第13話 卒業式、前日(1)
翌朝、目が覚めるとまずルーカスを確認した。
よし、ちゃんとソファで寝ている。きちんと言いつけを守っているようだ。
やっぱり躾が大事だったか。
そう思いながら朝の支度をしようと、鏡を見ると首筋に赤くなっている部分がある。
「虫にでも刺されたのかな…。」
チラッとルーカスを見たが、彼はすやすやと眠っていた。まさか…ね。
そもそもキスマークだっとしても付けられたことがないので、それかどうかもわからない。
私は気を取り直して髪を整えようとすると、使用人が恐る恐る入って来た。
どうやら支度をしてくれるらしいが、ルーカスが気になるらしい。
仕方がないので隣の部屋で支度をしてもらおうと出て行こうとすると、ルーカスが突然バッと跳ね起き扉をバンっと閉めた。
「アリー、どこいくの?」
目をギラギラ光らせているので、使用人たちはビビッて腰を抜かしてしまっている。
でもなぜか私は別にコイツのことが怖くない。契約者だからかな。
「今日はアカデミーに行ってルーカスのことを報告するの。でないと私、卒業できないらしいから。さ、準備してもらうからそこどいて。」
金色に光っていた瞳は黒目に戻り、冷静になったようだ。それにしても本当にコイツは感情の起伏が激しい。カッコイイけど面倒くさい魔物だ。
「じゃあ、俺も行く。」
「えっ!」
「俺も行く。だって俺のこと報告するんだろ?それにアリーに変な虫がついてないか確認しないと。」
変な虫って…。実際に虫には刺されたみたいだけど。そう思いながら首筋の赤い部分を触った。
かゆくは…ないようだ。私は小さくため息をつきながら彼の方に視線を向けた。
「ダメって行ってもついて来るんでしょ。ルーカスの服も用意してくれてるみたいだから、それ着て待ってて。」
ルーカスは私の支度している間も一緒にいたいと言ったが、使用人たちがブルブルと首を横に振るので私は何とか渋る彼を説き伏せた。
そうして私は選んでもらった服に着替え、髪を整えてもらった。
やっぱり私の趣味ではない、可愛らしいワンピースのような服だった。
確実に似合ってるんだけど、やっぱり少しずつ変えていこう。どうも気持ちが落ち着かない。
そうして私は風魔法が付与されているという馬のない馬車のようなものに乗り、アカデミーへと向かった。ノクスと一緒に乗ったものと同じものだ。
おそらくルーカスには必要ないんだろうけど、彼も一緒に乗り込んだ。
そう、乗り込んだまでは良かったんだが、乗っている間ずっとコイツは私にぎゅうっと抱きついていた。こうなるともう、母親に甘える子どもだなと思った。
そういえばルーカスの母親は小さい時に死んだって言ってったな…。お父さんも出て行って。案外さみしいのかもしれない。
そう思ってちょっと頭を撫でてやった。彼は機嫌良さそうに、ニコニコしていた。
アカデミーに着くまでは…。
♢♢♢
アカデミーに到着して車(?)から降りようとすると、ノクスが嬉しそうに待っていた。
そして私が降りてくると駆け寄り、私の手を掴んだ。
「アリーシャ!君が今日、来たってことは無事に魔物を使役できたんだね。良かった!」
ノクスはやっぱりいい子だ。ずっと心配してくれていたに違いない。
「実は風魔法で君のことを追ってみたけどいなくて、本当に不安だったよ。」
何ていい子!やっぱり彼とはずっと友達でいてもらわなくっちゃ。
「ありがとう。ノクスが色々教えてくれたおかげよ。」
私はニッコリ笑った。
までは良かった。
次の瞬間、何かの魔法でノクスは一気にふっとび正面の建物にバンっと体を打ちつけた。
あまりの突然の出来事に何が起こったかわからなかったが、どう考えても後ろのヤツの仕業にしか思えなかった。
「ちょっと、ルーカス!一体なにやっ…。」
振り返るとルーカスはまたも金色に目を光らせ、冷たく私を見下ろした。
「アリー…アイツに色々教えてもらったって何を?手なんて握ってどういうこと?」
私はコイツが初めてちょっと怖いと思った。
それは魔物だからとかではなく、完全な異性として。
手なんて握ってって…コイツはそれ以上のことをしておきながら何をと思ったが、ここで怒っても得にならないことを知っている。
相手が怒っている時は、とにかく逆らわないことだ。
「ルーカス、ノクスには魔法のことを教えてもらってたの。私の幼馴染よ。」
「幼馴染?」
「そう、幼馴染。」
「ってことは、アイツはアリーの小さい頃からずっと一緒ってことだよな。」
「そう…かもね。(知らないけど)」
「ということは一緒に寝たり、お風呂に入ったりしたのか?」
「いや…それはないと思うけど…。(だよね。幼馴染って言っても他人だし)」
「なんではっきり答えないんだ?」
と言われましても、ノクスとはまだ2回しか会ってないし。と思っている間にルーカスは瞳をさらにギラギラと光らせ、そしてボソッと呟いた。
「アイツ、殺す。」
コロ…って、おい!
何物騒なこと言ってんの。
「ルーカス、落ち着いて!ノクスはいい子なの!敵じゃないわ!」
私はガシッとルーカスの腰に腕をまわすと、必死に彼を引き留めた。
「アリー、離せ!アイツは俺の敵だ!」
「何言ってんの!とにかく落ち着いて!」
「落ち着けるか!あと、アリーがアイツを名前で呼ぶのも気に入らない!」
気に入らなかったら殺すんかい!魔物ってやっぱり人間と感覚ズレすぎ!
何とかコイツを止めないと本当にノクスが殺されちゃう。
何とか止める方法を、何とか…!
「そんなことするなら、もう一生キスしてやんないから!」
私は叫んでいた。
一瞬シーンとなり、ルーカスの動きが止まった。
「アイツ殺したら、キスしないのか?」
「そ、そうよ!だから殺さないで。」
殺すとか殺さないとか、出てくるワードが物騒すぎて困る。でも効果覿面みたいね。何とかルーカスの怒りはおさまりそう。勘違いで暴走して本当、厄介なヤツ。
と思った時、もう一人厄介な子が現れた。
赤髪ウェーブの女の子。書庫に行くときにいきなり突っかかって来た、そう、ディアナだ!
「ちょっと!ノクスをあんな風にしたのアンタなの、アリーシャ!」
せっかくルーカスを抑えたのに、今度はコイツか…。
私は大きくため息をついた。
頼むから早く報告に行かせてほしい。




