ノクスはいいとして、あの鬱陶しいディアナも一緒なのか。ルーカスも強いって言ってたけど、これから先も一緒なんてちょっと憂鬱だ。
「明日はその2人と一緒に行くがよい。盛大に見送ってやろう。ふぉっほっほ。」
「あ、ありがとうございます。」
一応感謝の気持ちを述べて、私は校長室を後にした。
そしてルーカスは相変わらずべったりくっついていた。
♢♢♢
アリーシャとルーカスが校長室から出ると、ドルトル息が確認されたと聞き、王国から魔導師たちが派遣された。しかし王国魔導士ですら手に負えず傷を負って命からがら逃げ帰って来た。中にはいまだに意識が戻らず、重症な者もいると聞く。
アリーシャは平然としておったが、本当に不思議じゃわい。
元々魔力量の多い生徒ではあったが、今は私では計れんほどみなぎっておった。
魔力量や魔力が強い生徒を何人か見たことはあったが、これほどまでに一気に成長するのは見たことがない。まるで魂でも入れ替わったようじゃ。
今年はノクスといい、ディアナといい、本当に豊作の年じゃったのう…。
そしてアリーシャ…。
黒龍は狙った獲物は絶対に離さないと聞くが…まぁ、私の知ったことではあるまい。
ふぉっほっほ、げほほ。
当分、黒龍ルーカスには会いたくないと思ったドルトル校長であった。
第2章に突入するつもりが…(ーー;)
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